第15話 それぞれの戦い②
(ダルク視点)
俺の判断は正しかったのか、正直答えはわからない。
一緒に屋敷に潜入すれば、お嬢ちゃんを命に代えても守ってやる気概はある。だが、もし敵に周囲を取り囲まれたらどうだ?
一斉に斬りかかられたら、お嬢ちゃんに届いてしまう刃がないとは言い切れない。
そう思うと、一人で突入したほうが結果的にお嬢ちゃんは安全だと判断した。
俺が執務室に突入するまで、お嬢ちゃんは外で身を潜めていることになっている。
もし、俺がしくじって執務室にたどり着けなかったら、お嬢ちゃんはバオーの町から逃げればいいんだ。
そうすれば、次に繋がる。
魔界の同胞を解放するための絶対に必要なピースはお嬢ちゃんだ。
絶対に失うことは許されない。
できれば、魔法使いの抹殺まで俺一人で完遂したい。
はやる気持ちを抑えて、俺は廊下を駆け抜け、一階の踊り場に到着する。
ここから階段を上がれば執務室は目の前だ。
そのとき、上から猛烈な殺気を感じ、俺は転がるように前方へ避けた。
振り返ると、そこには階段から飛び降りてきたであろう、不敵な笑みを浮かべた人間の剣士が立っていた。
「おいおい、これを躱すのかよ。お前、普通じゃねぇな。」
余裕すら感じさせるこの佇まい。普通じゃねぇのはお前もだろう。
「敵として対峙したのなら問答は無用。お命、もらい受ける。」
「せっかちだな。隷属魔法をどうやって解除したか教えてくれよ。」
俺の斬激を剣でいなしながら、緩い表情を崩すことなく問いかけてくる。
人間がどれほどの研鑽を積めば、奴ほどの腕を身につけられるのか。
「お主のこれまでの研鑽の日々を思えば、敵で無ければ語り合いたかったがな。」
俺の連続斬りをいなしきったところで、人間から反撃に力任せの水平切り。
体躯は俺より小さいが、ここまでの切り結びで力は相手が上と確信している。
これを受ければ俺のほうに大きな隙が生まれると判断し、後方に跳んで避けた。
避けたはずなのに、俺の腹部から鮮血がほとばしった。
「悪いなぁ。俺の剣には魔法使いに風刃のエンチャントをかけて貰っている。見えない分のリーチがあるのは、さぞ戦いにくいだろう。」
悪いと思っている顔ではないな…。弱者をいたぶる腐れ野郎の目だ。
「それとなぁ、俺には研鑽なんて必要ないんだよ。俺は神に選ばれ、剣士のタレントをもって生まれたんだからな。」
タレント? 生まれもって剣士として完成していたとでもいうのか?
「お前はさぁ、そうとう努力を積み重ねて強くなったんだろう?それがさぁ、今ここで努力もしないで強い俺に殺されるんだ。最高に楽しいじゃねぇか。努力に使った時間を悔いながら死んでいくお前の姿を見られるのはなぁ!」
救いようのない奴だな。
しかし劣勢に変わりはない。
傷口からは今も血が流れている。鱗粉を使えば止血くらいは可能だがそんな余裕はない。
剣技も互角か相手がやや上ときている。
ならば、あれをやるしかないか。
俺は刀を鞘に収め、重心を低くして相手を睨みつける。そして安い挑発をした。
「自分からは斬りかかれないのか?それとも防戦しか自信がないのか?」
「はぁ?今、雑種の分際で俺を愚弄したのか?いいぜ、遊びは終わりだ。望み通りすぐに殺してやるよ。」
あのいけ好かないヘラヘラとした顔が、今や怒りに染まっている。
未熟だな、心の平静を保てなければ、その力も鈍るというのに。
人間のものとは思えない、加速したかのような踏み込みで距離を詰め、上段から斬りかかってきた。
踏み込みすぎだ、無駄に間合いが近い。
その微妙な隙を見逃さず、俺は体を半歩前に出し、刀身を鞘で滑らせ超速の一撃を繰り出した。
お互いの刃が体に到達したのは同時だった。
奴の剣は刃の根元が俺の肩口に食い込み、俺の刀は人間の腹部を横薙ぎにし、上半身と下半身を分断した。
「嘘だろ、タレント持ちだぞ…。」
そんなつまらない言葉を最後に、人間の剣士は絶命した。
俺も肩口から鮮血がほとばしり、意識が朦朧とする。
残りわずかな鱗粉で止血を試みるが完全には塞がらない。
あぁ、意識が遠のいていく…。
俺が死んだとて、またお嬢ちゃんを守る者は現れるはずだ。
お嬢ちゃん、死ぬなよ…。




