19、昂る気持ち
「早く……早くロゼリアを助け出さなくては……!お父様!今すぐ王宮に騎士を、いえ、私がロゼリアを助けに王宮に向かう許可をくださ────」
息を切らしながら公爵家に戻り、焦るあまりお父様のいる執務室の扉を勢い良く開けた。すると、そこにはお父様とお義母様がいて……1枚の手紙を見ながら複雑そうな顔をしていたのだ。
「お父様……?」
「っ────テイレシア」
一瞬遅れて私の存在に気付いたお父様が、咄嗟に背中に隠したその手紙に王家の封蝋印があるのを私は見逃さなかった。
「……その封蝋印は、王家からの手紙────、っロゼリアになにかあったのですね?!あの子は無事なのですか!?」
「いや、これはその……」
「お、落ち着いてテイレシア!」
そうは言われても落ち着いてなんかいられない。私との婚約破棄やロゼリアを召し上げた時ですらフレデリック殿下はその口で偉そうに命令するだけでわざわざ文書など送ってこなかった。それなのに今更こんなものを送ってくるなんて、それこそ一大事だ。
私は不安だった。
もしかしなくても、フレデリック殿下はあの噂の通りに新たな恋人を迎えてロゼリアが邪魔になったのではないだろうか。そして、私の時と同じように理不尽な理由をつけてロゼリアを排除しようとしているのではないか。さすがに同じ公爵家から二人も断罪するには建前が必要だ。だからこそ公爵家に反論をさせないためにわざわざ王家の封蝋印を使った手紙をよこしたのではないか。
「私は……ロゼリアがこれ以上王家に振り回されるのが嫌なのです!あの子はとてもいい子なのに、あんなワガママ王子の身勝手で好き勝手されて……!
相手が王子だから、一人の女の子の人生を振り回してもいいんですか?!貴重な人生の時間を無駄にされても抵抗すら許されないなんてそんなの酷すぎます!ロゼリアが今、そんな理不尽な理由で追い詰められて悲しんでいるかと思うと……私は────!!」
「テイレシア、それは「今すぐ王宮に乗り込んで殿下の息の根を止めてきます!王家の血筋が途絶えようが知ったことではありませんわ!」目がマジで怖い!いつの間に手にナイフ握ってるんだ?!は、話を聞きなさい……!」
「邪魔しないで……っ!」
虐げられているロゼリアの姿を想像した瞬間、私の血の気がサッと引いた気がした。そしていつの間にか手にしていた武器を掲げて足の向きを変えようとした。
「テ、テイレシア様……!」
「……っ?!」
しかし、次の瞬間。私の体はクリス様に抱きしめられ動けなくなってしまった。もがき振り払ってでも先に進もうと思っていたのに、出来なかった。
「────クリス様」
私の持っていたナイフがクリス様の腕を切り、赤い血が滴っていたのだ。
「テイレシア様……落ち着いて下さい」
見た目より傷が深いのか、ポタリポタリと腕を伝って血の滴が流れていた。
────人を傷つけてしまった。そう気付いた瞬間、足が震えた。
さっきまでフレデリック殿下の命を奪ってやろうとまで決意していたのに、こんな小さなナイフだろうと人を傷つけてしまった事実に直面した途端に恐怖が体を支配したのだ。
「あ……血が……。ご、ごめんなさ……っ!私、なんてことを……!」
体の震えと共に涙が溢れた。クリス様は大切なお友達なのに、感情が昂っていたとはいえなんてことをしてしまったのだろうか。
きっと、こんな危険な女などクリス様も愛想をつかせただろう。せっかく仲良くなれたのに残念だが、自業自得だ。どうしたら償えるだろうか。ちゃんと正式に謝罪してお父様にお願いしてせめて慰謝料をお支払いして、もちろん医者も呼んで……それから、それから────。
「大丈夫です。テイレシア様」
お友達を失う悲しみと、ロゼリアを傷付けた殿下への恨みと、それからなんだかぐるぐるとうず巻く色んな感情に混乱していたその時。
クリス様は優しく、そして強く。私を抱きしめる腕に力を込めてきた。
そのぬくもりにポロッと涙が溢れる。
「クリス様……私……っ」
「大丈夫です。オレが……オレがあなたを守ります!あなたの憂いを晴らしてみせます……!」
「えっ……?」
私をなぐさめるためとはいえ、平民であるクリス様にフレデリック殿下をどうこうできるわけがない。しかしクリス様の目は真剣で、ただこの場を凌ぐために嘘をつくついているようには見えなかった。
「テイレシア、クリス殿────やはり、この手紙の通りなのだな」
私とクリス様のやり取りを見たお父様が、深いため息をつき……手に持っていた例の手紙を私の目の前に広げて見せたのだった。




