第35話 竜種
今後の方向性を詰めるために、私とリタ姉ちゃんとドレミーにキエム、部族を代表してダルクさん、フィズさん、ラーテルさんの7名で話し合いを行いました。
現時点で戦力を分散するのは危険だとダルクさんが力説したので、迅速より慎重の方向性で進めていくことになりました。
また、フィズさんが食料確保の重要性を訴えたので、バオーの町を拠点に周辺の町から開放を進めて、辺境地域全体を取り返すことになりました。
たしかに、慎重に戦いを続ける以上、安定的に食べ物を確保できないといけないもんね。
ニアの町の畑だって、ほったらかしにしたら荒れ果てちゃうだろうし。
ただ、ドレミーの能力のおかげで植物の生長を早めたりできるので、生産性は凄い高いみたい。
ドレミーが仲間でいてくれて、本当によかったです。
辺境地域は大陸南西部にあって、北部は大樹海に接し、西部と南部は海に面しているから、東部からの侵攻に備えればいいだけなので守りやすいらしいです。
辺境地域を完全に奪還したら、ドレミーの能力で東部に林を点在させて、森人たちが第一次防衛戦を形成するとのこと。
有利な地形であれば、森人さんたちの強さは格段に跳ね上がるからね。
それに、森の精霊ニンフであるラーテルさんが林に滞在することで、森が成長していくっぽい。時間をかければ点在した林が繋がっていって、1つの大きな森になり、東部からの侵攻を防ぐ自然の防波堤としても機能するって言ってたよ。
私には難しい話が多くて、ほとんど頷いていただけなのは内緒…。
決まった方針をみんなに説明・共有して、私たちは来た道を戻るようにバオーの町を目指すことになりました。
出発の準備を進めていたとき、大樹海の奥地の方角から、思わぬ来訪者がありました。
周囲を警戒していた森人さんから、こちらに向かってきている竜種の報告を受けたときは、かなり緊張がはしったけどね。
それというのも、竜とかドラゴンというのは魔界の住人からすれば恐怖の対象でしかないんだもん。大樹海の奥地に踏み入ったり、その上空を飛行したり、外海にでなければ遭遇することはないって教わってきたけど、会ってしまったら確実に殺されるってお父さんが言ってたし…。
だから、竜種は魔界の住人でもあるんだけど、交流はなくて畏怖する存在という感じなのです。向こうから接触してくることもないので、棲み分けができているといえば、そういうことなんだけどね。
報告を受けて、大樹海の外に逃げるのか相談する時間もほとんどないうちに、私たちの元へ竜種は到達してしまいました。
ダルクさんが私を庇うように前に立って、敵意があるのかを確認するってことしか決める時間がなかったよ…。
私たちの前に姿を現したのは、小型(フェンリルになったときのフィズさんよりは大きいけど)の地竜に跨がった人型の青年でした。
髪は燃えるように赤く、金色の瞳、引き締まった体をしていて、頭部には後方に伸びる2本の太い角が生えています。ちなみに美形です。
青年は地竜から降りると、私たちを睨みつけるように睥睨すると口を開きました。
「大樹海で騒ぎを起こしているのはお前たちだな?」
凛と響くその声で、私は身が竦んでしまいました。
見ると、進化を終えた強者以外は同じように身を竦ませているようです。
私も進化しているのに、どうしてでしょう…。
「この地で争いが起きたことは謝罪しよう。ただ、我々も大樹海での戦闘を望んでいたわけではないことを理解していただきたい。大樹海の縁を通過させてもらいたかっただけなのだが、人間どもに襲いかかられ戦わざるを得なかったのだ。」
ダルクさんは事情を説明すると、丁寧に頭を下げました。
それに対して、青年は興味も示さず私たちの観察を続けていました。
そして、ラーテルさんに気づいて目を見開きました。
「そこのニンフ、お前はカリン様の生まれ変わりではあるまいな?」
カリン様って誰のことだろう?竜種が様付けするなんて、すごいニンフ様だったんだろうなぁ。生まれ変わりってことは、お亡くなりになったのかな?
「カリン様を存じ上げませんので、私自身が生まれ変わりなのかを正確に答えることはできません。何分、つい先ほどニンフという存在に進化させていただいたばかりですので。」
ラーテルさんも何のことかわからないようだけど、何か答えないと怒り出しそうな威圧感があるから、言える範囲で答えた感じかな…。
「今、進化と言ったか!?」
青年の怒鳴るような問いかけに、再び身が竦みます。
「はい。元は森人でございました。」
青年はラーテルさんに近づくと、なんか匂いを嗅ぎはじめました。
乙女の匂いを至近距離で堪能するなんて、変態さんだったの!?
「おかしいな、カリン様の魔力をお前から感じるのだが。」
魔力の違いを嗅ぎ分けられるのかぁ、驚いちゃったよ。
文化の違いって怖いね…。
カリン様がどういうニンフ様だったのかは知らないけど、ラーテルさんが進化一回目でかなり強い存在になれたのは、もしかしたらカリン様が関係しているのかもって思いました。




