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月と太陽

「ねぇ君、ちょっと私に付き合ってよ」

その一言で僕の陰キャ生活は終わりを告げるのだった。


 

長い春休みが終わり今日は始業式の日。

いつも通り僕は気配を消して式に参加していた。

本当は行きたくなかったけど自分のクラスを確認するために仕方なく行くことにした。

「えー、二・三年生のみなさん進学おめでとうございます。そして一年生のみなさん入学おめでとうございます。二年生には新しく後輩ができますね。三年生は最高学年としてよく考えて行動するうに・・・」

興味がない校長の話は春休みより長く感じた。

始業式が終わり僕は誰よりも先に教室に行き、席に着いた。

このあとは僕が一番嫌いな自己紹介という謎の儀式がある。

なぜ人間は自分のことを他人に紹介するのだろうか、、、 そんなことを考えているうちに自分の番が来た。

僕は重い体をゆっくりと起こし、こう言った。

小野寺おのでら まもるです」

自己紹介という無駄な作業は名前を言うだけで十分だ。

「ねぇー陰キャ君、なんて言ったのかきこえないんだけどーwww」「もっとデカい声でしゃべってw」

こんなめんどくさいことを言うのは、たいてい陽キャと呼ばれる人だ。

仕方なく僕は自分が出せる最大限の声量でもう一度言った

「小野寺守です。よろしくお願いします」

クラスメイトと関わる気はないが一応挨拶はしておいた。

「小野寺君ね、ありがとう。じゃあ次の人」

先生が次の人を呼んでくれたので、また変な陽キャ男子に絡まれることはなかった。

「じゃあ次の人」

「はーい、えっと佐藤さとう 柚子ゆずでーす。好きな人は先生でーす」

「はい、ありがとうwじゃあ次の人」

いかにも陽キャ女子の自己紹介だ。

彼女は学年一の陽キャ女子・佐藤柚子だ。いつもチャラチャラした格好で学校に来ては友達と楽しそうに話している。

学校一陰キャな僕とは正反対だ。彼女と関わることは絶対ないと一年生の頃から思っていた。

自己紹介が終わり、十分間の休憩時間になった。

僕は席から離れず唯一の相棒である本を読んだ。本は友達がいない僕でも物語の中にいる気分になれるから大好きだ。

本を読んでいると、僕の斜め後ろからものすごく視線を感じた。

最初は無視していたが気になって後ろを見ると、佐藤柚子がこっちをじっと見ていた。

佐藤さんと目が合ったため、とっさに本に目線を戻した。

「これって幻覚だよな。あの佐藤さんがこんな僕を見つめるはずがない」

誰にも聞こえないくらいの小さい声で言った。

すると、恐ろしいことに僕の斜め後ろからこっちに向かってくる足音が聞こえた。

ついに幻聴まで聞こえ始めたかと思った時、僕の左肩に人の手が触れた。

恐る恐る肩の方を見ると、そこには佐藤さんがいた。

「ねぇ君、ちょっと私に付き合ってよ」

「え、えっと、多分間違えてますよ」

「いやw君だよ、小野寺に言ってるの」

「え、、、えー!!」

僕は思わず立ち上がり、大声をあげてしまった。

「そんなに驚かないでよw」

「あ、あの、付き合ってよって、ど、どうゆう、意味ですか?」

人生で一度も女子と話したことのない僕は、緊張のあまり声が震えてしまった。

もっと上手に話せないのかよ!まぁそうなってしまったのは全て自分が悪いのだけれど、、、

「そのままの意味だよ。今日、買い物に付き合ってよ」

「なんで僕なんですか、佐藤さんにはもっと仲のいい人いますよね?」

「まぁ確かに、仲いい人なら他にたくさんいるね」

その一言で僕のメンタルが崩れかけた。なぜ友達を作らなかったんだと自分を悔やんだがもう遅い。

「なら、僕じゃなくて他の人といった方が――――」

楽しいと思いますよと言おうとしたその時、佐藤さんが僕より大きい声で被せてきた。

「なんでそんなこと言うの!?私は小野寺と行きたかったんだけど、、、」

なぜか佐藤さんは怒っているような、悲しんでいるような口調だった。その時、

「私は、小野寺と、仲良くなりたかった、だけなのに、ダメだった?」

佐藤さんは泣きながらこう言った。やっぱ僕って他の人と話せないんだ。せっかく誘ってくれたのに泣かせてしまった。

「ご、ごめんなさい、そうゆうつもりじゃなかったんです、別に嫌ってわけじゃなくて」

「じゃあいいってこと!?やったー!!じゃあ放課後校門で待ってるね」

否定しようとしたが、これ以上言うと今度は本当に傷つけてしまうかもしれないと思い、とどまった。

あと実は少し楽しみでもあった。

「あ、分かりました」

「てかさ、敬語やめてよ、私たち同級生なんだし」

「あ、うん,分かった」

今まで敬語で話さないのは親だけだったけど、お願いされたらしょうがない。

「じゃあ放課後校門ね、絶対逃げないでね」

「うん、分かった」

初めて異性と約束をしてしまった。クラスメイトと関わる気はなかったのに。

そんなことを言っておきながら、放課後になるのを楽しみに待っている自分がいた。

それより僕は、「うん、分かった」しか言えないのだろうか。

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