1:私の義妹が可愛い過ぎる件
この話は、大きすぎず小さすぎないどこにでもあるような平和な国で起こった“ちょっとした騒ぎ”に関するお話である。
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その日、この国のとある公爵家ではにぎやかな声が響いていた。
「それでね、お義姉様!」
それは気温が暖かくなってきた春の頃、季節の花が溢れた庭にある小さなガゼボでの出来事。
私の視線の先には、サファイアのような煌めく瞳を輝かせてふわふわの金色の髪を靡かせながら天真爛漫な笑顔で楽しそうに語っている少女の姿があった。私はそのあまりの可愛らしさに目を細めて耳を傾けていた。
この少女の名前はロゼリア。私の可愛い……それはそれはとても可愛い義妹だ。(大切な事なので2回言った)
2歳年下のロゼリアと私には血の繋がりはない。1年前に父が再婚して、その再婚相手の連れ子がロゼリアなのである。私は初めてロゼリアに会ったときの衝撃を未だに忘れられないでいた。だって、まさに天使が天界から舞い降りたのかと思ったくらいに可愛らしかったんだもの!
“可愛い”が大好きで憧れでもある私にとってロゼリアはまさに可愛いの象徴なのである。
そんな天使のようなロゼリアと違って、どちらかというと地味なストレートの黒髪に緑色の瞳をしていて見た目も凡庸な私……テイレシア・オーガスタスの楽しみは、この可愛いロゼリアとこうして午後のお茶会をすることなのだ。なんと言ってもロゼリアを眺め放題、愛で放題……普段婚約者のせいで疲れ果てている心をここで癒さないでどこで癒すというのか。
「まぁ、楽しそうね」
私がにこりと微笑んでそう言うと、ロゼリアは砂糖菓子のような笑顔を見せてくれた。陽の光に透けたふわふわの金の髪がロゼリアの可愛らしさをさらに引き立てている。あぁぁ……やっぱり可愛い!可愛いは正義!
ふわふわとしたロゼリアの金色の髪は母君似だ。
ロゼリアの母君である新しいお義母様は伯爵家の出身なのだが、旦那様を事故で亡くした後も女手ひとつで伯爵家を切り盛りしひとり娘のロゼリアを立派に育てていたそうだ。厳しい道のりだっただろうに、同じ女性として尊敬するしかない。
幼い時に死に別れた私の亡き母は異国の出身だったがとても美しい方だった聞いている。お義母様を見て思ったが、お父様はかなりの面食いだったようだ。まぁ、私はそんな母の瞳や髪色のみ引き継いだだけの凡庸な顔立ちなので「華やかさが足りない公爵令嬢」といつも陰口を叩かれているのだが。せめてお父様の厳つい所だけでも似れば迫力はあったかもしれないのに、全体的には穏やかな方だったと聞く今は亡き父方の祖母に似てしまったようなのだ。
紅茶をひと口含んで喉を潤し、改めてロゼリアに視線を向けた。熱を含んだ瞳で熱烈に語るロゼリアは生き生きしていて生命力に溢れている。全てが魅力的なロゼリアは本当に自慢の義妹なのだと毎日再確認しては幸福感に浸っていた。
あぁ、天使か妖精か……ロゼリアをこの世に授けてくれた全てに感謝するしかない。ずっとひとりっ子で寂しかったのもあるが、それくらい私はこの義妹が可愛くて仕方がないということだ。
神よ、お父様とお義母様をパーティで出会わせてくれて本当にありがとうございます!!お義母様が厳ついお父様に一目惚れしてくれたなんてまさに奇跡としか言いようがない!
たまに私が複雑な気持ちでいるんじゃないかと勘繰ってくる人がいるが、とんでもない。お義母様はそれはそれは良い人だし、私とロゼリアを差別などせずに接してくれている。なによりロゼリアと同じ髪色と瞳をしたお義母様はまさに美の結晶なのだ。母娘が並んだ姿などまさに眼福もので目が幸せになるのだ。それにロゼリアはお父様にも懐いてくれている。あんな厳つい父がまるで孫を見守るかのようにロゼリアを見ているのを知ってなんだか微笑ましかった。
もちろん亡き母も大好きだ。忘れたりなんかしないし、お義母様と比べることもない。それにお義母様も一緒に墓参りして「テイレシアと旦那様をきっと幸せにします」と手をあわせてくれた。それだけで私の心はほわっと温かくなるのだ。
私は公爵家の長女で、王命による婚約者がいる。それはこの国の第1王子なのだが、私はもうすぐ王家に嫁ぐ予定なので私がいなくなればお父様はひとり寂しい余生を送るだろうと心を痛めていた。だから、お父様を大切にしてくださるお義母様とロゼリアには感謝してもしきれない。
私は楽しそうにおしゃべりをするロゼリアを見つめ、とても穏やかな気持ちになっていた。出来ることならば、永遠にこんな時間がかかる続けばいい。そう思いながら────。
「そうしたらなんと、儚げな完璧美少年が攻めで筋肉質な騎士様が受けだったんです!まさかのどんでん返しで三回転するくらい驚いたんですのよ!でもそれがまた尊いのですわぁ!!」
興奮気味に頬を赤らめて語る義妹がとにかく可愛くて微笑ましく思ってしまい笑顔で相槌を打つのだが……その話の内容は9割ほど、いやほとんどが未だにわからないままでいる。私がもっと賢ければ理解出来たのだろうけれど……知識の乏しい姉でごめんなさいね、ロゼリア。




