第12話 すれ違ってゆく
「いや、ちょ、ちょっと待って。お前なんか知らないよ!見たこともないし!」
「何をいまさら。まあいい。人間と一緒のようだし、その辺の事情もあるんだろ?なら、二人で話そうぜ」
魔人はいきなり剣で吊り橋を斬った。
「きゃああッ」
重力に引き込まれ穴の底へと落下していく魔人とモルガナ。見守る一行はどうすることも出来なかった。
モルガナは落下途中にかろうじて浮遊魔法の詠唱を完了させ、何とか安全に着地した。魔人も同じように底に降り立つ。
「俺の名はアルバス。正直に言えばお前をずっと待っていた。もちろん随分前に諦めてはいたがな」
「やめてよ、気持ち悪い」
「おっと。今度は80年前のこと、否定しねえんだな」
「そうだね。それよりは事実を知る事の方が優先かな」
「賢明な判断だ。知っていることは教えるが、なぜお前は年をとっていない?その話を先に聞かせてくれ」
一瞬逡巡したモルガナだが、意を決して口を開く。
「話せば長くなるけど、結果から言えば私は200歳まで生きた。そして死の間際、奇跡を起こす魔法を使ったんだよ。どういう奇跡が起こるかは術者にも分からない。ただ大抵は良いことが起こる魔法らしい。記憶をいろいろ失うけどね。それで私の場合は若返った。今の姿よ」
「200歳?計算が合わない感じだが?」
「だから話は長くなるって言ったじゃない。先回りしようとしないで」
そう言われてアルバスは苦笑した。
「まず信じてもらえるかどうか分からないけど私は100年先の未来からこの時代に来たのよ」
「うむ。理屈に合わん話だが信じよう」
「理解が早くて助かるよ」
「理解はしていないぞ。否定しないだけだ」
何かめんどくさいことを言ってくるが、この程度なら今後話し合える余地は大いにあると感じた。
「今から100年後、私は200歳になる。なぜ200まで生きたかと言えば私は二人いる王国最高の魔法使いの一人で、その魔法で寿命を延命していたのよ」
「俺と前回出会った日から大体180年とちょっとののちに寿命を迎えるわけだ」
「その通り。何よ、やっぱり理解が早いじゃない」
「その通りだ」
どっちなんだよ。
「うむ。年を取っていない理由は、とても理解の及ぶものではなかったが、否定しても話がすすまないので目をつぶろう」
く、くっそ
「それで新たな疑問が生まれた。お前はここに何をしに来た?時間を飛び越えてまで」
アルバスが別の質問をぶつけてきた。
「それが意図して過去に飛んだわけじゃないから、目的は無いんだよ」
「そうか。その言葉が本当だとすれば、お前は気づいていないだけかもしれんな。本当は目的があってのことなのに、当人がそれに気づいていない」
深いことを言われた気もするが、だとして分らないものは分からないのだ。
「なるほど。ちょっと理解できないけど、話が進まないからもうそれでいいよ」
「てめえ」
「てめえこそ」
そんなやり取りの中、ふっとアルバスの表情が緩んだ。
「まあいい。俺は名乗った。その状況で名乗らないのが人間の礼儀か?」
そう言われてモルガナも居住まいを正す。
「いいえ。申し遅れました。王国最強の魔法使い、宮廷魔術師モルガナ・ノクスヴァレインと申します。あ、“元”宮廷魔術師かも……。見た目が変わってから一度も出仕していないし」
「一度もか?人間の常識に詳しいわけではないが、多分クビになっているだろうな」
「だよね……」
どちらにせよ、この見た目では宮廷に向かったとて本人とは信じてもらえまい。
「まあ、しかし今は実際には100歳ってわけだ。王宮にいるという本物はな」
「あ」
そうだ。王都に行けばこの時代の黒い魔女がいる。白い魔女は見てみたいが、黒い魔女は困る。なら王都には行きたくても行けないのだ。
「なんだ、お前。気づいてなかったのか?」
「ままま、まさかあ?」
「ふん。いいだろう。お前の言うことは大体は信じてやる。それで、人間たちの目的は魔王様の暗殺だな?」
「う、うう……」
「その表情が答えなのだろうが、自分の口で言え。それが信用と言うものだろう。人間はウソを良くつき、相手を騙す。そう俺たちの間では言われているが、お前のその表情こそすでに真実を語っている。どう言おうと信じてやる。言ってみろ」
「そうよ。私たちの目的は魔王討伐よ」
「理由を言え」
「魔王が世界に害を為す存在だから」
「そうなのか?本当なのか?」
問い返されて言葉が出ない。
あたしたちは、その問いへの答えを用意しないまま、ここまで来た。




