6:義妹が何かを企んでいるらしい
あれから1週間後…… 私とフレデリック殿下の婚約は本当に破棄され、私達の婚約に関わる人間たちが騒然とした。
フレデリック殿下に直談判された国王陛下は最初は反対したと聞いたが、結局は我が子可愛さにその我が儘を許してしまったようだった。あの国王は子供に甘すぎるのが欠点である。ちなみに国王と殿下以外の人間は顔を真っ青にして慌てふためいている。それはそうだろう、結婚間近の公爵令嬢と婚約破棄など王家にとってデメリットでしかないからだ。しかもその婚約者の義妹と婚約を結び直すなんて知れたらどんな噂が飛び交うかなんて想像するだけでも恐ろしいだろう。
それに、貴族の令嬢にとって同じ破談でも破棄と解消では丸っきり違う意味になる。しかも王子本人から婚約破棄されたとなれば私は欠陥のあるキズモノ令嬢として社交界の笑い者となって生きていくしかないだろう。円満に婚約解消であれば、元よりこの婚約自体がなかったことになるので私の経歴にキズはつかないのだが、それをわかっていて婚約破棄するとなるとフレデリック殿下が本気で私を追い詰めようとしている証拠だろうと思われた。
そして体面上は、長女がとんでもない毒婦で王子妃にふさわしくないと判断されたがその義妹は素晴らしい聖女で殿下と真実の愛で結ばれている。とかなんとか周りに吹聴しているようなのである。
しかもフレデリック殿下は何をトチ狂ったのか私とするはずだった結婚式をそのまま全てロゼリアと行うと言い出したのだ。その発言がどれだけ私とロゼリアを馬鹿にして侮辱しているかなんて考えもしていないのだろう。
それにしても、なんとあと数ヶ月でロゼリアが嫁ぐことになってしまった。これこそとんでもない暴挙である。
このまま無事に(問題だらけだが)ロゼリアと婚約するとしても、本当なら今から王子妃教育を始めて最短でもロゼリアが学園を卒業してからの結婚になるはずなのだ。それなのに、そんなことをしたらまだ通い始めて1年程の学園すらまともに通えなくなるし、下手をすれば辞めなくてはいけなくなる。フレデリック殿下はロゼリアを私から守るためには、早く結婚して宮殿に住まわせるしかないと本気で思っているようなのだ。
そのせいで社交界では面白おかしく噂が流れ放題だ。私は王子に捨てられた憐れな令嬢で、ロゼリアは義姉の婚約者を奪った恥知らずだと……。しかしフレデリック殿下は自分が本気でロゼリアを守っていると信じているようで、そんな噂すら私が醜い嫉妬をしてこっそり流していると思っているようでこの間も「いつまでも未練たらしい女で困ったものだ」と言い回っているようだと耳にした。
別に私のことはなんと言われてもかまわないけれど、ロゼリアを悪く言われるのは嫌だ。なんで陛下はロゼリアとの婚約を認めてしまうのか……これだから子供に甘い親バカは困る。あの薄くなってるてっぺんを全てむしってやりたい衝動にかられた。
そんなことがあり、婚約破棄が成立してから私は屋敷に引きこもっていた。その間、ロゼリアは王子妃教育のためにと半ば無理矢理王宮に連れていかれてしまい、さらに1週間の時間が過ぎてしまった。あの心優しい義妹が辛い思いをしているのではと考えると、ため息ばかりが口をついて出た。
ロゼリアが屋敷を出るとき、彼女は笑顔でこう言ってくれた。
「任せて下さい、お義姉様」と。
その時の私にはその意味がわからなかったし、すぐに連れていかれてしまったので真意を聞くことはできなかったのだが……。
「テイレシア」
「お父様、お義母様……」
私が泣いていることに気づいたお父様とお義母様が優しく背中を擦ってくれた。
「……ロゼリアは、大丈夫でしょうか。あれから手紙すらフレデリック殿下に阻まれております……私のせいで、ロゼリアが……」
「大丈夫ですよ、ロゼリアは強く賢い子です。なにより義姉のあなたをとても慕っていますもの。それと朗報ですよ。わたしの跡目を継いで伯爵家に入ってくれた再従兄弟から連絡が来ました。どうやらロゼリアとの手紙を阻まれているのは公爵家だけのようで、その他はわりと自由らしいのです」
「まぁ、伯爵家のご当主から……!」
お義母様は父と再婚するさい、遠縁の親戚の方に爵位を継いでもらっていると聞いた。私も1度挨拶をしに行ったが、とても気さくな優しい方だったと記憶していた。
「ええ、ロゼリアは伯爵家と綿密な連絡を取っていて色々と企んでいるようなのです。……あの再従兄弟は特殊な趣味があってロゼリアとは仲が良かったですから」
お義母様が苦笑いをしてそう言った。
……特殊な趣味ってなにかしら?と首を傾げるが、今はそんなことなどどうでもいいことだ。
とにかくロゼリアが元気ならそれが1番の朗報である。でも、何を企んでいるのか?危ないことでないと良いのだけど……。
そしてそのあとしばらくしてから、とんでもない話を聞くことになるのだが、その時の私はまだ知るよしもなかったのだった。




