茶柱と推しの子
今日は金曜、『金曜 女のドラマシリーズ』ですが……真っ黒です!!(^^;)
テレビから流れる大物俳優とファンの女性との不倫妊娠騒動に、朝食を摂る夫の箸が止まった。
「歳の差30か……できるもんなんだな ま、そうか……」
私は……独り言ちる夫にお茶を出すついでに口も出す。
「アナタは『昼は忙しくてろくに食べられないから朝は“ご飯”で充実させてくれ』って言ったけど、どこかの子供みたいにのんびり食べるほどの余裕はないでしょ?!それに人様の事をより私達の事を考えてよ! お義母様から責められるのは私なのよ!!今日は必ず早く帰って来て下さいね!!(排卵日予測)検査薬で調べたら今日がベストなんだから!!」
まくしたてるとあからさまに嫌な顔をする夫から目を離し、私は自分の湯呑にお茶を注ぐ。
「あら!茶柱が立ってる! ほらっ!見て!」と夫の目の前に湯呑を突き出す。
「茶柱が立つなんて幸先がいいからアナタが飲んで!今日はしっかりして下さいね!」
代わりに夫の湯呑を取り上げてくいっ!と飲むと私は自分の食器を下げ、さっさと洗い物を始める。
一人息子というのは、どうしてこうもグズなのか……きっと幼いころから、ただ座っているこの人の前にお義母様が何もかも用意してあげていたのだろう。
結婚して2年目の頃……
「代われるものなら私が代わりたい!」私を前にしてお義母様が発した言葉に私の背筋は凍り、私は夫には内緒で不妊外来を受診した。
色々と大変な思いをして最終的に医師から言われたのは
「これ以上望むのならご主人に検査を受けて戴く必要があります。その上で取るべき方法があるか考えてみましょう」だった。
こんな事を……
夫やお義母様には言える筈もなく、私はただ月々の妊活を続けている。
実に淡々と……
それは私の中の“懸念”が事実上消え去ったからに他ならない。
私を避けてそそくさと出て行った夫が閉めた古びた鉄の扉を一瞥する。
結婚する時に、夫が実家から援助してもらって衝動買いした“お値打ち”の中古マンションはリフォームがここまでは及んでいなかった。
考えてみれば……さっきの“大物俳優”より夫は運がいいのかもしれない。
私は夫が会社の後輩と不倫をしているのを知っている。
それどころか……お義母様とも関係があったのではないかと疑っている。
そんな男を!!素で受け入れるのは……私だって本当は嫌だ!
怖気が走る!!
でも我慢している。
“失敗”しても種が無い故に“トラブル”を免れているのと、“不埒な所業”にひと言の文句も言わない女を娶った男は……その事だけを取って見れば運がいいのだろう。
まあ!私はそれで構わない。
きっと夫は……今日は遅く帰って来る。
余り考えたくは無いが……
こういう時に限って、他で無駄打ちして帰って来るのが、この手のクズ男の習性だ!
その“デート代”を……昼食代を削るだけでは足りず、母親から無心した小遣いで賄っている様などうしようもない男が夫の実像!!
けれども……
「こんな奴だと分かっていたなら結婚なんかしなかった!!」
とはならない。
する事は!
してもらうから……
私には隠し事がある。
夫には勿論、大学生の頃からは周囲にひた隠しにして来たが……私は小学生時分からガチの“アニオタ”で……
私の“推しキャラ”の多くの声を当てて来たのが声優の神矢真 悠サマ!!
中学生の時、最初に“出待ち”をしたのも神矢真サマがゲストのイベントだった。
こうやってスタッフの目をかいくぐって来た筋金入りのファンの私は……先程、ニュースにまでなってしまったどこかのバカの様な事はしない。
私はスマホを立ち上げ『鈴木美穂』の名前をタップし、メッセする。
「今日はオフですよね! 問題なければ予定通り逢いませんか? 私は今日『安全』です」
すぐに『OK!』のスタンプが来て私はスマホを抱きしめる。
人間は誰しも取り柄がある!
クソくだらない夫の取り柄は私の『推し』に顔が似ている事!!
『推し』への愛が嵩じた挙句……勘違いで結婚してしまったけど、すぐにその勘違いに気付いて私の『推し』愛は更に燃え盛った!!
岩をも通す一念で神矢真サマの腕に抱かれたのは半年前……
そう!『夫の子供を産む事はない』との確証を得て、私が『推し』に猛アタックを掛けた結果だ!!
ああ!! ようやく!!
この世でただ一人の……愛して止まない人との子供を産める条件が整った。
後は今月のこのチャンスを逃さない様にしなければ!!
その為になら、夫との“作業”も淡々とこなせる。
総ては『推しの子』をこの腕に抱き、愛しみ、育て上げる為の事なのだから……
おしまい
「黒さに自信あり!!」のこの作品を書いたので……来週の『月曜真っ黒シリーズ』はお休みするかも(^_-)-☆
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