第11話 ウソつき
思うのは、魔人とコミュニケーションは何の障害も無く可能なのだ。このことはもっと古い時代において、人間と魔人の間に垣根がなかったことを意味する。
生活もほぼ同じ場所に重なっていたり、環境を共有または上手く棲み分けしていたはずだ。だって言語に同一性があり、会話が可能なのだから。
私は100年前に戻った。ならもっと過去に戻れば、人間と魔人の間に垣根の無かった時代に行けるかもしれないのよね。
行く必要があるかどうかまでは分からないし、人間の立場でその必要性を今は感じないが。
一方で疑問も生まれる。どうして人間と魔人のハーフがいないのかという点だ。近縁種でも繁殖が出来ない種に対しては、性的魅力を感じない、生殖本能を刺激されないというのは時代を下るにつれ、深く研究されそして証明されていく。だがそれくらいはいつの時代だって見ればわかるのかもしれない。若いし見た目も整った異性だけどこいつはないな、とか。
大抵は見た瞬間に分かるものだ。
さて、勇者一行とモルガナ達だ。一行はモルガナに導かれるがまま、麓の気の生い茂った一角に来ていた。昼前、小鳥のさえずりがそこかしこから聞こえてくる。
「覆われし仮初の大地よ、その姿を現さん。ベイル・イクシオン」
地響きが起こり、斜面が崩れ、かつて自分で塞いだ穴が再び顔を出した。
「これは……」
「魔王城に続くルートよ」
「でも、どうしてモルガナがそのルートの存在を知っているの?」
ゼニアの疑問は一行の声を代弁するものだった。
「80年くらい前、あるところに皮膚病患者が隔離された村があったの。隔離というか、いつしか放棄されていったんだけど、村人は自給自足で懸命に生き、生活を良くする工夫をしていった。そしてある時、村人が温泉を掘り当てたのよ。温泉の効用は皮膚病に効果があって、村人の病気は癒えたんだけど、その後旅人が沢山立ち寄るようになり、宿が出来て栄えた。ただ地面の下を通っていた温泉が地上に吹きだしたことで地面の下が空洞になり、そこが抜けて穴が開いた。その穴こそ魔王城へ続く道と聞いたことがある。昨日聞いたよね?かつて温泉の出た村が、ここ」
「なるほど、その隔離の村がこの街の原形か。けど、どうして入口の場所までわかった?」
セリオンが質問を重ねた。
「こうするんだよ」
モルガナは両手の掌で卵を包むような手の形を作って呪文を唱えた。
コオオォォン……
掌の作ったその空間から共鳴音が響く。咄嗟のウソ。
でも誰も傷つかない。この先を進むに当たっての、無用な不安が生まれない。言葉の本当の意味において、騙していない。
「空洞の場所なら魔法で探知できるよ。ちなみに先に言うけどこの先の構造は不明だから、慎重に行かないとね」
一行はその言葉に頷いた。
洞窟の穴の直径はかなり大きく、一行が横一列になって歩けるほどだ。軽い登り勾配にはなっているが、きつい登り坂と言うほどではない。モルガナがあらかじめ用意して持ってきたランタンをもって中を照らしながら進む。
ほどなくモンスターが襲ってきた。数頭のヘルハウンドだ。ガランが振り払うように二頭を瞬時に仕留める。パイクが弓でさらに二頭仕留め、残った敵はその様子を見て部の悪さを悟ったらしく、脱兎さながらの逃げ足でその場から去って行った。
洞窟の内部はいくつか分岐する分かれ道がある。
「追いかけよう。ゼニア、マーキングを頼む」
分岐を曲がるたびに、どっちを選んだのか、後で分かるようにマーキングを魔法で行うのだ。分岐の選択、進む先はモンスターの逃げた方向。方針が固まった。その方針に沿って進むと、やがてランタンが不要になる。なぜかと言えば洞窟の中にあらかじめランタンが吊り下げられて、内部を照らしていたからだ。青白い炎。
「これは、蝋燭でもオイルでもないな」
ランタンを見てセリオンが呟く。
「なにかしら?モルガナ、知ってる?」
「魔法、みたいだね」
ゼニアの問いにモルガナが答えた。魔力がランタンから溢れている。それは魔法による光であることを意味した。
「魔王城が近いのか」
「そうだね。そんな気がする」
途中、底の見えない大きな穴があった。その穴の上を吊り橋が掛けられているが、人一人がやっと通れる幅だ。向こう側まではおよそ200メートル。吊り橋はいかにも老朽化している。
「俺が先に行こう」
先頭を買って出たのはガランだ。今回、一人づつ対岸まで渡り、二人目は一人目が渡り終えるまで待つことにした。吊り橋の崩壊を考え、橋を渡るのは最大でも一度に一人だけだ。
最も体重が重そうなガランが渡り終えたことで、後続に少しゆとりが出る。セリオン、ゼニアと続き、後はモルガナとパイクだ。
「最後尾は俺と決まっている。先にってくれ、モルガナ」
パイクが言った。
「う、うん」
本当は最後尾でいいし、むしろ最後尾を望んでいるのだがパイクとしては男の沽券に関わるのであろう。そこは議論しても仕方のない部分だ。やむなくモルガナは先に進んだ。吊り橋の半ばに至ったところでその男は現れた。吊り橋の上にその上からやってきたのだ。吊り橋を大きく揺らして男が着地する。
「やはりお前か。80年ぶりくらいか?いきなり自分で塞いだ穴をまた開けたから、おまえじゃないかと思ってたんだ。見た感じ、あまり変わってねえな。いや、むしろ若くなったようにも見えるぞ。やはり人間じゃあなかったか」
「だ、誰よ、お前なんか知らないよ!」
「ああ、俺は大分見た目が変わったからな。ほら、お前が温泉を村人に掘らせて地盤が沈んで魔王城に続く道が開いた時のこと、覚えているか?その時、自分で穴を塞いだじゃねえか。それに立ち会った魔人を覚えているか?俺だよ」
「あ、ああ!」
そうだ、こいつ。すっかりおっさんになったが、面影がある。しかし、モルガナのその反応に戦慄したのはセリオン達だ。
魔人の言葉を肯定したも同然の反応だからだ。しかも温泉を掘っただの、そのせいで穴が開いただの、そして塞いだだの、さっきモルガナ自身が伝聞として話した内容と完全一致だ。
伝聞じゃなくて本人じゃねえか。そもそも80年ぶりってなんだ?ええと、それから……、人間じゃないって、どういうことですか?




