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第19話 冒険者パーティ結成だ

 こいつは前に見たことがある、そう。北の山だ。あの時ヘルハウンドを追い払った魔人だ。危険な相手だ。だが今はそういう恐怖ゆえに青ざめたのではない。

 こいつは私の失禁シーンを目撃した。そう。漏らしたのを見られた。

 真っ青だった顔が今度は真っ赤になる。急激な血流の変化は眩暈を引き起こす。

 そのかしぎかけた体を男が支えた。

「失礼しました。立てますか?」

「は、はい」

 あれ?こんな感じだっけ?

「先日はあなた様が何ものかも知らずに大変失礼いたしました。そのおりの非礼、何卒ご容赦ください」

 何と片膝をついての詫びの挨拶。

 おいやめろ。注目されているじゃねえか。

「ほ、ほほほ、人違いですよ、お客様」

「いえ、モルガナ・ノクスヴァレイン様に申し上げているのです」

 こ、こここのやろう

「魔王様」

 その単語を口にしたとこころで、ゴチンとついに拳骨が、彼の頭に落とされた。

「ま、まあ、私としたことが、お客様、ささ、こちらへ」

 強引にイケメンの男性客を店外に連れ出すモルガナを、リゼと他の客が呆然と見ていた。

「だ、誰が魔王よ。あんた、この間見たこと忘れてよね!」

「も、もちろんでございます。お望みならこの目を抉って献上させて頂きますが、その場合、魔王様の先兵たるこの私のパフォーマンスが僅かに低下致します」

「だ・か・らあ。さっきからその魔王様って何よ!」

「またまたあ」

「あん?」

「あ、いえ。しかし、先代アルバス・バルザルド様から魔人たちの命運を託された当代の魔王様がモルガナ・ノクスヴァレイン様であることは隠れ無き事実。あの晩も並の相手なら私の目から逃げおおせることなど不可能。あなた様はどうやったのか、完全に私の前から姿を消しました。あの実力こそ何よりの証拠。魔王空位の100年、それもようやく終わりを告げることが叶います」

 魔人たちの命運を託された、ねえ……。

 そうそう。あいつ言っていた。確かに言っていた。受けたつもりはないのだけれど、あいつ返事も聞かないで……返事を言う前に……。

 ちょっと涙ぐんでしまう。

「そう、でも私に何を望むの?」

「寄る辺を持たぬ我ら。それでも我らに王が存在するという事実だけで明日の光を感じることが出来るのです」

「そうなんだ。ところであの晩私は名乗ったのだけど、自分は名乗らないのがあんたたちの礼儀なの?」

「以前にも魔人とそのようなやりとりが?」

「なぜ、そう思うの?」

「涙が……」

「うるさい、早く名乗んなさいよ」

「大変失礼しました。今の涙こそ伝承の事実を明らかにする証拠。あなた様は100年前に先代魔王と約束を交わされ、そしてその約束通り、今のこの場に立たれた。すべては先代魔王の残した言葉通り、私の名はベリアス・ルゴルメズル。当代魔王モルガナ様、忠誠をお誓いいたします」

 確かにアルバスは死の間際に記録を残す的なことを言っていた。100年後の魔王?その時だっておことわりだと思ったが、今あらためてその思いを強くする。その思いを知らずにベリアスが、いかにこの日を待ち焦がれたか熱く語っている。その昔、彼らの始祖は魔法によって作られたのだそうだ。彼らは少ない人口ながらも繁殖し、今に末裔を残しているのだ。人間の不始末。千年前のワルプルギス。最強の魔女の不始末、その面倒を当代最強の魔女が見ないで誰が見る。あの日の喪失を今日埋める。魔王になる気はこれっぽっちもないが、何もせずに見捨てるのも違うだろう。

「ベリアス。あんた冒険者ギルドに登録して」

「はい?」

 涙を拭って発せられた魔王のセリフに、ベリアスは自分の耳を疑っている様子だった。


 ベリアスは翌日、モルガナに伴われてまず教会に向かった。ここで住民の登録を行う。出自が不明だろうが、犯罪歴があろうが多少寄付を弾めば即日教会の台帳に名前が記される。これで正式な市民権をえたところで次にアベルが住む兵士の寮に向かった。アベルが寮から出てくる。カーターが一緒だ。

「おお、モルガナ。おはよう」

「今起きたの?もうお昼だよ」

「まあ、その、そちらの方は?」

 モルガナの横には身なりのいい長身の男がいる。片目が隠れるほどの長く青みがかった黒髪。金色に縁取りされた濃紺の上衣に清潔感がある。

「私はモルガナ様の従者・・・おふ」

 ボスッと脇腹をモルガナに突かれ、ベリアスが呻いた。

「あ、ああ、失礼……。モルガナの知人ベリアス・ルゴルメズルだ。よろしく頼む」

 アベルとカーター、ベリアスはそこで自己紹介し合った。

「とりあえずもう4人揃ったね」

 モルガナが言った。

「いや、しかし……」

 聞けばベリアスは剣士で前衛だという。アベルもカーターも前衛。そしてモルガナは食事係。前衛三人に戦闘力の無い後衛一人。バランスがいいとは言えない。

「実を言えば俺は剣より弓の方が得意だ」

 そう言うのはアベルだ。

 主役が後衛か……。まあ、それはいい。なかなかバランスが整ってきた気がする。

「よしギルドに行こう」


 王都のギルドは王国の中では二番目の規模だ。二番目という言葉だけであまり大きくない気もするのだが、実際には王都にある建物の中では王宮を除けば最大規模だ。そして建物の造りも豪華で立派だった。

「こんにちは」

 受け付けの前に立つと女性が笑顔で応対してくれた。

「あら、皆さん、ギルドは初めてですか?では冒険者登録からになります」

 ここで先ほどの教会での住民登録が意味を成す。教会では魔法による住民簿を作成しており、冒険者ギルドもそれを利用しているのだ。もちろんギルドは教会に莫大な利用料を払っている。そのおかげで個人の特定が容易になり管理が簡略化できるのだ。

「はい。みなさん、身元は明らかですので、ご登録いただけます」

 一人、いや二人は身元が明らかとは言えない気がするが、手順さえ間違わなかったら、このように事はうまく運ぶものなのだ。


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