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【11/24・コミカライズ連載開始!】旅人のおっさん、自由気ままなスローライフを送りたいのに世界を救った真の英雄だとバレる  作者: 天池のぞむ


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第26話 鍛冶師ガンドフ


「ひゃー! どしゃぶりー!」

「こりゃ酷い雨だな。メロ、あそこで一旦雨宿りしよう!」


 商業都市ガザドを出発して数日。


 草原を歩いていると、激しい雨に見舞われていた。


 俺は近くに大樹を発見し、メロと一緒に全力で走り出す。


「ふぅ……。災難だったな」

「ずぶぬれびしょびしょ」


 俺もメロも、服から水が滴るほどに濡れてしまった。


 幸いにも大樹は雨宿りするに十分な大きさがあったが、その場しのぎにしかならないだろう。


 旅というのは色々なことがあって、そのどれもが良い経験ではあるのだが、このレベルの大雨は勘弁してほしいものだ。


「まいったな。次の村まではまだ距離があるし……」

「こうなったら『きょうこーとっぱ』だよ、あるじ。メロが狼の姿に変身するから、それで思い切って行こう」

「ううむ、それしかないか……。む?」


 ふと、俺はその大樹の方へと目を向ける。


「あるじ、どした?」

「これ、家になってる」

「家?」


 よく見ると、大樹の根元の向こう側に扉や窓があった。


 まるで童話の中に出てくるような、樹の家である。


「おー。それなら入れてもらおーよ。すみませーん!」

「ち、ちょっとメロ」


 俺が止める前に、メロがその扉をノックしていた。


 いきなり失礼ではなかろうかと心配していたが、やがて扉がゆっくりと開く。


「なんじゃい、こんな大雨の日に」


 中から出てきたのはメロと同じくらい小柄な老人、ドワーフだった。


(あれ……?)


 俺はそのドワーフに見覚えがあった。

 というか、顔見知りである。


 あちらも俺に気づいたようで、少し驚いたような顔をして近づいてきた。


「おお、こりゃ驚いた。お主、勇者リヒトか?」

「ご、ご無沙汰してます、ガンドフさん」


 その人は俺が以前使っていた武具を製作してくれた人。


 つまり、勇者の剣と白銀の鎧を作ってくれた超一流の鍛冶師だった。


   ***


「なるほどのぅ。魔王を倒した後、旅を始めたのか。ほっほっほ、良いことではないか」

「ガンドフさんもお元気そうで何よりです。まさかこんな場所で会えるとは」


 俺とメロはガンドフさんが現在住処にしているという大樹の家に招いてもらっていた。


 服を乾かせてもらっている上に、熱い紅茶まで出してくれて、大雨に見舞われた俺たちにとってまさに渡りの船である。


「それで、今はまずこのルシアーナ大陸の三大都市を巡ろうかと思っているんです。その後は、他の大陸にも行けたらなと」

「となると次の目的地は王都ヴァイゼルかの?」

「はい。王都にはお世話になった人も多いですからね。ちゃんと会ってお礼を言いたいです」

「ふふん。お主らしいの」


 ガンドフさんは白い髭を擦りながら満足げに笑う。


 久しぶりに会ったがガンドフさんは変わっていないようで、俺はどこか懐かしさを感じていた。


「とは言っても、ここからヴァイゼルにはまだかなり距離がありますし、いくつかの村を経由していくことになると思いますが」

「ふむ。それでこの獣人のお嬢ちゃんは旅の相棒というわけか」

「ええ。まあ、そんなところです」

「ふふん。旅はみちづれ」

「……」


 その言葉、気に入ってるんだろうか……。


 隣にいたメロは何故かドヤ顔を決めると、紅茶にフーフーと息をかけながら口へと運んでいた。


「して、リヒトよ。儂が作った勇者の剣と白銀の鎧。あれは北方の宿屋に置いてきたと言っていたな」

「え、ええ……。念のため置き手紙をしてきたので、たぶん国王様に献上されることになっているかなと」

「ふむ。それなら今頃はヴァイゼルに運ばれて飾られているかもしれんの」

「すみません。ガンドフさんに一言断りを入れるべきだったと思うのですが……」

「ハッハッハ。そういう経緯があったなら別に良いわい。それに、前にも言ったじゃろう。あの剣と鎧が必要なくなるために儂は作ったんじゃ。魔王が討たれた今、美術品にでもされる方があれも本望じゃろうて」


