第8話 リタ姉ちゃん
そうだ、魔蝶族がどこかに捕らわれているんだった。
「みんな、ニアの町に魔蝶族が捕らわれてるって聞いたのだけど、場所を知っている人がいたら教えてください。」
私はドレミーの隣に舞い降りながら、お願いしてみました。
「オルフィー飛べるようになったノ?ドレミーを抱えて飛んでほしいノ。」
ニョがノになってる!?ま、かわいいことに変わりないから気にしないけどね。
「長の屋敷の地下にある懲罰房です。私、ミサが案内します。」
群衆から一歩前に進み出た鬼神族の女性が答えてくれました。
懲罰という言葉に気分が悪くなります。何も悪いことなんかしてないのに…。
私はミサの後ろについて屋敷に入っていきました。
廊下の突き当たりまでいくとミサはしゃがみ込み、床についている取っ手をもって床板を持ち上げました。
中を覗き込んでみると、真っ暗で何も見えません。
「こんな真っ暗なところに閉じ込められているの?」
「はい、蝋燭や油がもったいないからと言って許してもらえませんでした…。」
そんな…。酷いよ、こんなの耐えられないよ。
ミサはランタンを腰に縛り付けて地下への梯子を降りていきます。
ドレミーに梯子は危ないかもしれないので、抱きかかえて飛んで降りようと思ったけど、羽が大きすぎて通れないのでは…。
この大きさ、何とかならないかなぁと羽を動かしていると、昔のサイズまでスススゥと小さくなるじゃないですか!
戻らなかったら大変と思い、大きくなれー!と念じたら、ちゃんと元の大きさに戻ってくれました。
これはいい発見をしちゃったね。大きくするのは今の状態が限界みたいだけど小さくするのは手の平くらいまでいけて驚きました。
背中の開いてない服を着たら、人間の群れに紛れ込めそうです。
床穴から頭を出して、ミサが「大丈夫ですか?」と聞いてきました。
いけない、つい夢中になっちゃった。
「大丈夫、いけるよ。」と言って、私はドレミーを抱きかかえ穴にダイブしゆっくり
と下降していきました。
ミサのもつランタンの灯りで辛うじて様子がわかりましたが、岩壁に囲まれた空間の一角に抉られてできたスペースがあり、鉄格子で出入りを制限されていました。
ここが懲罰房?
鉄格子を握って奥を覗き込むと、裸で鎖に繋がれた魔蝶族が一人座り込んでいました。
「助けにきたよ!もう人間はいないから安心して。」
「オルフィー?」
痩せ細り、虚ろな目をして顔をあげたのは、私のよく知る、近所に住んでいたリタ姉ちゃんだった。
「そうだよ、リタ姉ちゃん。オルフィー成体になれたの!人間もやっつけたよ!偉いでしょ。頑張ったんだよ。」
私はリタ姉ちゃんに向かって叫びながら、涙があふれ出て止まらなくなって、感情がぐちゃぐちゃになりました。
ミサが鉄格子の戸を鍵で開けてくれたので、私は涙を拭うことも忘れてリタ姉ちゃんの胸に飛び込みました。
リタ姉ちゃんは私を受けとめて、優しく背中をさすってくれました。
「頑張ったんだね。偉かったね。助けてくれてありがとうね。」
私は、リタ姉ちゃんの言葉に「うん」「うん」と答えることしかできず、ずっと泣いていました。
しばらくして泣き止んだ頃、ミサが毛布をもってきてくれたのでリタ姉ちゃんの体に巻き付け、探してきてくれた鍵で鎖も取り外すことができました。
「リタ姉ちゃん。こんな暗いところじゃなく、上に移動しよっか。」
私はリタ姉ちゃんの手を握って立ちあがらせようとしました。
でも、リタ姉ちゃんは首を振って立とうとしませんでした。
「私ね、歩けないようにされてしまったの…。」
驚いてリタ姉ちゃんの足を見ると、両踵の上辺りに、深い傷跡があったのです。
これ以上ないと思っていた人間への憎悪が一段あがりました。
どれだけ酷いことすれば気が済むのよ!
「そうだ、オルフィーね、魔蝶族のオリジンっていうのに進化したんだよ。」
私は羽を最大まで大きくしてリタ姉ちゃんに見せました。
リタ姉ちゃんは驚きを隠せない様子で言いました。
「それって、まだ空を飛べた頃の魔蝶族の羽?」
「うん、そうだよ。オルフィーは飛べるようになったの。」
「あの食いしん坊だったオルフィーが、こんなに立派な成体になるなんて…。」
「食いしん坊は忘れてほしい…。でね、オルフィーの鱗粉すごいんだよ。隷属紋も消せるし、癒やしの力も強いの。リタ姉ちゃんの足も治せるかやってみるね。」
パタパタとしてみると隷属紋は消せたけど、傷跡までは消えませんでした。
諦めきれず、ダメもとで羽から鱗粉を大量にこそぎ取って、リタ姉ちゃんの足首に丹念に塗り込んでみました。
すると、患部が光輝き、ついには傷跡も消えてなくなりました。
「どう?動かせそう?」
あまりの光景に衝撃を受けていたリタ姉ちゃんは、私の言葉に我に返り、足に力を込めてみました。
「動く!動くわ!」
今度はリタ姉ちゃんが私の胸に飛び込んできました。
「オルフィー、ありがとう。本当にありがとうね。」
私はリタ姉ちゃんを強く抱きしめ、込み上げる喜びを噛みしめました。




