15、貴腐人の嗜み(ロゼリア視点)
※一部、BでLな表現があります。苦手な方はご注意ください。そうでない方は開眼してください(笑)
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腐女子の神よ、今日この瞬間を感謝します。
この日わたしたちは貴腐人としての真理を心に感じ取ったのでした……。
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ジークにい様とフレデリック殿下が部屋に消えたのを確認し、早速わたしたちも行動に取りかかることにした。ガゼボの一見分からないところに隠していた物を素早く取り出す。万が一にもフレデリック殿下にバレてはいけないので偽装も完璧だ。まさかこの岩がニセモノで中に秘密道具が隠されているとはおもうまいて。
そしてその中身をみんなに配ると、ハイヒールを脱ぎ捨て、そしてそれぞれの足に合わせて作った特注品のフラットな靴(歩く音が出にくい加工済み)に素早く履き替えだした。
「貴腐人様」
小声で近寄ってきたのは先ほどジークにい様といちゃいちゃしていた見習い執事の少年だった。フレデリック殿下に責められて怯えていたのが嘘のように狡猾な笑みを浮かべている。
ふふふ、実はこの見習い執事はわたしとジークにい様の仕込みなのだ!ジークにい様の仲間(お友達)である彼に王宮の間取りを調べてもらうために巻き込んでだのである。
「ふふっ、先ほどの演技は素晴らしかったですね。1年前にデビュタントしたばかりのあなたならフレデリック殿下に顔も知られてないので助かりました。このお礼は後程いたしますね、クロス様」
わたしが含みを込めてそう言えば、彼……クロス様は栗色の髪をかきあげニヤリと笑った。
「フッ。ジークハルトの奴、本気出すらしいぜ?まぁ俺様はあんな王子なんざ趣味じゃねぇから羨ましいとは思わねぇけどな。貴腐人様なら、わかるだろ?」
「それはもちろん……クロス様は枯れ専ですものね!クロス様好みの素敵なロマンスグレーの情報はバッチリ掴んでありますわ!」
そう、このクロス様はこんなに美少年なのに枯れ専の攻めなのだ!年上のロマンスグレーを籠絡する美少年……なんて素晴らしいのだろう。おじ様キラーとして名高いクロス様と美少年キラーであるジークにい様は戦友のようなものらしく意外と仲がいいのである。ターゲットが被らないから尚更らしい。
まぁ、このふたりが仲良く談笑(攻めの美徳について)している姿を見て勘違いしていた腐女子も多数いたようであえて訂正はしなかったせいもあり、より噂が広まってしまったのだが。しかぁし!そこを見極められるようになってこそですから!
「では交渉成立ってことで、特別室へご案内いたしますよ」
こうして、クロス様は可愛らしいウインクをしながら王宮にある王家専用の隠し通路へとわたしたちを誘ったのだった────。
『……んっ、ふぁ……』
『……可愛らしいですね、フレデリック。ほら、もうこんなに……』
『あっ!だめ、そんな……っ』
暗くて狭いこの通路は、なんと各部屋へと通じている隠し通路なのである。部屋の中の様子をこっそり覗き……ゲフンゲフン。確認するには最適だろう。
「「「……」」」
少し響くように聞こえる部屋の中の声に真剣な顔つきになる腐女子の3人。瞬きもせずにずっと見開いているのでさらに目が血走っているが、声も鼻血も出さずにひと言も聞き漏らすまいとして鬼気迫る様子はさすがである。
そっと覗き穴から中の様子を伺えば、そこにはまさにドリームワールド☆が広がっていた。腐女子にとっての夢の世界がここに……!きっとみんなの目には薔薇の花びらが舞い散って(妄想)見えていることだろう。
衣擦れの音はまさに最高のBGMと化し、わずかに粘着質な響きがする度につい壁に耳を張り付けてしまった。
『本当にいいんですね?もう引き返せませんよ……』
『お願いだ、ジークハルト……!俺は、俺は……っ!』
ジークにい様に縋るように腕を回すフレデリック殿下。さらに密着するふたりから飛び散る汗はダイヤモンドのように輝いていた。
『あっあっ……あ────!』
おおっと!やったね、殿下!おめでとう!
フレデリック殿下が新しい扉を開いた瞬間に立ち会えた事を光栄に思います!
感激していると、ジークにい様がちらっと目配せをしてくるではないか。おっと、これはまたもや合図である。退散するとしよう。
わたしが手で外を指すと、みんなも静かにこくりと頷きそっとその場を後にするのだった。
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誰にも見つからずにガゼボに戻ったわたしたちは靴を元のハイヒールに履き替え、しばらく誰も口を開かなかった。しかそ、しばらくの沈黙の後ひとりが突然立ちあがり清らかな涙を一滴溢したのだ。
「……申し訳ございません、ロゼリア貴腐人様。本当なら最後までここにいるお約束だったのですがわたくしは一刻も早く帰らねばならなくなりましたわ……!」
その言葉に「「同じく!」」と残りおふたりも立ちあがり、いまだ気絶しているマデリン様を肩に担いだ。
「わたくし、とても感動したのです!この感動が薄れぬうちに薄い本にしたためねばなりませんわ……!もう感動し過ぎて涙が止まりません!」
「わかりますわ!今なら……今ならなんでも書ける気がします!身分差を乗り越えた真実の愛に下克上!ノンケが堕ちる瞬間なんて、ごちそうさまです!」
「あたくしも!もちろんジークハルト様とのお約束は守りますが……フレデリック殿下については無礼講なんですわよね?」
「ふふふ。今日のことに関してはそういうお約束ですわ。でも、王家に対して不敬にならないようにだけお気をつけて下さいね?」
「「「サー!イエッサー!」」」
みんなは軍隊顔負けの敬礼をして、ハイヒールで優雅に、それでいて物凄い早さで帰っていった。あ、気絶したままのマデリン様はちゃんと屋敷に送っていってくれるそうだ。ありがたい。
あぁ、みんながとても良い顔をしていた。まるで水を得た魚のようにピチピチと輝いて……次の新刊が楽しみすぎる!
「貴腐人様、お茶をどうぞ」
「あら、ありがとうございます。クロス様ったら、ちゃんと執事っぽいことできるんですね」
「そりゃあ、手ずから入れたお茶を飲んで欲しいとおねだりした方が懐に入りやすいもんでな」
ニヤリと笑うクロス様。クロス様はかなりの腹黒だが、ちゃんと報酬を用意すればたいがいのことはやってくれる頼れる腹黒なのだ。なんといってもこの短期間で隠し通路を発見してしまうのだから有能過ぎる腹黒である。
今回の報酬は、クロス様好みのロマンスグレーを紹介することだ。ただお相手はノーマルな方なので籠絡できるかどうかはクロス様次第。お手並み拝見といったところだろうか。そして、もちろん出会いの演出から堕ちるまでの工程を詳しく聞かせてもらう予定である。
わたしはお茶をひと口飲み、思わず溢れる笑みを扇子で隠した。この為にあの殿下の名前をなんとか覚えたのだ。忘れないようにするのが本当に大変だったけれど(油断すると忘れそうになる)。この苦労が報われる時のことを思うとついニヤニヤしてしまう。でも、最後まで気を抜いてはいけない。“狙ったターゲットは必ず仕留める”、それこそが貴腐人の嗜みだからである。
さぁ、仕上げといきますか。




