第10話 隷属魔法と魔界樹
これからのことを話し合わないといけないってことになって、私たちは長の屋敷の応接室に移動しました。
私は人間が攻め込んできたときは蛹だったから、正直知らないことだらけなので、いろいろ教えてほしいのです。
応接室に集合したのは、私とダルクさん、リタ姉ちゃん、ドレミーの4人です。
さっそく私は質問攻めを始めます。
「ねぇねぇ、奴隷紋ってどういうふうに体に刻まれるの?」
「人間どもは『隷属魔法』といっていたが、気を失っているときや眠っているとき、抵抗する意思がないときにその魔法をかけられると、体の一部に隷属紋が現れる感じだな。」
「じゃあ、抵抗すれば大丈夫なんだね。」
今度はリタ姉ちゃんが応えてくれました。
「そうもいかないのよ。魔蝶族の里が攻められたときは、子供を人質にとられて隷属魔法を受け入れないと殺すと脅されたわ。」
そっか、一人が人質にされたり隷属魔法の餌食になると弱みを握られちゃうんだね。
「隷属紋が刻まれたら、何でも命令に従わないといけなくなるの?」
これにはダルクさんが教えてくれました。
「多分だが、命令は3つまでだと思うぞ。『逃亡するな』と『人間に危害を加えるな』が常時命令されていて、あと一つで『農作業に勤しめ』とか状況に応じて命令を変えてくる感じだったな。命令されれば意思と無関係に行動させられてしまう。」
「人間なら誰でも命令できるの?」
「いや、隷属魔法をかけた人間が命令する必要があるようだ。」
ふむ、じゃあ魔法使いを倒せば新しい命令はでないってことだよね。
「隷属魔法にかかると、一生支配されるのかな?」
今度はリタ姉ちゃんが不思議そうに言いました。
「それが不思議なのよね。隷属紋に付与した魔力が薄れていけば効果は無くなりそうなものなのに。普通は魔法の効果って時間とともに消えていくはずなのよ。」
リタ姉ちゃんはサキュバスになって、使える魔法ができたみたいだから、魔法のことがわかるみたい。
「そういえば、扉が開かなくなる魔法も人間が死んだら消えてたね。それにしても、魔法って強すぎない?」
私の困った声にダルクさんが希望を返してくれました。
「そこまで万能じゃないぞ。詠唱ってのに時間がかかるんだ。武器をもって対峙したら、詠唱してる途中でやられるだろうな。広域に影響する魔法だと、詠唱の時間もかなり長くなるらしい。それに、魔法が使える人間もそこまで多くはないようだ。」
「じゃあ、声が町中に響いた魔法も詠唱に時間がかかったんだね。ドレミーが私を助けてくれたのも、詠唱の時間があったから間に合ったのかな。」
「だろうな、武器をもった人間だったら、すぐに殺されていたかもしれん…。」
こわぁぁ。
「それにしても隷属紋の効果が消えないのが問題だよね。どうなってるんだろう?」
私の疑問に、意外にもドレミーが声をあげました。
「魔界樹様の力が流れてきてるのノ。魔界樹様が助けを求めてるノ。」
魔界樹というのは、魔界のシンボルのような大木で、初代魔王が宮殿を建てるのも魔界樹の根元にしたと伝わっています。ドレミーは植物の妖精になったから、魔界樹様と通じ合えるようになったのかも。
ドレミーの言葉にダルクさんが反応しました。
「そういえば、人間どもが隷属魔法を使い始めたのは、魔王様が殺されて宮殿が占拠された頃からだな。」
「確かに、不快な魔力が町を覆っているように感じていたわ。」
リタ姉ちゃんも違和感を感じていたみたい。
「ドレミー、魔界樹様の力って、どこに流れてきているの?」
すると、ドレミーはピョンっと椅子から飛び降りて、部屋の外に向かって歩き出しました。
「こっちノ。」
私たちはドレミーの後について屋敷内を移動していきました。
ドレミーは私が刺し殺した人間の死体が横たわる部屋に入っていき、傍らに落ちていた杖の先端についている黒い水晶のようなものを指さしました。
「ここだノ。」
「町を覆っている魔力を濃くしたような膨大な魔力が溜まっているわ。ここから広がっているのかしら。」
リタ姉ちゃんが、不快感を露わに言いました。
「じゃあ、これを壊せば魔界樹様も助かって、隷属魔法もずっとじゃなくなるのかな。」
「そうかもしれないわ。」
「やってみるか。」
ダルクさんが杖をもって、水晶の部分を床に思い切り叩きつけましたが、杖から外れたものの傷一つ付きませんでした。
むむむ、頑丈なのね…。なんか禍々しいし、困ったときの私の鱗粉の出番では。
「ちょっと鱗粉で浄化できないか試してみるね。」
私の鱗粉を振りかけてみると、なんかバチバチ反発しあっている感じでした。
黒い水晶が嫌がっているみたいに見えたので、しっかり塗り込んでやろうと思います。
だいぶ減っちゃったなぁと思いつつ、羽から鱗粉を刮ぎ取って、ベタベタと塗ってやりました。すると、水晶は色を失っていき最後は割れてしまいました。
「魔界樹様の力が届かなくなったノ。魔界樹様が感謝しているノ。」
「すごいわ、オルフィー。町を覆っていた魔力が消えていってる。」
「お嬢ちゃんの鱗粉は万能だな。原理がわかっちまえば、今後の作戦もたてやすくなるってもんだぜ。」
ドレミーが喜んでくれて、リタ姉ちゃんとダルクさんが褒めてくれるので、私は嬉しくてたまりませんでした。
それに、魔界を救う道筋が見えてきたことで、やる気が漲ってくるのでした。




