第28話 追手③
(ダルク視点)
フィズを後ろに庇うように、矢が放たれたと思われる方向に疾走する。
あの矢は危険すぎる。
光のようなものを纏っていたことから、魔法使いによる何かしらの付与が為されていたのだろう。でなければ、あの貫通力の説明がつかない。
それに、あの軌道の正確性。これもタレントによる力なのだろうな。
一刻も早く、討ち取らねばならない。それがお嬢ちゃんを守るために俺がすべきことだと腹をくくった。
お嬢ちゃんは命を繋ぎ止めただろうか。
鱗粉の奇跡的な癒やしの力を疑うつもりはないが、腹部を貫通されたのだ。
対応が遅れれば、手遅れと言うことも起こりえる。
側にいて守ってやりたいが、力に見合った役割を放棄することはできない。
定期的に矢が射かけられるが、森人程度の力で放たれた矢は纏った闘気を貫くこともできず、弾かれるように地に落ちていく。
時折、速く正確な矢が急所をめがけて飛んでくるが、光を纏っていないものは闘気の障壁を出して相殺できた。
一度だけ光を纏う矢が飛来したときは、障壁を破壊する一瞬の間に体を捻り急所は外した。
それでも纏った闘気すら貫通し、左肩に深々と刺さってしまったが、毒のようなものは塗られていなかったのは幸いだった。
「ダルク殿、大丈夫ですか!?」
後ろからフィズが声をかけてきた。
「問題ない、右肩が無事なら刀を振るうことはできる。接敵したら俺は弓使いを討つが、魔法使いはフィズに任せるぞ。」
「任されました!」
フィズの迷いない了承の言葉が響く。
その直後、ついに敵影を確認した。
大木の枝の上に弓をもった人間が一人、木の根元に杖をもった魔法使いと思われる者と、その前に金属製の小手と具足を身につけた者。
もう一人いたのか…。
連携されればフィズでは厳しいかもしれないが、やってもらうしかない。
先ほどから森人の矢に狙われなくなったのは、お嬢ちゃんが頑張ってくれたのだろう。
そうならば、犬人族は勿論のこと、森人も味方として駆けつけてくれるだろう
「フィズ、粘れば援軍が来るはずだ。死ぬなよ!」
「こんなところで逝く気はありませんので、私より御身の心配を。」
皮肉交じりの返答に笑いが漏れる。
では、心置きなく主君の腹に風穴を開けた不届き者を討ち取ろうぞ!
俺は他には目もくれず、弓使いへ向けて疾駆すると、奴は枝を渡るように高さの優位を守りながら奥地へ移動していく。
逃がすものか!
闘気の障壁を大地と水平に展開させながら、それを足場に階段を駆け上がるように追いかける。
タレント持ちの猛者とはいえ、空中さえも直進してくる俺とでは、移動速度に格段の差がある。
距離を詰められていくことを気配で感じとったのだろう、覚悟を決めたのか振り返って弓に矢を番えた。
そして、その矢は光を纏っているものだった。
しかし、人間の目からは恐怖の感情がありありと見て取れる。
鬼神族も弓を扱う部族だからわかるが、恐怖に身が竦んでいては、正確に狙いを定められるものではない。
それでも至近距離であり、避けるのは不可能だ。障壁も足場に展開しているため正面にまわせない。
ならば、斬るしかないのであろうな。
俺は体に纏っていた闘気を解除し、刀に闘気を込めた。
矢を凝視し、神経を集中し、思考を介さず目と手を直結させるように。
「この化け物が!」
罵る言葉とともに、矢が放たれた。
過集中状態にあり、一瞬であるはずの矢の飛来がスローモーションのように感じられる。
それを迎撃しようと動く自分の右腕さえもスローであった。
刀は矢尻を捉えるには遅すぎたが、矢が体を穿つ前に矢羽根を切り落とすことに成功した。
大きく軌道を逸らした矢は俺の右太腿を貫通し、バランスが崩れる。
もう敵は目の前なのだ、ここで足を止める訳にはいかない。
前方に最後の障壁を展開し、左足を全力で踏み込んで跳ぶ。
人間が慌てて矢を番えようとする姿に、相手が正常な判断力を失っていることを確信した。
この足では次の一歩はだせないのだから、後ろに跳べばよかったのにな。
その矢を放つ前に俺の刀が届くぞ。
次の瞬間、闘気を纏った刀が、敵の首を切り落とした。
勝つには勝ったが、ひどい状態だ…。
小袋を取り出し、鱗粉で傷を塞ぐが、貫通した太腿は痛みがとれず思うように動かせない。
皆、無事でいてくれよ…。
そう願いながら、俺は足を引き摺りフィズのもとへ向かった。




