3:わたしはお義姉様至上主義(ロゼリア視点)
「婚約破棄されてそのまま追い返されたですってぇ?!」
その日、せっかくの休日だったはずなのに緊急の呼び出しだからと王城に行ったはずの義姉が帰宅予定の時間よりかなり早く帰ってきた。いや、早く帰ってきてくれてのはいいのだ。諦めていた義姉とのお茶タイムが出来るのではと、わたしはうきうきで出迎えたのだ。
しかし王城より帰ってきた義姉のその表情を暗く、まるで死んだ魚のような目をして深いため息をつく姿を見てしまった。どう見ても疲れ果てて悩んでいるように見えるその姿に思わずかけよって理由を聞くと、まさかの答えに思わず叫んでしまったのだった。
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わたしには素敵な義姉がいる。そう、とんでもなく素敵な義姉だ。大事なことなのでつい2回言ってしまったが、きっと義姉に関する試験があったとすれば必ず出る項目だから言わないわけにはいかないだろう。
とにかく、わたしのお義姉様はせかいいちぃぃぃ!!
どれくらい素敵かというとそれはもう三日三晩語り続けても足りないくらい素敵なのだが、お義姉様の素敵なところを全部教えてしまうのは勿体ない気もするのでわたしだけの秘密にしたいくらい素敵だとだけ言っておこう。
お義姉様と出会ったのは1年前、わたしの母親とお義姉様の父親の再婚が決まったときだった。
父が不慮の事故で死んでしまってから美しい未亡人となった母に言い寄る男はたくさんいたけれど、それに靡くこと無く母は伯爵家をひとりで切り盛りしていた。そんな母を尊敬しているが忙しい母の姿に甘えることが出来ず子供心に寂しく感じたこともあった。
でもそんなお母様がとあるパーティーで運命の出会いをしたと頬を染めて報告してくれたのだ。ちょっと厳ついけれど優しい性格のその男性は妻を亡くしていて、同じ立場だったふたりはほどなくして惹かれ合うことになった。
もちろんわたしは大賛成だった。なによりもお母様が幸せそうだったし、さらにそのお相手には娘がいてわたしにお義姉様ができるとわかったからだ。
ずっとひとりっ子で寂しかったから、素敵な姉という存在に憧れを抱いていたのだ。
実はわたしには、ちょっと人には言いづらい趣味がある。
なんというか。まぁ、それは……殿方同士の恋愛物語なのだけど……もう、どハマりしている。ぽっ。(現在進行形)
母に甘えられず、寂しかった子供時代。その時にいた数少ない友人のひとりがその系統にハマっていて興味本位で貸してもらった1冊の本が全ての始まりだったのだ。
詳しいことは省くが(こと細かく語ると18禁になってしまうから)とにかく男女のドロドロした恋愛とはまた違う男同士の純愛に愛の真実を見いだしてしまったのである。(そんな気分になった)
そんなわたしは、いまや仲間内から〈貴腐人〉の称号を得るくらいにまでになった。
え?なんの仲間かって?
そんなの……腐女子による腐女子のための腐女子たちの集まり〈貴腐人に憧れる会〉の仲間である。
〈貴腐人〉とは、腐女子たちの憧れであり腐女子の頂点に贈られる称号なのだ。でも、腐女子ではない一般の淑女の方々から見たらこの崇高な趣味は理解されないこともよくわかっているつもりだ。
まぁ、それはおいといて。
だが、お義姉様は腐女子ではないのにわたしの趣味を受け入れてくれたのだ。こんな男と男の肌のぶつかり合いについて2時間は軽く語ってしまうわたしを偏見の目で見ることもなく「あなたは私の可愛い義妹よ」と笑顔で抱き締めてくれるスゴい人なのである!
あの艶やかなしっとりした黒髪も、深緑のような美しい瞳も、しつこくなく爽やかな色気を漂わせるお顔立ちも、とにかく素晴らしい!お義姉様が素晴らしすぎて、もう少しで違う愛にも芽生えてしまいそうだったが。(寸止め)
お義姉様のおかげでわたしは家で趣味を隠すことなくフルオープンで過ごせるのでノンストレス!執筆活動も進み新刊も順調である。
あ、〈貴腐人に憧れる会〉では数ヶ月に1回の間隔で創作物語を発表することになっている。もちろん想像上の人物でも実際の人物をモデルにしても大丈夫だ。
でも最近は会員の皆さんがいいネタがないと悩んでいるようでわたしも困っている。どこかに創作意欲を掻き立てるモデルはいないものか……?
そんな呑気な事を考えているとき、わたしの大切なお義姉様がまさか一方的に婚約破棄されてしまう事件が勃発してしまった。
え?しかもあのクソ王子がお義姉様を捨ててわたしと結婚するって言ってる??……寝言は寝てから言えっ!
そしてお義姉様が死んだ魚のような目をしたまま先ほど起こった事を家族の前で語り、わたしとお母様、そしてお義父様の怒りが爆発したのは言うまでもない。




