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第15話 白い魔女の魔法

「モルガナ……!」

 10人は横に並んで歩けそうな巨大な階段。その先に男女の姿。中年の男と少女。その少女は谷底に落下したモルガナだ。その瞳に驚愕が浮かび、そしてその次にみるみる潤んでいき、エメラルド色のその奥に深く悲しみを湛えていく。彼女は知ったのだ。ここに辿り着いたのが二人だとことを。それは同時にここにいない二人が辿り着けなかったということ。モルガナはそうと察したのだ。彼女の瞳を見詰めるセリオン・ラーカム。そこまで分かる男なのに。

 彼は、モルガナの瞳の表情の変化だけで、そこまで分かる男だった。そしてモルガナの隣、男の方にも見覚えがある。吊り橋で見た魔人だ。

「生きていたのか……、というか、なぜキミがそこにいる?」

「セリオン。私は魔人に話をきいたんだよ。それで、きっと私たちは共調できる。協力して生きて行けるんだよ。だから話を聞いて!話し合おうよ」

「だめだ、すでにモルガナは洗脳されている。ゼニア、彼女はもはや敵だと思え」

 剣を構えるセリオン。モルガナを庇うように立ちふさがるアルバス。その間に割って入ったのがゼニアだ。

「待って、セリオン。まずは話を聞きましょう?」

「ふん。人間にも多少は話の分かるやつがいるようだな」

「ちょっと、アルバス。言い方!」

 モルガナとアルバス二人のやり取りに、セリオンは複雑な表情を浮かべた。二人は仲がよさそうに見える。二人はいつから知り合いなのだろうか?最初から二人は繋がっていたのではないか?考えてみれば、あの危険な森に無防備に寝ていたモルガナはそれだけであまりに異質だ。その上、アルケロンを一撃で葬った強力な魔法。

 ゼニアはその様子に気づいたのか、セリオンを庇うように背にして魔人に言った。

「王都に蔓延する疫病、それってあなたたちの仕業じゃないの?」

「知らんな。どっちかと言えば自業自得だろ?蔓延の初期に大規模な範囲治癒魔法を試みたことがあったはずだ。それが疫病の原因を活性化させた」

 この時代、疫病の流行の原因とされたものは空気に混じる悪しき気配であり、それを人々は瘴気と呼んだ。目に見えるようなものではなく、吸い込むと体調に変化をきたす。この魔人が言うには範囲治療魔法は人間以外にも作用し、瘴気も活性化させたというのだ。

 はて?100年前に私以外にそんなことが出来るものがいたかな?


 見てはいないが白い魔女がそうなのだろうか。治癒魔法は白い魔女の得意とする祈祷系魔法の長所でもある。だとして魔法を使った際にこの世界の自分が気づかなかったのだろうか。王都にいない魔人でさえ気づいたのに。

 少なくとも誰かが大規模範囲治癒魔法を使った記憶はない。そもそも疫病などの病気を魔法で治すのは極めて難しいのだ。なぜかと言えば病変の所在やその原因が特定ができないからだ。外傷ならその部分を目視で特定できる。

 特定したその部分を魔法で元に戻すのだが、病気の場合は目視で分からないし、なぜ病気になったかでも魔法の効果の出方が違う。今のモルガナなら、複数相手に一度に治癒魔法を使うなど絶対にありえない。だが、単に活性化するだけなら?それなら根本解決ではないものの、回復の補助という意味なら有効だ。

 少し元気を取り戻せば、身体がもともと持っている回復力で病気が癒えることはよくある。それを狙ったのではないか。結果として瘴気もまた活性化したが。

 にしてもバカな魔法使いもいた者だ。頭はアレだが、魔法使いとしての能力は高いだけに始末が悪い。

「疫病の原因は人間にあるというの!?」

 ゼニアがアルバスの言葉を問い詰める。

「その人間も悪意でやったわけじゃねえだろ。多分だけどな」

 二人のその会話に割り込んだのがセリオンだ。

「王国には黒い魔女と呼ばれる魔法使いがいる。時折災厄をふりまくというから、もしかしたらやったのはその魔女かもしれない」

 いやいやいや。やってない、やってない。

「だが、だとしてなんのために?という疑問が残る。その魔女こそお前たちの手先なのではないか?」

「ちょっと、セリオン、そんなこと無いって!」

 だって、本当にそんなことないから。事実を知っているのは私だから。

「モルガナ、なぜそう言える?」

「それは……」

 事実を知っているという事と、その事実を公表できるという事はイコールでしばしば結ばれない。

 でも、そうなのに!

「まあ、いい。キミがそこまで言うなら一旦この場は退こうじゃないか。魔人よ、ボクはセリオン・ラーカムだ」

「アルバス・バルザルドだ」

 へ?

 そう言えばアルバスとしか聞いていなかった。苗字がバルザルドね。魔王バルザルドと同じなのかな?

「かあっ」

 その名を聞いて、一旦退くと言っていたセリオンがいきなり斬りつけた。

 ガキンと辛うじて弾くアルバス。

「ちょっとやめてよ!」

 モルガナが二人を止めようとすれば、ゼニアもセリオンに声を掛ける。

「落ち着いてセリオン!」

 そのセリオンの周囲を幾条もの光の軌跡が囲む。その軌跡がゼニアを弾き飛ばした。

「ごふ・・・ッ」

「ゼニア!」

 モルガナが駆け寄る。重傷だ。モルガナはゼニアの指輪をその指ごと掌に包み込んだ。自分の爪とゼニアが使う触媒を利用した祈祷系魔法だ。モルガナは魔術系魔法の専門家だが、祈祷系魔法が使えないわけではない。

「く・・・ッ」

 セリオンがゼニアとモルガナを背にするよう位置取った。

「セリオンよ、俺から仲間を守っているつもりか?そもそも仲間を傷つけたのはお前だろう?」

「……ッ!モルガナ、ゼニアの傷は?」

「大丈夫。気を失っているけど、命に別状はないよ」

「そうか、二人とも門の外で待っていてくれないか?キミたちを気にする余裕はないんだ。頼む。王都の人々の未来がかかっているんだ。モルガナ、キミに邪魔する権利は無いだろ?」

 その言葉にモルガナからも気炎が赤く立ち上がる。

「でも、だからそれって誤解なんだよ!」

「これ以上言うならキミも敵とみなす」

「なんでそうなるんだよ!」

「巻き込まれても知らないからな」

 セリオンの身体から凄まじい聖属性オーラが噴き出す。

「魔王よ、白い魔女から与えられた破魔の力、その身で味わえ!」

 左手をかざすとそこに黒い魔素が引き寄せられて渦巻く。魔人から魔素を剥がして吸い込む能力。いや、吸い込むというより二人は魔素を通じて接続され、一方からもう一方へ奔流の如く流れ込んでいく。そのように見えた。

 白い魔女に与えられた能力は、オーラエンチャントではなかったのか。この凄まじいまでの聖属性オーラはセリオン固有の能力だったのだ。

「う、うおおおっ」

 魔素を引き剥がされていくアルバスは苦悶の表情だ。



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