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第20話 実技試験

 モルガナも当然、王都の中に引っ越すと同時に教会に登録済みだ。借家でも住民登録できるのだから。

 なお、なぜ教会がそれを行っているかというと、もともとは結婚式の祝福、新築の祝福、葬儀の鎮魂など、冠婚葬祭に関わる神事に必要な情報だったのだが、ある時からビジネスに利用できることに気づき、既得権益として今も彼らが仕切っているのだ。そして今や税の代行徴収まで請け負っている影の財務省兼総務省だ。賄賂も利用し放題で王国で強大な権力を有している。

 更に余談を重ねると、この教会を大陸聖教会という。名称の通り、その拠点は大陸中に広がっており、王国内に限った組織ではないのだ。


 受付嬢はこの後の手順を説明した。個人ランク、パーティランクを決めるための実技試験があるという。

「ははは。実技ねえ。お姉ちゃん、俺を知らねえようだな?」

「知ってますよ。門にいる兵士さんでしょ」

「その通り。王城の門番。つまり選りすぐりの勇士。つまり強い。分かるな?」

「分かります。でもここではその証明が必要なのです。でもカーターさんならきっと大丈夫。自信を持って」


 受付嬢のエリカに軽々とあしらわられて一行は奥の実技試験場に案内された。

 実技は登録ジョブクラスごとに分かれる。冒険者は個人で複数のジョブクラスを得ることが可能で、そのジョブクラスごとにランク分けがなされる。複数のジョブクラスランクを取得することも可能だが、効率は良くないので普通は一つだ。


「いいだろう。まずはリーダーの俺からだ」

 アーチャーのアベルだ。アーチャーの実技試験は的を射るというシンプルなものだ。但し、射的場は地面が足の長い草で覆われ。魔法で制御された的が出てくる仕組みで、弓の精度以外にも察知能力のほか、動作の迅速性なども問われる。


 ビヨンと的が草むらから飛び出す。

「おい、早くしろ」

「いや、普通は草むらがガサガサしてから飛び出す者だろ?いきなりあんなふうには出て来ねえ」

 的には命中したが、時間は要した印象だ。

「アベル。この試験にはコツがある。魔力で的を制御しているから魔力の動きがあるんだよ。それを感じとれれば察知できるよ」

 そう言うのはモルガナだ。

「な、なにい~」

 カフェのバイトに指導されるとは……!


 アベルは魔法が使えない。魔法はほぼ貴族の独占だからだ。しかし魔力そのものはいたるとこに溜り、またいたるところから漏れ出ていて、ただの兵士でも訓練を積んだものなら感じ取ることが出来るのだ。

「むん!」

「おおっ、的が姿を見せると同時に!」

 見事な一撃なカーターが興奮した声を上げた。今度は上手くいった。


 次は剣士だ。モンスターを斬る事が出来なければ、冒険者にはなれない。試験は二つ。試験官との実技に据物斬りだ。まずは据物斬り。モンスターの鱗で固めた巻き藁だ。これを斬れなくてはモンスターには歯が立たない。

「くらえ!王国守護の剣!」


 しかしバインと弾かれる。木剣で訓練を重ねた弊害だ。刃で引かなければ肉は斬れない。

「カーター。突いて。刺突でもいいんだよ!」

 ガキの指示に従うのは恥だが不合格はもっと恥だ。左手で据物を抱えるように引き寄せ、右腕で剣剣を身体ごとぶつける様にして据物を刺し貫く。


「あ、あれっていいんですか?」

 一団から少し距離をとっていた受け付けのエリカがいつの間にか隣に来ていた試験官に聞く。

「クックック。あれが王城の門兵ね……。無様なものだわ。ま。少しくらい大目に見ましょ。次の試験ではっきりさせればいいんだし」

 笑ってそう言うのは女性だ。長い髪に切れ長の深い瞳。試験官エオリア・ハウゼン。深紅の閃光の異名をとった元A級冒険者。妖艶な気配をまとう女冒険者だ。


 試験官などやらされるようになって、その日々は退屈に何事も起こることなく通りすぎるようになった。王都の正規兵が来たと、先ほどの連絡に期待してきてみれば、この体たらく。王国の現役正規兵がこの程度かと情けなくなる。


 更にもう一人の剣士が前に出る。門兵たちが連れてきた男だが、門兵ですらない。腕の程度は知れたものだ。

 一方、そのベリアスは背後を気にし、チラチラとモルガナの様子を盗み見ている。

「?」

 視線に気づいたモルガナが怪訝そうな顔をし、あわてて視線を逸らすベリアス。


 見ていて下さい、モルガナ様。いかに私が役に立つ男か、しかとお見せします!

 ベリアスはすっと据物に歩み寄った。


 見ている者にとっては歩いていないのに距離が縮んだ様な不思議な感覚。

「ん?」

 何をした?エオリアはその全てを把握できなかった。剣を抜いた気がしたが。ベリアスが踵を返し、すると据物が中ほどから斜めにスライドして半分が地面にドサリと落下した。

「な……」

 退屈な日々が弾力を殺し、硬くしていった感情の外皮。そこに亀裂が入る。そして瑞々しく溢れ出す。


 破格の化け物がやってきやがった。次は実技だ。

 興奮に指先が震えた。


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