「そもそも、あれを持っていたらお主はゆっくり旅なんてできんじゃろうしの」と付け加えて、ガンドフさんは笑ってくれた。

 そう言ってくれると俺としても肩の荷が下りる思いだ。


「しかしリヒトよ」

「はい」


 紅茶に口をつけようとしたところ、ガンドフさんが改まった様子で声をかけてくる。


「お主、本当に魔王を倒したんじゃなぁ」


 ガンドフさんの表情はどこか印象的で、今までとは少し違うように見えた。


 俺の一度目の旅。その目的の成就を心底喜んでくれている。

 そんな、柔らかく優しい笑みだった。


(……ガンドフさん、剣と鎧を作ってくれた時に言っていたっけ。この剣と鎧が必要なくなるよう、願いを込めて鎚を振るうと)


 ガンドフさんのいつかの想いを実感することができた気がして、俺もまた自然と笑みがこぼれる。


「ありがとうございます。今こうして二度目の旅ができているのも、ガンドフさんのおかげです」

「いやなに。この老いぼれが力になれたんだったら何よりじゃい。それよりもリヒトよ、旅は楽しめているか?」

「はい。これまでの街や村で会った人たちから、とても大切なことを教えてもらいました。今まで見れなかったもの、気付けなかったもの、そういうものを見つけられる旅にできればと、そう思っています」

「ふっふ。本当に、あの剣と鎧を作った甲斐があったというものじゃ」


 前の旅では何度も勇者の剣と鎧に助けられた。


 あの剣と鎧がなければ魔王討伐はなし得なかっただろう。

 そして、今の旅もなかっただろう。


 俺がそういう感謝の気持ちを伝えると、ガンドフさんは満足そうな様子だった。


「まあしかし、あれはなかなかカッコいい造りだったじゃろう?」

「はは、そうですね」


 ガンドフさんは髭を擦りながら得意げだ。


 以前からのお茶目な人柄も変わっていないようでどこかほっとする。


「そーいえばあるじ、ドワーフのおじちゃんにお礼がしたいって言ってたね。王都にいるって聞いてたけど、何でこんなところにいるの?」

「確かに。俺もガンドフさんはヴァイゼルにいるものだと思っていましたが、どうしてこちらに?」

「うむ。儂は元々あまり人が多い場所は好きではないからのぅ」

「そういえばそうでしたね」


 確かに、そんなことを言っていた気がする。


 人が嫌いというわけではないらしいが、ガンドフさんは人が多い街よりも自然豊かな場所の方が性に合ってるんだとか。


「ヴァイゼルにも魔王討伐の報せが届いて大騒ぎじゃったし、国王からの依頼も一段落ついたしな。褒美としてこの土地と家をもらったから、ここでくつろいでるというわけじゃ」

「なるほど」

「国王からは時折手紙が届くがのぅ。どうせ暇だろうからヴァイゼルに来て一杯やらないかって内容だったが」

「はは……。国王様らしいですね」


「まったく」と愚痴を漏らしつつも、ガンドフさんはどこか嬉しそうに紅茶を飲んでいた。


「と、そういえば国王のやつ、もし顔を出さないなら仕事を引き受けろとか言ってきおったの。まったく、老人使いが荒いやつじゃ」

「ははは。それはきっとガンドフさんと呑みたいって裏返しですよ」

「そうかもしれんがの。まあ、それはそれとして、仕事を引き受けてほしいというのは本当じゃろうな」

「ちなみに国王様からの仕事というのは一体どんな内容なんです?」

「うむ。実はとある鉱石を見つけてほしいというものなんじゃが……」


 そこでガンドフさんは言葉を切って、俺を見やる。


 何だろうかと思っていると、ガンドフさんはポンっと手を叩き、突然大げさに咳き込み出した。


「ゲホッゲホッ。その鉱石を採掘しに行きたいんじゃがのぅ。持病の腰痛が酷くてのぅ。ああ、誰か代わりに採りに行ってはくれんかのぅ」

「……いや、腰痛なら咳き込むのはおかしいでしょう」


 ガンドフさんのわざとらしい演技に、俺は溜息をつく。


 そして、俺はガンドフさんの依頼を受けることになり、指定の鉱石を探すことになるのだった。


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