第22話 ザ・ルーキー
ギルド内には酒場兼食堂がある。荒くれの冒険者相手だから真昼間からでも酒が提供される。料理も無骨なものが多い。
「おしいね。もう少し香辛料を効かせればお酒になお合うのに」
仲間集めの前に、とりあえず腹ごしらえを始めたところでぽつりとつぶやいたモルガナの一言を大きなシェフ帽をかぶった太った男が聞きとがめた。
「いうねえ、お嬢ちゃん。ガキに酒の味が分かるのかい?」
「ふふふ。このお肉、あなたが切り分け焼いたのね?」
「そうだ、それが何か?」
「フランベのお酒の酸味が少し強い。とはいえ熟成期間はそれほどでもないようだけど薫り高い。たぶん、その年のブドウは豊作だったうえに例年より薫り高かった。きっとその分糖分は少な目で酸味の強いブドウで作ったお酒。でも香りを保ちやすくフランベにはちょうどいい。豊作もあって安いし。そう思ったんじゃない?」
「おもしろいことを言う。おごってやろう。飲め」
男は別のお酒を運ばせた。
クイッと飲んで蕩けた表情のモルガナ。
「ああ、おいしい・・・。おごってやるからあんたも飲んで」
自信があるのだろう、煽られたシェフが応じた。ハイペースで呑み比べが始まる。なぜか自ら進んで参戦してきたカーターとアベルが、にもかかわらず早々に酔いつぶれた。ベリアスは白けたような目で見ているだけだ。
シェフが瓶ごと一気飲みすると周囲を囲んだ観客が湧く。
「やるじゃない。でも飲み方に品がない。果実の嘆きが聞こえるようよ。貸しなさい」
言葉とは裏腹に、まったく同じようにモルガナが一気に飲み干した。
「あら、ブドウの産地が変わったのね」
「わ、分かるのか?」
「そりゃ、もう」
シェフがそこでダウンした。
「そんな……うそでしょ。こんなことって。あれからどれほども時間が立っていないというのに……」
上半身裸になっている男もいる。その横でテーブルに上がって踊り狂っているのもいる。酒樽を持ち上げて浴びるように飲んでいる酒豪もいる。全ての真ん中に陣取り、頬杖で酒を飲んでいる少女の奢りだという。これほどの人数でも奢ることは可能だ。なにしろ彼女は黒い魔女のお金を持っている。大金だ。
「モールガナ!モールガナ!」
男たちが彼女の名を叫んで讃えている。
外で食事を済ませて戻ってきたらこのザマ。今日初めてギルドを訪れたピカピカのルーキーだったのではなかったのか。右も左も分からぬ初心者。申込書にあらぬことを書いて持ってきた無垢な少女。それを持っていたあの小さな手。それがいったい、なんでこのザマに……。その様子を呆然と見るエリカだった。
黒い魔女は強力な毒耐性を持つ。耐性と言うか毒無効(超レアスキル)。アルコールは体内に入った直後、直ちにパッシブスキルで解毒されるのだ。
だからモルガナは酔わない。酔うことが出来ない。
ただその自由な精神は、雰囲気に酔うことを許容している。
「昨日は本当にごめんなさい。調子に乗り過ぎました。とっておきのレシピを考えましたので試してみてください」
今日こっそり持ってこられ、店員経由で渡された手紙だ。昨日の少女だろう。モルガナと言うらしい。客たちがそう言っていた。
料理長バーモンドはスジ肉を集め、多めのたまねぎと指定された新鮮なキノコをバターとレモンで炒め、スジ肉の水分を丁寧に拭きとってから塩と胡椒で下ごしらえした。
この料理に合う酒も書いてある。レシピ通りに、下ごしらえした肉を玉ねぎとキノコの上に落としながら呟いた。
「あいつ、また来ねえかな」
昨日のことを気にして脚が遠のくなんて、それが一番嫌だった。
「ほれ、試食してくれ。もちろんタダだ」
「え、いいの?こんなこと初めてなんですけど、何かたくらんでますか?」
バーモンドの持ってきた皿に冒険者ギルドの受付エリカが警戒感を露わにした。
「いや、昨日の詫びが手紙で届いた。昨日は良い稼ぎだったからなにが詫びだか分かんねえが、モルガナとかいう小娘からだ。生意気にもレシピが同封されていたからためしてみたんだよ」
「モルガナちゃんか、不思議な子ですよねえ。そんじゃ遠慮なく……。ぱく。こ、これは……」
「そうか、うめえか」
この料理をメニューに加えとけば、モルガナはまた来るだろうか。
「そんなことしなくてもまた来ますよ。あ、でもメニューには加えた方がいいです」
「そうだよな」
こうして、パーティメンバーは増えなかったが、ギルドの酒場食堂のメニューは増えたのだった。




