第25話 デビュー戦
「ねえ。あなたたちカフェリーゼはまた迷宮に潜った経験はないんでしょ?ハンターフェスに参加するなら、基本的な知識はちゃんとおさえておいたほうがいいわよ。よかったらなんだけど、一度うちと一緒に迷宮探索してみる?」
ヴェロニカが食事の最中、会話の途切れで唐突にアベルに申し入れた。彼らはすでに意気投合していたし、出来るなら初心者である彼らに知識を与えたいとヴェロニカは思い始めていたのだ。特にアベルのように、正規兵だったりして腕の立つ初心者ほど、迷宮は命を落とす危険が高まるのだ。
「本当か、ヴェロニカ。願ってもねえ」
こうして最初の迷宮探索は決まった。デビュー戦にA級パーティ赤煌が付き合ってくれるという。もちろんタダではない。だがEランク程度のパーティに払う報酬で受けるという。この報酬は仲間たちを説得するためのいわば方便だ。既に同様に初心者パーティに同行してのレクチャーを何度かしている。
それはかつての後悔によるものだ。
ある初心者パーティ。彼らは初めて訪問したギルドで右往左往していた。ヴェロニカは冒険者登録の手伝いを行い、そしてお祝いと称しギルドの酒場で食事を御馳走してやった。その時にデビュー戦の計画を教えてもらった。洞窟での薬草採取だ。
嫌な予感がした。アドバイスを念入りにしたが、彼らは迷宮から戻ってこれなかった。簡単な依頼のはずだった。だが、モンスターに不意を突かれ、陣形が崩れたまま反撃さえ出来ずに全滅したのだ。
もっとちゃんと教えておけば。その後悔の念が、ヴェロニカの行動を変え、結果的にその後の彼女の名声を高めたのは運命の皮肉としか言いようがない。
彼女は名声を求めたわけではないのだから。
夜の部の開店時間に合わせてモルガナが店に行くと、そこに見知らぬ少年がいた。
「先輩。えーとモルガナ先輩ですね?ボクは今日からここでバイトをさせていただくことになりましたエミリオです。17歳です。よろしくお願いします」
200歳です、とは言えない。まあでも15歳くらいだ。そういうことにしておこう。
「あ、モルガナです。そんな、先輩だなんて……。多分私の方が年下です」
ウソだけど。
「へえ……。でもこの店の看板メニューを考案し、先日もギルド食堂の新メニューを作った凄腕料理人だと聞きましたよ」
「たまたまです。あと敬語やめて」
「そうですか。じゃ、何歳なの?」
「多分、15……」
「だとしても。改めて挨拶させて。ボクはエミリオ。キミに憧れる料理人兼冒険者、というか食材ハンター。よろしくね」
「ふふ。よろしくね、エミリオ」
日常はこうして少しずつ回り、やがて初心者パーティ、カフェリーゼのデビューの日がやってきた。
場所は地下1層の踏破済み迷宮。そこの最奥部にある苔の採集だ。薬の生成に使われるのだという。
迷宮に入り口ベースを設営し、二つのパーティは自己紹介をした。
カフェリーゼの四人。王城の門を守るアベルとカーターはそれなりに顔を知られている。それでも冒険者の間ですでに有名なのはモルガナだ。登録した初日に冒険者ギルドの酒場で暴れ、そこにいる全冒険者を屈服させたという逸話を持つ。
「あの、それ事実じゃないですから……」
「だが世にも珍しいホワイトの冒険者カードを持っていると聞いたぜ。見せてくれよ」
そういうのは赤煌の前衛、自称麗しき美剣士のルカだ。長い髪をなびかせた細身の剣士。片刃の長い曲刀を使う。
「うう……」
「こ、これは……」
本当に白い。それを見てくすくすと笑うルカをヴェロニカが窘めた。
「失礼よ。他者へのリスペクトを持てないのは二流の証し。先代の教えを忘れないで」
ヴェロニカのそのセリフにモルガナの目つきもジト目になる。
どの口が言うんだよ。
とはいえ、ヴェロニカの善良な人柄、或いはそのヴェロニカが尊敬しているという先代エオリアの人間性に集まったメンバーだからだろうか。
赤煌のメンバーはいずれも気のいい連中だ。
前衛はルカ、そしてもう一人。いかにもタンクといった体つきののアーロン。1.5列目を担うのが魔法剣士のヴェロニカ。魔法剣士は滅多にいない稀少なジョブクラスだ。そしてプリーステスのブラメーデ。シーフ兼アーチャーのタジル。
そして最年長の魔法使いゼリオール。彼は小柄な白いひげの老人だ。ルカとアーロン、ブラメーデ以外は先代からのメンバーだ。
ゼリオール……?
モルガナは首をひねった。どこかで聞いたことがあるような気がしたからだ。モルガナは魔法使いではない。魔女だ。魔法使いという範疇を飛び越えた存在として王宮からは認識されていた。
宮廷にまっとうな魔法使いを招きたい。それは王宮と王国魔法省の悲願であった。なにしろ黒い魔女といえば政治には口を挟むが魔法に関することは何もしない。たまに敵対勢力に対し、巨大な範囲攻撃魔法を披露して示威行動には協力してくれるが、それは魔法というより外交、すなわち政治だからだ。
相手がドン引きするような殲滅魔法は味方さえドン引きさせていたが、それで王国の魔法技術水準が上がるわけではないのだ。
まっとうな魔法使いを招きたい。
そう、白羽の矢が立った、そのまっとうな魔法使いの一人がゼリオールだ。




