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【11/24・コミカライズ連載開始!】旅人のおっさん、自由気ままなスローライフを送りたいのに世界を救った真の英雄だとバレる  作者: 天池のぞむ


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第19話 勇者様に乾杯を


「ドーグルさんってこんな大商会の商会長さんだったんですね」

「ハハハ! そういえば言ってなかったか。わりぃわりぃ!」


 商業都市ガザドに着いてすぐのこと。


 俺とメロの二人はドーグルさんに連れられ、街で一番の商館へと案内されていた。


 何だか高そうな調度品が並んでいる応接室に通され、何だか高そうなソファーに座らされ、今は何だか高そうな紅茶を口にしている。


「人はみかけによらず」

「そうだろうおチビちゃん。ありがとな!」

「別にほめてないけどねー」


 先程までの調子と相変わらずだったが、ドーグルさんは確かにこの商会の長らしい。


 この商館に着いた後、荷馬車を裏口に付けると大勢の職員たちがやって来てドーグルさんの到着を迎えていた。


 そのまま俺たちも客人としてもてなされ、今に至る。


「でも、どうして商会長さんが自ら馬車を引いていたんです? 最初は普通の行商人さんかと思いましたよ」

「ああして時折、旅気分を味わいたくなるのさ。オレは元々行商上がりの人間だしな。堅っ苦しい執務ばかりだと疲れちまってよ」

「なるほど。それは分かる気がしますね」

「それに今じゃ優秀な後釜も大勢いるし、ちょっとくらい商館を留守にしても問題ねえってわけだ」


 そう言ってドーグルさんはまた豪快に笑った。


 旅好きというところも親近感があるなと思いながら、俺は出された紅茶に口を付ける。


(あ、美味い……。あとすごく良い匂いがする。後で銘柄聞いておこうかな)


 そんなことを考えていると、ドーグルさんがソファーから立ち上がる。

 メロじゃないが、本当に熊のような見た目だなという印象を抱く。


「さて、ラハテさんたち。さっきの約束通りご馳走させてもらいてえんだが、生憎ちょっとした用事があってな。すぐに終わるから二人もついてきてくれるかい?」

「え? ええ」


 ドーグルさんはニカッと笑い、俺たちはその後をついていくことになった。


   ***


「あるじ。あの熊のおっちゃん、広場のまんなかで何してるの?」

「うーん。何でも、商会長としての挨拶があるって言ってたけど……」


 夜になって。

 商業都市ガザドの大広場にはたくさんの人だかりができていた。


 その中心には音頭を取る司会らしき人と、それからドーグルさんが立っている。


 集まった人たちみんながドーグルさんを知っているようで、親しげに声をかけている人もいた。


 広場は賑やかな喧騒に満ちていて、酒を持っている者も多いようだ。


(そういえば、今日は魔王討伐を祝して宴が開かれると言っていたな)


 恐らくドーグルさんはその開会の挨拶を任されているのだろう。


 さすが大商会の商会長といったところだが、気になることがある。


「でもあるじ。熊のおっちゃんのとなりにあるでっかいやつは何? 布がかかってて見えないんだけど。……はっ。まさかあの中にはおっきなケーキが隠されていたり」

「いや、それはないと思うけど……」


 早いもの勝ちになるとでも思ったのか、メロはいつでも走り出せるように身構えていた。


(でも本当に何だろうな、アレ)


 さっきドーグルさんが商会の職員たちに命じて運ばせていたから、きっとあれは荷馬車に積んでいたものなんだろう。


 馬車に乗せてもらっている時に尋ねたら中身は秘密と言っていたが……。


 俺はそうして思考を巡らせていただが、すぐにその答えは明らかになる。


「それでは、魔王討伐を祝して除幕式を行います! フロント商会のドーグル・フロント氏、よろしくお願いします!」

「おう、皆の衆。最近は辛気臭え問題もあるが、今日は楽しむとしよう。長々とした挨拶とか堅っ苦しいのは嫌いだからよ。さっそくいくぜ!」


 ドーグルさんがそう言って、謎の物体を覆っていた布を思い切り引っ張る。


 そこから姿を現したのは――。


「ガッハッハ! これからはコイツが商業都市ガザドのシンボルになるぞぉ!」

「「「おぉー!!」」」


「えぇ……」


 何と、中身は勇者を模した銅像だった。


 特注品というやつなのだろうか。

 精巧に作られた勇者の剣や白銀の鎧のレプリカも再現されていた。


 剣を天に突き上げている様は何というか、やりすぎな感じもするが……。


「それじゃ、世界を救ってくれた勇者リヒト様に、乾杯っ!」

「「「カンパーイッ!」」」


 ドーグルさんが乾杯の音頭を取ると、皆が高らかに叫び酒器を掲げる。


 中には銅像に駆け寄り、膝をついて祈っている人までいた。


 俺はあまりの恥ずかしさに顔を覆いたくなる。

 いや、実際に覆っていた。


「あの像、あんまりあるじに似てないけど」

「……」

「なんだかあるじ、神さまみたいに扱われてるね」

「やめてくれメロ。余計に恥ずかしい……」


 そんなやり取りを交わす傍ら、皆が俺の銅像に向けて感謝の言葉や乾杯の動作を向けている。


 そうして、商業都市ガザドでの祝祭が開始することとなった。



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旅人のおっさん、自由気ままなスローライフを送りたいのに世界を救った真の英雄だとバレる





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