第4話 ニア解放へ①
おじさんの心の叫びのような懇願の言葉に、私の心は揺さぶられました。
これを断っては女が廃るというものだよね。
「任せて、絶対にみんなを助けてあげる!」
私の言葉に、おじさんは眩しいものでも見るかのように目を細めていたかと思うと、左手で右手首を掴み、右拳を私に差し出すようにしました。
これは『自分の全ての力をあなたに捧げます』という鬼神族の忠誠の誓いのポーズだったはず。
受ける側のマナーを思い出して、私はその右拳を両手で包み込みました。
歳の差がなければ、ちょっと好きになっちゃったかもしれません。これ内緒ね。
おじさんはダルクという名前だそうです。
ダルクさんから聞いた話では、人間は魔族に隷属紋を施しているので、反抗されることも逃げられることもないから油断しているみたい。
しかも、この辺りは辺境地域だから娯楽もないので、支配のために駐在している人間も10人くらいなんだって。
それに対して生存し支配されている鬼神族は50人ほど。
魔蝶族のほとんどは都市部に連行されていったみたいだけど、1人は確実にニアの町に監禁されているって。
早く同胞に会いたいという気持ちが抑えられないよ…。
ダルクさんは、人間が油断して気づかないうちに隷属紋を消せるだけ消しておいて、一気にニアの町の人間を全滅させるという作戦をたててくれました。
『一気に』というのがポイントで、一人でも残すと隷属紋が残っている仲間を盾のように使われてしまい解放は困難になってしまうみたい。
そういう非道なやり口で攻められたから、能力的には魔族のほうが優勢だったのに次々と拠点を奪われてしまったんだって。人間は血も涙もないのね…。
この日から私は森に隠れて鱗粉を溜め込み、少しずつ野良仕事に出ている鬼神族の隷属紋を消し去っていきました。
ダルクさんが鬼神族のみんなに作戦をうまく共有してくれていたので、隷属紋を消しても今までと変わらないように畑を耕し続けて、人間に気づかれないように作戦を進めることができています。
鱗粉も元通りになるのに時間がかかるので、1日に1人しか隷属紋を消し去ることができませんでした。
そして作戦開始から3日目には、ダルクさんが計画を実行すると伝えてきました。
一人でも隷属紋が消えていることに気づかれると計画は失敗に終わるので、3人の鬼神族が自由に動ける状況になった今がチャンスなんだそうです。
深夜に同時に動き出して、人間を各個撃破するんだって。
人間を殺すってことだとは理解しているけど、同情する気持ちはこれっぽっちも湧かないよ。
人間だってドレミーの仲間をみんな殺したんだし、魔族のみんなを支配して好き勝手しているんだから。
「ダルクさん、私は何をしたらいいかな?」
ダルクさんは少し驚いたようでした。
「我が主は勇敢だな。気持ちはありがたく受け取るが、主を危険に晒すのは臣下の恥だ。お嬢ちゃんは森の中にでも隠れていてくれ。無事にニアを解放できたら呼びに行くからよ。」
「ううん、私は自由に動けるんだから役に立つはず。伝令役でも何でもやるよ。」
私の退かない決意の言葉に、ダルクさんは困った顔をしました。
「人間に見つかるようなことだけは絶対にしないでくれよ。」
「ダルクさんたちの迷惑になるようなことは絶対にしないって約束する。」
それから私は森に身を潜めました。
作戦は、深夜に一斉に飛び始める夜光虫の光を合図に始まります。
それまでに体を休めて英気を養っておかないとね。
暗くなってくると、ドレミーが目を覚ましました。
「オルフィー、緊張してるニョ?」
「うん、もう少ししたらニアの町を開放する作戦が始まるんだよ。夜光虫が飛んだら、私たちも町に潜入するからね。」
「いよいよだニョ。ドレミーもがんばるニョ!」
どう頑張るんだろうとは思ったけど、気持ちが嬉しかったので私はドレミーの頭を撫でてあげました。
そうしていると、緊張がほぐれていくのがわかりました。
「ドレミーがいてくれて心強いよ、一緒にきてくれてありがとうね。」
「ドレミーもオルフィーが一緒にいてくれて嬉しいニョ。」
一人じゃないって、こんなにも心を満たしてくれるものだったのね。
私は当たり前のように親や同胞と暮らしていたことが、本当は何よりも価値のあるものだったのだと、このときになって初めて気づくことができました。




