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【11/24・コミカライズ連載開始!】旅人のおっさん、自由気ままなスローライフを送りたいのに世界を救った真の英雄だとバレる  作者: 天池のぞむ


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第32話 未知への期待


「さて。旅人さんたちにもお礼をさせていただかなくてはなりませんわね」


 アルシード王からの贈り物を渡した後。


 マリルさんは俺たちに向けてそんな言葉をかけてきた。


「俺たちはできることをやっただけですから。お礼なんてそんな……」

「いえいえ。ここまでしてくださったのに、何もしないではいられませんわ。……と言ってもそうですわね。どういったものが良いかしら?」


 そう言って、マリルさんは顎に手を当てて考え込んでいる。


 そして何かを思いついたらしく、胸の前で両手をポンと合わせて笑顔を浮かべた。


「そうですわ。ちょうど良いものがありますわ。きっと旅人さんたちにピッタリの」

「俺たちにピッタリ、ですか?」

「ただ、少しお時間を頂戴したいものになりまして。旅人さんたち、もし良かったら今晩はこちらにお泊りになってくださいな」

「は、はい。ありがとうございます」


 そうして、俺たちは勧められるがまま、マリルさんの屋敷で一晩を明かすことになる。



「マリルのお婆ちゃんがメロたちにあげたいものって何だろうね?」

「さてな。でも残念ながら食べ物じゃないと思うぞ」

「がっくし……」


 夜寝る前にメロとそんなやり取りをしたが、マリルさんがどんなものを用意するのか、俺にも見当がつかなかった。


   ***


 翌日――。


「旅人さんたち、お待たせ致しました。ちょっと私に付いて来てくださいますか?」

「え、ええ」


 マリルさんが部屋を訪れ、俺たちを別室へと案内する。


 どうやら昨晩は何かの作業をしていたらしいが……。


「こちらですわ」


 マリルさんに案内されたそこは書斎のようで、昨日の応接間よりも多くの資料が並んでいた。


 学者であるマリルさんの仕事場だろうか?


 色々と書物もあって、書斎というよりは小さめの図書館だなと、そんな印象を抱いた。


 と、部屋の隅に設置されたあるものに目が留まる。


 それは球体の模型で、表面には様々な地名が描き込まれていた。


 大きさは俺の身長の倍はあろうか。

 かなり大きな模型である。


「マリルさん、これは?」

「これはこの世界を模した、『世界儀』という模型ですわ」

「世界儀……」


(なるほど。前の世界で言うところの地球儀と同様のものか)


 俺はその世界儀とやらをじっと見つめる。


 角度を変えて見ると、それは完全な球体ではなく半分ほどが欠けた状態だった。


(そういえばこの世界では3つの大陸しか確認されていないというのが定説だったな。今俺たちがいるルシアーナ大陸と他の2つ、その外側は霧に覆われているとか噂されてるけど……)


「ここまで大掛かりなものがあるということは、マリルさんの研究されている学問は……」

「ええ、ご推察の通りです。主に地理学や地質学を専門に研究しております」


 つまりこの世界儀はマリルさんの研究の成果、その集大成といったところか。


 平面の地図だけでなく立体的な模型を作ってしまうあたり、さすがは王宮で教育係を務めていた人だ。


「残念ながらまだその世界儀は不完全な状態ですが……。けれど、いつかこの世界儀を完成させたいと思っております」

「それはつまり、三大陸の外側を……?」


 俺の問いにマリルさんは柔らかく笑って頷く。


「霧に包まれている」「強大な魔物が出て進むことができない」「戻ってきた者はいるが記憶を消されている」等々。


 三大陸の外側については未だに都市伝説的な噂が残るばかりで謎も多い。


 だからこそと言うべきか、マリルさんはその外側の世界を明らかにしたいと考えているのだろう。


(未知なるものに対する追求……いや、『期待』か……)


 まだルシアーナ大陸の各所を巡っただけだが、その好奇心は俺にも分かる気がした。


 商業都市ガザドでドーグルさんが言っていたように、人は新しいモノが見たくてその期待を胸に生きていると、そういうことなのだろう。


「ねー、マリルのお婆ちゃん。私たちにピッタリの物ってこれのこと?」

「ふふ。これをお見せしたかったのもありますが、本題はこちらです」


 マリルさんは世界儀の隣にある机に広げられた大きめの紙を手に取る。


 そしてそのままその紙を俺に向けて差し出してきた。


(これは……)


「あるじ、なにそれなにそれ?」


 メロがぴょんぴょん跳びながら見ようとしてきたため、俺はメロにも見えるようにその紙の位置を下ろす。


「これって、地図?」

「ああ。それもこのルシアーナ大陸だけじゃない。他2つの大陸についても描かれている。あと、俺が持っているものよりも遥かに精巧な地図だな……」

「ふんふん」

「あ。見ろ、アクセリスでエルメールさんが教えてくれた秘湯の場所まで描いてある」

「おおー、ほんとだ」


 これもまたマリルさんが作ったものということなのだろう。


 さすが学者。街売りの地図とは比べ物にならない情報量だ。


「その地図を素敵な旅人さんたちにプレゼントいたしますわ。残念ながらまだ世界地図とまでは呼べませんけれど」

「え? いいんですか、こんな貴重なものを……」

「ええ。昨晩ちゃんと複写をとっておきましたので、ぜひ貰ってください」

「あ、なるほど。時間がかかると言っていたのはそういう……。ありがとうございます、マリルさん」


 旅をしてきて気づいたことだが、旅人にとって地図というのは行く先の指針となるばかりではない。


 未知のものに期待を膨らませ、心を躍らせることができる夢のようなアイテムなのだ。


(これは素晴らしいものをいただいちゃったな……)


 俺はマリルさんに深く感謝し、受け取った地図を丁寧に丸めた。


「あるじ、すごく嬉しそう」

「そりゃあな……。まさにお宝だよ」

「喜んでいただけて何よりです。先程も申した通り、まだその地図は完成しておりませんが、実は今、進めている研究が形になれば手がかりが掴めそうなんです」

「おお、それは凄いですね」

「ですから旅人さん。またぜひお顔を見せにいらしてください。きっとその時には、三大陸の外側についてお話できることが増えているでしょうから」


 マリルさんは言って柔和な笑みを浮かべる。


(そうだな。今はまだこのルシアーナ大陸だけだが、いつかは他の大陸や外側の世界も見てみたいな……)


 俺は期待に胸を膨らませ、マリルさんに向けてはっきりと告げることにした。


「はい。また必ず伺います。旅の先が広がるなら、こんなに嬉しいことはありませんから――」



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