第25話 キグナス視点
魔界を支配下において1年以上、実に順調だった。
呪術師のタレント持ちであるカーズが作り出した隷属魔法は有効に機能しているし、各町に魔界樹の魔力を受ける呪塊を持たせた魔法使いを領主として配置したことにより、魔族どもは各地に縛られ支配を逃れることもできない。
盤石の体勢が整ってしまうと、各地から食料等を徴収して自堕落な生活を送るだけ。
賢者のタレントを活かし、人間同士で争った戦争や魔界侵攻は心躍るものだったと懐かしささえ覚える。
元魔王の宮殿の玉座に座り、上がってくる報告に鷹揚に頷くのが今の俺の為すべきことの全てといっても過言ではないだろう。
初めのうちこそ、目新しい酒や艶めかしいサキュバスに身も心も溺れたものだが、なんでも続けば飽きるのだ。
そうだ、私は人生に飽きているのだ。
剣聖のタレント持ちであるレイドのように、まだ身を隠しているであろう魔族を探し出して殲滅する『狩り』に出かけるのもいいかもしれない。
そんなことを考えていたとき、玉座の間に名乗りもなくズカズカと入ってくる者がいた。
そんな無礼が許されるのはエピック級タレント持ちだけであり、現在この城にいるのは俺以外ではカーズだけだ。
「キグナス、問題が発生したぞ!」
カーズという男は歳の割に落ち着きがなく騒々しい。
しかし、変化を欲していたところだ。その問題とやらに興味が湧いた。
「カーズよ、何が起きたというんだ?」
「最初は誤差の範囲と思っていたが、魔界樹からの魔力供給量が明らかに減少した。こんなことは数百人規模で奴隷が一斉に死ぬ等の異変がなければ説明がつかない。」
「そのくらいのことは起こりえるんじゃないか?何処ぞの領主が暴走したとか、理由はいくらでも考えられるだろう。」
「もちろん、その可能性も考えた。しかし確認は必要と思い、常駐する魔法使いたちに遠距離念話の魔法で各地に確認をとらせたのだが、辺境の2つの町と連絡がつかないのだ。」
殺されたのだろうな。支配者側である魔法使いが人間側を裏切る理由もないのだから。
「その2つの町に駐在していたタレント持ちは魔法使いだけか?」
魔法使いだけなら、奇襲を受ければ簡単に殺されてもおかしくはない。
ただ、支配下に入っていない魔族の強者がどこかに隠れていたということだ。
そう思うと、俺は心が踊るようだった。
「バオーという町には、剣士のタレント持ちも1人駐在していたはずだ。レア級タレント2名をもってしても敗北したとみて間違いないだろう。」
カーズは大きな問題が起きたと考えているようだが、支配を逃れた者が結託して反抗を企てることなど、想定の範囲内だろう。
むしろ、遅すぎたくらいだ。
「それで、どうするつもりなんだ?」
「相手の規模も強さもわからぬからな。まずは調査隊を編制して辺境に送るつもりだ。」
ふむ、まぁそれで殲滅されるようなら、私自ら指揮を執る必要もないな。
「人選はどう考えている?」
「弓術士のタレント持ちと森人の支配を担っている魔法使いを組ませる。万が一敗北する場合、確実に情報を持ち帰れるよう強レアタレントの忍者を同行させよう。」
「遠距離編成か。接近されたときに脆いのではないか?」
「では、格闘家のタレント持ちも追加しよう。いささか慎重すぎる気もするが。」
カーズは考えが足りないな。
タレント持ち2人が殺されたとするなら、今回の編成でも危ういと考えるほうが自然だというのに。
まぁ、このくらいは乗り越えてくれないと面白味もない。
「レイドの奴を呼び戻しておくか?」
編成は楽観的でも、城の守りには慎重を期したいらしい。
無能なうえに小心者ときている。
世界唯一の呪術師にして、隷属魔法維持の要だから重用しているが、そうでなければ消してやりたいくらいだ。
「今回の調査隊が失敗したら呼び戻せばいいだろう。レイドなら嬉々として討伐に向かうだろうからな。」
カーズは、やや納得いかないようだったが、頷くとこの場を後にした。
古い文献には、まだ見ぬ強き種族の記載もあった。
残念ながら此度の魔界侵攻では相まみえていないが、どこかで息を潜めているのだろうか。
この永遠に続く単調な日々に、少しでも潤いをもたらす存在であることを祈るばかりだ。




