第18話 ハンターフェスティバルは恋の狩人!
翌日、魔力探知を駆使してガランとパイクの痕跡を探し当て、そして土の魔法でみんなのお墓を造った。そしてその次の日の朝、王都に戻っておそるおそる様子を探る。この姿なら、魔力を使用しない限り、魔女たちにみつからないのではないか。そう思ったからだ。しかし、どうも遠目に見えるのは見たことのある男だ。
カーターとアベル。
彼らが存在するという事の意味。つまり、100年前ではない?もしくは彼らもまた100年飛ばされた?
そう言えば夜明けの塔には蔦が絡まっているし、城壁に崩落の気配はない。つまりは地震の影響を受けた気配がないし、塔は人が住んでいないように見えた。ならば相手の反応を探ってみるか。
「やあ」
「よお。なんだ、早朝の散歩か?いつの間に門から出たか知らねえけど、モンスターが出てこないとも限らねえぞ」
「だよねえ」
二人の反応で確信。確信は安堵という感情に取って代わられ、感情は次に胸を鋭く突き刺した。
カーターとアベルに涙を見せないよう足早に通りすぎる。
戻ってこられてうれしいからではない。平和で明るい王都の街並みを見た瞬間、言いようのない悲しみに胸をギュッと鷲掴みにされたからだ。地震による倒壊は発生していない。あれは夢なのか現実なのか。夢だとしてももっとうまくやれた。
喪失感が締め付けてくる。この平和をみんなで享受できたはずなのだ。その想いだけが虚しく駆け巡る。モルガナは路地裏に駆け込んだ。堪えることが出来なかったから。涙を堪えること出来なかったけど、必死に嗚咽を押し殺す。せめて誰の耳にも届かぬよう。
アベルがそわそわしている。カーターが言うのだから間違いないだろう。アベルは恋をしているのだ。今度のハンターフェスティバルで優勝し、その名声を携え、恋を成就させたい。プランは悪くない。剣の腕も立つ。だがハンティングは経験がものをいう。腕が立つだけでは駄目なのだ。
そもそもハンターフェスティバルに参加するのは大半がギルドに登録済みの冒険者たちだ。どちらかといえば、アベルには王都武技錬成大会のほうが向いているだろう。ただ、そちらは現役騎士や兵士は参加できない。民間人に負けたら恥だからだ。もちろんその本音は隠されてはいるが。
また貴族の参加する魔法競技会もあるが、アベルは魔法を使えない。だからハンターフェスティバル以外選択肢がないのだ。未踏破の迷宮に潜って持ち帰ったものの価値で優越を競う。
ズルをしないよう魔力を駆使したボディチェックは入念に行われる。そしてこの時代、価値のあるものは魔力を帯びているから、魔力でのチェックが有効であり、そのチェックの精度は高い。従って意外にも不正は殆ど成功しない。
逆に言えばモルガナの力であっても不正はしにくいのだ。
「ねえ、アベル。本当に出場するの?」
リゼの店で食事中のアベルのコップに、水を継ぎ足しに来たモルガナが聞いた。ハンターフェスティバルは4年に一度の開催。王都から馬車で一日以内の迷宮が対象となるが、対象迷宮はその都度変わる。今年がその4年に一度にあたり、今回の迷宮は王都から馬車で半日の、昔から知られた第七階層まである大規模迷宮だ。
「ああ、出るよ。これで俺も有名人だ」
「出ただけでは有名にはなれないよ」
「もちろん優勝するから有名人だ」
「ふーん。でも基本的に個人参加は稀で、ほぼパーティでの参加らしいよ。まさか一人じゃないよねえ?仲間の目途はついているの?」
「う~ん。モルガナ、食事係り頼めねえか?」
「パーティに入れってこと?えーと、今まだそんな段階なんだ」
最悪モルガナと二人だ。アベルではなくモルガナがそう思ったのだ。
最悪二人だと。彼女は頼まれれば、断るつもりはない。
なにしろ、そもそもの話にはなるのだが。
魔力探知、戦闘力、そして知識。自分で言うのもなんだが、王国、いや大陸に、自分に比肩する者などいない。そんなものは存在しない。生死の定かでない白い魔女を除けば、だが。
とはいえ、それを人前で披露することは出来ない。仮に単独参加なら余裕で優勝だ。だが別に優勝などしたくない。こんなことで注目はされたくない。だがアベルには何とか花を持たせたい。
どうしたらいい?
とりあえずは一緒に潜って上手くサポートすればいい。
しかし、その「上手く」をより上手く成立させるには、もう少し視線を逸らすだけの人数が必要だ。
「ねえ、アベル。仲間集めならギルド行きなよ。そしてついでに冒険者登録しちゃいなよ。登録自体は禁止じゃないんでしょ?」
そうなのだ。任務さえ果たしていればオフを副業で過ごそうがなにしようが構わないのだ。そして冒険者登録をしたものは警備兵になれないという法律も無い。メリットのほうはある。仲間集めだ。登録証によって互いに情報を可視化できる利点は仲間集めにある。
「さすがモルガナ。若いのにしっかりしてるな。で、いつ行く?」
一緒に行く前提かよ。
それでも人のいいモルガナはオフの時間を合わせて一緒に行く約束をしてやった。優勝などと大口をたたいてはいたが、内心不安で焦燥もあったのだろう。安堵したような笑顔が印象的だった。
弾むような足取りで出て行くアベルと入れ違いでその男は店にやってきた。
「いらっせー……」
モルガナの挨拶が尻すぼみに、そして男を見るモルガナの表情が青くなっていく。




