17、それは、愛の試練(フレデリック視点)
「……あぁ、ジークハルト……」
俺はあの時のジークハルトの微笑みを思い出し、少し恥ずかしいながらも喜びの気持ちに満ち溢れていた。
あの日、俺はアルファン伯爵────いや、ジークハルトと身も心も結ばれたのだ。
それも全ては、”真実の愛“だからこそである。それくらいにあの日は特別な時間を過ごしたのだと、思い出す度に身震いしてしてしまいそうだった。あまりに素晴らしい時間だったからか、実は夢だったのかもと考えてしまう瞬間はある。だが、その度に今もまだ体に残る快感の余韻が俺にあれは現実だったのだとわからせてくれる。
そう、これこそが“真実の愛”なのだと実感させてくれるのだ。
ジークハルトが俺を見つめる瞳の輝き。唇から紡ぎ出される愛の言葉。その全てが俺に真実の愛とはなんたるかを教えてくれた。
つまり、真実の愛とは性別すらも乗り越えた先にある奇跡のようなものなのである。と。
そうして俺とジークハルトの愛は奇跡そのものだと証明されてしまったわけだ。
あぁ、ロゼリアには悪いことをしたかもしれないな……。あの時はロゼリアこそが真実の愛の相手だと錯覚していたが、あれはテイレシアに虐められるロゼリアを可哀想に思っただけの同情に過ぎなかったようだ。つまり、俺の正義感が強すぎたせいによる錯覚だな。確かにロゼリアはとても可愛いし、庇護欲をそそる見目をしている。少しばかりワガママなのも魅力のひとつかもしれない。だが、ジークハルトの素晴しさには足下にも及ばないとわかってしまったのだ。
ジークハルトはなんといっても素晴しい。だからこそ、運命の元で出逢った俺とジークハルトは真実の愛で結ばれた相手なのだと神が教えてくれたのだろう。
ジークハルトはとてつもなく美しくて気品もあり、何よりも俺のことをわかってくれるのだ。こんなにも理想的な相手がいるだろうか?
真実の愛を前にすれば、性別なんて些細なことだと俺に教えてくれた……何よりも俺は愛されている!……だって、あんなことを許した相手はジークハルトが初めてなのだ。
きっと……多分ジークハルトも俺と同じはずだ。多少手慣れた感は少しだけ気にはなったが、ジークハルト程の人間ならこれまで他の人間に付き纏われなかったはずがない。きっとモテていただろう。特に爵位の高い人間から言い寄られたなら断り切れずに渋々にその相手をした……そんな過去があったとしてもおかしくない。だが、俺は全てを受け入れる気でいた。だって、本気になった相手は俺が初めてのはずだから……!
俺に婚約者にと望まれて結婚式を心待ちにしているロゼリアには本当に申し訳無いが、この婚約は解消することにしよう。俺が永遠に側にいたい相手はジークハルトしかいないのだから。そして、それに気付いてしまったのだ。
もしかしたらロゼリアは嫌がるかもしれないな。なにせ俺にかなり惚れているのはわかりきっている。だが、諦めてもらうしかない。俺にはすでに心に決まった相手がいるのだ。とりあえず、誠意を持って対応するしかないが……俺はなんて罪な男なんだろう。
しかし結婚したい相手が男となれば父上と母上は反対するだろうか……。でも待てよ。ジークハルトはあんなに美しいのだから父上たちに紹介するときは女装でもしてもらえば誤魔化せるのでは?結婚さえしてしまえばこっちのものだ。ジークハルトは嫌がるだろうか?……いや、彼は俺を愛しているのだからそれくらいやってくれるだろう。なにせ王子である俺の伴侶になるのだからそれくらいたいしことではないだろう。
……女装をしてドレスを着たジークハルトもかなり美しいだろうなぁ。きっと彼も俺の為ならば“なんでも”してくれるはずだ。
俺がジークハルトと愛を確かめあった日、お茶会をしていたはずのロゼリアと令嬢たちはいつの間にか解散していてロゼリアも部屋へと帰っていた。やはりお茶会の途中で抜け出してしまったのはまずかっただろうか?しかしあの時はまさに緊急事態だったのでしょうがないじゃないか。なによりも俺が真実の愛を確かめた瞬間だったのだ。そんな特別な日を責めるなんて出来るはずがないはずである。
それなのにあれから数日、ロゼリアは部屋に閉じ籠っていて顔を出さくなってしまった。様子を見させに行ったメイドの話では部屋には入れてもらえず、耳を済ますとカリカリとなにかを引っ掻いているような音と時おり紙をバサッと散らかしているような音が聞こえたらしい。まさか乱心して壁を引っ掻き、本でも破いてばらまいているのではあるまいな?はぁ、ロゼリアを追い出した後の部屋の惨状が目に浮かぶようだ。
もしかして拗ねているのか?まったく、ロゼリアがこんなに面倒な女だったとはがっかりだ。ロゼリアは俺を愛しているなら俺の本当の幸せを願うべきなのではないのか?せっかく俺がテイレシアの魔の手から救ってやったのだから、例え俺の愛を勝ち取れないとしても拗ねて部屋から出てこないなんてとんでもないことだ。
愛とは……相手を思いやることなのだから。
「あぁ、ジークハルト……」
俺はジークハルトの姿を脳裏に浮かべため息をついた。あの日、ジークハルトは王宮には泊まらず帰ってしまったのだ。側にいて欲しいと訴えると「僕は、僕のけじめをつけてきます」と名残惜しそうに手の甲に唇を落としていった。
けじめとはなんだろうか?だが彼も俺との未来のためになにかを成し遂げようとしてくれている事だけはわかる。王子と伯爵ではまず身分差があるからな。今となってはこの身分が怨めしい。俺が彼と同じか……せめて王族でなければこんなにも悩むことはなかっただろうに。これも愛の試練だと自分を戒めるしかないのだ。
それから数日後。まさかあんなことになるなんて今の俺は思っても見なかった。
母上が……母上が帰ってきてしまった!!
え?!なんですか母上……その抱き締めているやたら薄っぺらい本は?しかも同じような物が大量にあるですけど???




