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第2話 可愛らしい旅の同行者


「メロ、そろそろどいてくれ。顔も()めすぎだ」

「あ、ゴメンあるじ。会えたのが嬉しくて、つい」


 異世界を巡る旅に出て早々。

 俺は草原で巨大な白狼にのしかかられていた。


 ポンポンと前足を叩いて声をかけると、白い狼は俺の上からどいておすわりの姿勢を取る。


 ――こいつの名前はメロ。


 魔王討伐の旅の途中で出会った狼で、ちなみに女の子である。


 出会った時にひどい怪我を負っていたものだから、薬草を探し手当てしてやったのだが、それでどうやら懐かれたらしい。


「あるじ」と変な呼び方をされるようになり、たびたび俺のところにやって来ては先程のような体当たりをぶちかましてくるのだ。


「お前なぁ、普通の人間なら気絶してたぞ」

「だいじょぶ。メロは人を見る目ある。あるじならへーきでしょ?」

「でしょ? じゃないんだよなぁ……」

「ぷくく。さっきのあるじ、めっちゃ叫んでて面白かった」

「それはお前が突撃してきたからな?」


 メロは、俺が出会った頃は小さい子犬のようだったのだが、今では巨大な狼になっている。

 いい奴なんだが、オークよりデカい体で突進されるこっちの身にもなってほしいもんだ。


「そういえばあるじ。ゆーしゃの剣とピカピカの鎧、どした?」

「ん? ああ。あれは置いてきたよ。もう必要なくなったからな」

「おおー。ってことはあるじ、悪いやつ倒した?」

「そういうことだな」

「おめ」


 砕けた言葉を使ってきたメロに俺は溜息をつき、わしゃわしゃと撫でてやった。


 そして俺はメロにこれから俺がやろうと思っていること――勇者である身分を隠し、異世界を旅して回ることについて、掻い摘んで話していく。


「……なるほど。それならあるじ。メロはやっぱりあるじと一緒に行きたい」

「あのな、前にも言っただろ? メロみたいなデカい狼がついてきたらそこの人たちが慌てちゃうんだって。お前はいい奴だし人語も喋れるから、分かってもらえるとは思うけど、だとしても宿屋とか入れないだろ?」

「ふふん。それならもうへーきになった」

「ん?」

「あるじに進化したメロを見せてあげる」


 どういうことだろうか?


 俺が疑問符を浮かべていると、メロは得意げに鼻を鳴らして目を閉じた。

 そして、メロの体がまばゆく発光し始める。


 光が収まると、そこには――。


「お、おいメロ……」

「どう? これがメロの進化した姿だよ?」

「……」


 頭からは獣耳が、腰のあたりからはフサフサの尻尾が生えていて、元の狼だった時の面影はある。


 しかし、そこにいたのはゲームやアニメで見るような獣人の出で立ちをした女の子だった。


「これならあるじと一緒に行ってもへーき。でしょ?」

「メロ、お前……」


 メロはドヤ顔で腰に手を当て、仁王立ちしている。

 そうしていると確かに人間の女の子といった感じで、旅をするにしても問題はないように思える。


 しかしそんなことより、今の俺にはどうしても言いたいことがあった。


「ということであるじ。新しい旅へとれっつごー!」

「レッツゴーじゃねえっ! まずは服着ろぉおおおおっ!!!」


   ***


「ふぅ……。さすがにダボダボだけど仕方ないか。とりあえずはそれで我慢してくれ」

「ふふ。あるじの服、あるじの服♪」


 とりあえずメロには俺が持ってきた替えの服を着せてやり、紐でくくりつけてやった。

 さすがに裸の少女を連れ歩く趣味はない。……というかこの世界でもたぶん捕まる。


 そんな俺の心情をよそに、メロは俺の服に鼻を近づけてくんくんと嗅いでいた。


 なんだかさっきの騒動で断る気が削がれた感じがして、俺はまた溜息をつく。


「で? 本当についてくるのか?」

「もちろん。旅はみちづれ」

「どこで覚えたんだ、そんな言葉」


 いや、俺が前に言った気もする。

 というか、たまにメロが使うの変な言葉はだいたい俺が原因かもしれない。


「それに、メロはあるじに助けてもらった『恩返し』がしたいんだ」

「いや、別にいいんだが……」

「まおうを討伐しに行く時だって、ほんとは一緒に行きたかった。でも、あるじはメロが傷つくのは嫌だって言った。嬉しかったけど、ちょっぴり寂しかった」

「……」


 メロは頭から生えた獣耳を垂らして、それから両手の拳を握って俺を見上げてきた。


「だからメロ、いっぱい修行して、ご飯食べて強くなった。体もおっきくなったし、人間の姿にもなれるようになった。いっぱいいっぱい、頑張った」

「獣耳と尻尾はそのまんまだけどな」

「それはごあいきょー」


 俺はメロと言葉を交わしながらも心の内では感心していた。

 たくさん努力したというのは、確かにそうなのかもしれないと。


 この世界で獣が人に姿を変えるというのは、限られた者にしかできない特殊なことだからだ。

 さっきの体当たりだって随分と威力が増していた。


 メロに言わせればそれらは俺のために頑張った結果ということらしいが、そこまで献身的なことを言われると照れくさくなる。


「ちなみに、メロ。恩返しって具体的には?」

「わかんない」

「わかんないんかい」

「それじゃこういうのはどう? あるじが世界を救ったえいゆーだって言いふらすとか。たぶんあるじ、めちゃくちゃ感謝される」

「あのな、俺は身分を隠して旅がしたいんだぞ。この世界の人たちが平和になったんならそれでいいし、別に感謝されたいわけじゃない」

「むー。メロはあるじが認められたら嬉しいけど」

「……気持ちだけ受け取っとくよ」


 メロの純粋な想いは嬉しいが、特別扱いを受けたいわけではない。

 それに、わざわざ勇者の証である剣と鎧を置いてきた意味がなくなってしまう。


「でもでも、メロがお役に立てることはあるはず。だから、あるじと一緒に行きたいんだ。メロもあるじと一緒に色んなものをみてみたい。それじゃ、ダメ?」


 そんな風に尻尾をブンブンと振りながら目を輝かせるのは反則というものだ。


(まあ、拒否する理由も無くなったし。確かに旅は道連れ、かな)


 俺は苦笑しながら、メロに声をかけた。


「分かった。その代わり、街の中とかではその姿でいることな。あと、悪い人にはついていかないこと。夜更かしも禁止」

「らじゃー」


 メロはそう言ってびしっと敬礼のポーズをしてみせる。


 そうして俺の旅は早々に可愛らしい同行者ができたのだった。



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