第21話 化け物とポンコツ
「お前からだ」
エオリアは木剣の剣先をベリアスに向けた。
「構わんが、お前を地面に這わせればいいのか?」
「ちょっとベリアスさん」
エリカが説明を始めようとしたところをエオリアが制した。
「ふっふ。そう。その通りだ。それでいい。他のものは離れていろ」
そういってエオリアが木剣を構える。
「ふん……」
先ほどは私の剣の速度をご覧になられましたか、モルガナ様。さらに私は証明できるのです。いかに私が魔王の右腕に相応しいか!
「女、あの世で誇るがいい。生前最後の相手が私であったことを。ただ、姿かたちを保ったまま、綺麗に死ねるとは思うなよ!」
「へ?」
凄まじいオーラが立ち昇り周囲に満ちていく。禍々しくも美しい闇のオーラ。エオリアの全身がカタカタと震える。身体というか細胞が震えている。
生物の本能が震えている。万に一つも勝てる可能性のある相手じゃない。ようやく気付いた。
「ベリアス。怪我させちゃだめだよ」
「御意」
モルガナに釘を刺されたベリアスは、対峙する相手の側面を予備動作なしにスッと取り、ぺちんと手刀でエオリアの首の裏を打って勝負をつけたのだった。
次に、気絶したエオリアの代理の試験官を、カーターが簡単に打ち破って剣士の試験は終了した。なにしろ木剣を使った訓練は日々怠らないカーターだ。見事なものだった。
「ええと、最後はモルガナさんね。それでこのジョブクラス、ええと食事係り、というのは?」
彼女が提出した手書きの登録申込書を見ながらエリカが言った。
「はい。私は迷宮探索中にパーティメンバーの栄養状態を管理し、健康被害や死の危険性を減らす者です。睡眠時間や水分の摂取量など、必要な知識を使っていつでもパーティに安全と健康をもたらします」
「そ、そうなのですね……。化け物とポンコツが混在するパーティ、きっと有名になるでしょうね」
「エリカさん、ため息は幸せが口から逃げると言います。すぐに吸って」
「え?ああ、こ、こう?」
吐いたため息をすぐに吸わせる茶番にも、律儀に付き合いながらエリカはモルガナの登録申込書のジョブクラスを「なし」と書き換えた。これだと冒険者ランクがつかない。
だが冒険者登録だけは出来るのだ。ランクが付く場合は不合格がある。ランクのつかないジョブは不合格がないのだ。外部の者には知られていないシステムの不備、盲点だ。恐らく今回の男性三人は問題なく登録される。
モルガナだけは無理だ。
だが、彼女は迷宮で生き残る可能性がある。正しくは死なない可能性だ。それは彼女の言っていることを真に受けたわけではなく、仲間の技量の問題だ。ベリアスは破格の強さ。そして他の二人は分に応じた行動をとるだろうからベリアスの抑制になる。つまり無理をしない強いパーティだ。
ならモルガナだけが先に進む道を閉ざされるのは、少し酷だ。
それに登録しておくことでメリットも多少ある。ここでモルガナを不合格にしたところで、どうせ彼女は私兵扱いなどの手段で彼らと一緒に迷宮に潜るのだろう。
ならギルドのサポートを受けることのできる正式な登録冒険者の方が良いに決まっているのだ。
受付嬢エリカはそこまで考える。彼女の日常で、普段やり取りをしている冒険者がもう戻ってこないと聞かされる日ほどひどい気持になる日はないからだ。そんな日はしょっちゅうで、でもそれに慣れることなど無い。
だって彼女は優しいのだから。
4人に金属製の登録証が渡された。どのギルドでも使える共通の登録証。仲間集めでは必須のアイテムだ。
「Nランクってなんだ……」
アーチャーN。それがアベルだ。登録証は緑色のメタルカード。
ランクは100年前とは違い、A~Eの5ランクに加えSとNが追加されている。Nは初心者だ。ランクを上げるには冒険者として実績が必要になる。カーターは剣士N。
そしてベリアスは剣士Bだ。カードの色もシルバーで、二人と違う。
実績がなくとも試験で破格の成績を収めた場合、これまでCランクを取得した者が何人かいる。ベリアスのBはこのギルドでは初めてのケースだ。
「お前何ものだよ。別に大した腕には見えなかったけどなあ」
カーターがぼやく。据物は壊れていただけに見えたし、女試験官は何もしないままに素手で頭をはたかれただけで気絶していた。それだけのことではなかったか。アベルも頷いた。
この二人よりはよほどエリカの方が本質を良く見えているのだが、普段から試験を何度も見ているエリカとは、職業柄の違いでもあるから仕方ない。そもそもベリアスの動きは並の人間では簡単には把握できないのだ。
「ち、ちくしょう……。なんだよ、これ」
悔し涙を浮かべて呟くのはモルガナだ。
ジョブクラスもランクも空欄。そしてカードは白い。
「だってお前実技してねえし」
アベルとカーターがカードを覗き込んでゲラゲラ笑う。
この二人、始末しますか?
ベリアスが小さな声でそう言うのでモルガナはこの件はもう触れないことにしたのだった。




