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第23話 パーティ名はかっこいいのにしたい

 アベルは悩んでいた。パーティ名だ。それが決まらないため、パーティ登録が出来ていないのだ。

「エリカちゃんに参考例を聞きに行くか」

 名案だった。多くの実在するパーティ名を知る事により、浮く名前、浮かない名前の判断力が付く。


「あらアベルさん。今日はお一人?」

「ああ。大事な用があって今日は休みを貰った」

「大事な用?」

「そうパーティ名を決めたい」

「うんうん。何か迷っている候補でも?」

「いや何も思い浮かばん」

「そうですか……。でもアベルさんは王都の正規兵ですよね?なぜ冒険者に?」


「よく聞いてくれた。俺たちはハンターフェスティバルに出場する」

「まあ、今から準備を?数年遅かった気もしますが、いやしかし。大事なのは踏み出す一歩です。その気持ちをパーティ名になさっては?」

 さすがはギルドの受付嬢だ。結論に導くプロセスに無駄がない。ストロングハートだのフェニックスマインド、略してフェニクスだの、どうとでもなるのだ。


 しかしアベルはここから先に進めない。その気持ちを咀嚼し、まとめ上げて言語化するのが難しい。例えばストロングハートは近いようでまるで別物だ。

「ですよねえ……、うーん」

 エリカも困る。ここから先はアベルたちの問題だ。

「あの……」

「ん?」

「参考例が欲しい」

 結局、マネっこかよ。


 しかしそれでもエリカは丁寧に説明した。

「たとえば王国唯一のS級パーティ、マグダ・レガリナはそのリーダーの愛した女性の名にちなんでその名前に改名したそうです。あとはエオリアさんも在籍していた……」

「エオリア?」

「あ、昨日の剣の女性試験官です」

「ああ、あの棒立ちのまま素手で頭を叩かれ気絶した?」


「え、ええ……。まあ」

 本当にアデルは分かっているのだろうか。

「ま、まあ、そのエオリアさんがいたA級パーティ赤煌は……」

「しゃこう?」

「はい。赤い煌めきと書きます。深紅の閃光と呼ばれたリーダーにちなんだ名前です」

「深紅の閃光。すげえ強そうな名前だ」

「そうでしょ。それがエオリアさんなんです」

「え、あの虚弱体質が……」

「……」

 ギルドで働くエリカにとってこのギルドを本拠地とする上位パーティは誇らしい存在なのだ。そのことが目の前の男に伝わらないことが歯がゆい。そのエリカは背後に何やら尋常ではない気配を感じた。


「ふ、ふふふ……。あのレオリアさんを虚弱とは、聞き捨てならないな」

「ひいッ」

 エリカが振り返ったその背後にいたのは、胸元をはだけた赤のプールポワンに黒のピッチリしたズボン。ブラウンのロングブーツ。ショートカットを髪を後方に流すようにセットした真っ赤なルージュの女性騎士。いやこの場にいる以上、冒険者か。

「ヴェ、ヴェロニカさん、ちち違うです。これはその、彼は昨日ノービスクラスを取得したばかりで何も知らず、そ、そうだ、アベルさん、早く謝って。この人はレオリアさんの後ついで二代目赤煌リーダーとなったヴェロニカ・アルダンフォークさんです」


 アベルも事態を理解した。彼は本来現実的な思考と常識をわきまえた王国の兵士だ。直ちに立ち上がって非礼を謝罪した。

「知らぬこととはいえ、申し訳なかった。エリカ嬢の言う通り昨日ノービスなったばかりで舞い上がっていた。どうか謝罪を受け入れて頂きたい」

「ふふ。素直に謝ってくださるなら、こちらもそれ以上事を荒立てるつもりはありません。赤煌の二代目、ヴェロニカです。今後ともよろしくお願いします」

 よく見ると別嬪だ。

「こ、こちらこそ」

 アベルが握手の状況を利用して必要以上にしっかり美人の手を握る。


「ああ、よかった。ヴェロニカさん、寛大なお心遣い、有難うございます。アベルさん、ヴェロニカさんは赤狼の異名をとっていて冒険の間じゃあ雲の上の存在で、おいそれとは口も聞けない方なんですよ」

 そう説明するエリカもどこか誇らしげだ。


「狼の異名にアルダンフォーク……」

 アベルの呟きも聞き逃さない。

「さすが王城の門番。察しがいいですね。ヴェロニカさんはあのアルダンフォーク家のご出身なのです」

 狼を紋章とする貴族だ。


「エリカ、やめて。私は確かにアルダンフォーク家に縁があるけど、正確な出自を言えば妾の娘なのよ。母は肩身が狭かったかもしれない、けど父は私をかわいがってくれて、十分な教育の機会を与えてくれたわ。それで魔法と、兄たちに混じって剣を収めた。父と母への感謝の気持ちは変わらないけど、今は貴族の家とは関係のない只の冒険者、ヴェロニカよ」

 生来の強い芯をもった精神性と貴族の娘として磨いた教養の知性が燃える瞳に宿っている。

 なるほど、確かに並じゃない。


 それに受付嬢のエリカだっていつも賢く、なおかつ親切だ。ギルドという場所、そしてそこに集う人々への認識を少しずつ改めていくアベルだった。


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