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第1話 羽化

真っ暗な世界で、私は意識を取り戻しました。

随分長く眠っていたようで、意識はぼんやりとしていて、何で真っ暗なんだろうと思って考えようとしても、また眠くなって思考がまとまらない。


そのままボヘーっとしていると、無性に背中が痒くなって掻きたいのに体が動かせないことにイライラしました。

掻きたい一心で体をモゾモゾと動かしていると、突然真っ暗だった世界に亀裂が入って、目が痛くなるほどの光が差し込んできました。


何が起きているかを考えることよりも、少し体を動かすことができるようになったので、私は背中を掻くことに集中しました。

一心不乱に掻いていると、私は背中に身に覚えのない羽があることに気づきました。


なんで羽があるんだろうと考え始めたら、急速に意識が覚醒し全てを思い出していきました。

あぁ、私は無事に羽化できたんだ。


私は魔界の森に暮らす少数部族である魔蝶族のオルフィーという少女だった。

魔蝶族は15年ほど生きると、急速に眠気が強くなり蛹になってしまう。

3年ほど蛹として眠ると、羽化して羽をもった成体になる。

羽を得るために3年も無防備で眠らないといけないのに、飛行能力が低いのが残念すぎるのだ。

遙か昔は飛べたらしいが、退化してしまったと伝え聞いている。

頑張って羽を動かせば、ゆっくり降下できる程度で、上昇することはできない。

全くもって無駄な三年間なのだ…。


とりあえず、ここから出てみんなに無事成体になったことを報告しないとね。

成体の祝いで美味しい果物をたくさん食べさせてもらえるはずだから楽しみだなぁ。

近所のお姉ちゃんが成体の祝いのときには、両手に抱えるほどの果物が羨ましくて涎をたらして見ていた記憶があるもの。

あの頃は食欲だけで生きていたなぁ…。


亀裂をこじ開けるようにして、私は外の世界にズルズルと脱出していきました。

集落で一番の大木のかなり上のほうで蛹化したので降りるのも大変だなぁと思ったけど、羽が生えたことを思い出して、空中降下を試みようと思いました。


どれどれ、ちゃんと動かせるかな?

首を捻って背中を確認すると、私の背中にはライトブルーに白い模様の入った可愛らしい羽が生えていた。

お、いいじゃない。集落で一番かわいい羽かも。


羽の色と模様は重要なのです。

なんといっても番い選びに大きく影響するからね。

相手を選び放題の未来が待っていると思うと、顔が緩んでしまいます。


羽に意識を集中すると、パタパタとちゃんと動かせます。

よしよし、大丈夫そうね。

ちょっと怖いけど行ってみますか。


私は「とぅっ!」と叫び、空に向かってダイブしました。

グングンと地面が近づいていき、空気抵抗で目を開けているのも辛い。

こわぁぁぁ!死ぬ死ぬ!!

あ、羽動かさないと。死に物狂いで羽を動かすと落下速度は急激に落ちてガクンと体に衝撃が走りました。

これ心臓に悪いわぁ…。


私は羽毛が落ちていくようにゆっくりと降下していきます。


魔蝶族は木の上に簡易な住居を設置して生活している。飛んで上昇することはできないので、木の幹に梯子状の足場をつくって登り、降りるときは成体の大人は飛び降りて、幼体の子供は梯子を下りる感じなのです。

今後は降りるのが楽になるなぁと暢気に考えていたら、集落の状況が見えてきて私は思考が止まりました。


焼かれた木々、壊された住居の数々、そして誰もいない静寂…。

何これ?他の部族に襲われたの?


魔界は長らく魔王様の統治のもと、平和が続いていた。

魔蝶族は他の部族に比べたら弱いけど、何代か前の魔王様が部族間の戦争を禁止したため共存繁栄が進んでいたのです。

だから、こんな状態になるなんて理解できない。


動悸が治まらないまま大地に降り立った私は、同族を求めて周辺を探し回りました。


「誰かいませんか?」

「オルフィーです、成体になれました!」


どれほど叫んだだろうか、声は嗄れてしまい陽も落ち始めましたが、誰もいないという事実が、私の心を暗くさせました。


「みんな、私をおいて何処にいっちゃったのよ…。お父さん、お母さん、オルフィーは成体になれたんだよ!お祝いしてよ…。」


薄暗い森の中、私の独り言は尻すぼみとなり、代わりに涙が止めどなく流れ落ちていきました。


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