第91話 Aランクパーティー
冒険者の誰もが憧れるランクのパーティーが登場します!
ギルドマスターであるカルヴァリオさんのお願いでベトカルブと言う街に赴いて欲しいと言うクエストを受ける流れになった。
ふとしたきっかけでBランクパーティーの【ブリリアントロード】を率いるウィーネスさんを筆頭にしばらく修行を共にしていく中、Aランクパーティーの【ノーブルウィング】と顔合わせする日を迎える。
「出発日は明日になるけど……。一緒に来てくれる【ノーブルウィング】の皆様と今から会うとなると、緊張するな……」
「硬くならないで下さい!【ノーブルウィング】の皆様は本当に良い人達ばかりですからご安心を……」
「そ、そうか……」
エレーナはそう言うが、俺達の心は内心穏やかではない。
俺はもちろん、セリカやミレイユ、クルスも緊張気味だ。
いつもは案内してくれる受付嬢のナミネさんやギルドマスターであるカルヴァリオさんの秘書であるミーナスさんは今回に限って所用でおらず、時間通りに来て欲しいと言われて動いているに過ぎなかったのだから……。
「失礼します。トーマです。【トラストフォース】全員揃っています」
「入りなさい」
ノックをして呼んだところ、扉越しからカルヴァリオさんの声が届き、ドアを開けた。
そこにはカルヴァリオさんと1名の男性と3名の女性が待っていた。
「来てくれてありがとう。待っていたよ」
「いえ、滅相もございません。そちらにいる方々は……」
「あぁ……。【ノーブルウィング】の皆様だ」
俺達はその視線を向けると、一人の女性が歩み寄ってきた。
「エレーナ様……。ご無沙汰しております。この度は【アンビシャノブアレス】が依頼した協力クエストを引き受けて下さり感謝しています」
「頭を上げて下さい!ウルミナさん」
「良いんですよ!私達もロミック様にお世話になった身ですから……」
エレーナに向かって、謙遜の意を持って向き合っている女性を見ている。
そうして1分もしない間に俺達の存在にも気付いて歩み寄っていた。
「初めまして。【ノーブルウィング】のリーダーをしているウルミナ・トレクルスよ!今回のクエストに協力して頂ける事を心の底から感謝するわ!」
「こ、こちらこそ……」
握手を交わしてきたこの女性はウルミナさんと言い、冒険者ランクAの『魔術師』であり、パーティーのリーダー格だ。
腰まで届く長さの銀が少しかかった赤茶色い髪にサファイアのように輝く碧眼、透き通った純白な陶器のように白く滑らかな肌をした色気と上品さを混ぜたような美貌の女性だ。
素の身長は俺より少し低いか同じと思われ、出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでいる体型だ。
ウルミナさんの服装も黒を基調にしたチューブトップのような形をしたローブにはスリットが入っており、肩の付け根近くまである指ぬきのアームカバーや黒いロングブーツにアイテムらしきアクセサリーを首周りに付けており、大きめなサイズをしたすみれ色のマントに身を包んでいる。
手に握る1メートル半ほどの長さの杖も、一目で最高級と思わせるような何かを感じた。
「エレーナ様はご存じとお思いですが、残りのメンバーも紹介するわ」
ウルミナさんが自己紹介するように男性一名と女性二名が俺達の下に歩み寄って来た。
他に一名いるが、訳あってベカトルブ近辺で待機しているとの事だ。
「私はルエミ・ジェイレンと申します。エレーナ様の指南役をさせておりました。」
恭しく挨拶しているのは、ルエミさんと言う冒険者ランクAの『付与術士』であり、パーティーにおける縁の下の力持ちにして、エレーナが特に教えを受けた人物である。
サラサラな明るい茶色のセミロングヘアに薄い紅色の瞳と張り艶のある健康的な肌をした淑やかさも感じさせる綺麗な女性であり、自信と気品を感じさせる。
ベージュを基調にした法衣のようなローブと紺色のマントを羽織っており、手に持っている杖も派手さと洗練さを感じさせる。
エレーナがお世話になっていた頃、同じ『付与術士』として主な指導係を担っており、今の彼女の冒険者としての基盤を築き上げた功労者と言ってもよく、彼女やメンバーの世話役をいつも買って出ている面倒見の良い女性だ。
「アタシはジーナ・ガイボンよ!皆よろしくね!」
先の二人と打って変わって気さくに声をかけてきたのはジーナさんであり、冒険者ランクAの『重戦士』だ。
焦げ茶色のミディアムヘアをザンバラ髪のようにしており、少し浅黒い肌をした活動的な印象であり、身長も180センチ後半はありそうな筋肉質で恰幅の良い体格の女性だ。
ウルミナさんやルエミさんのように気品も感じる美しさこそないものの、明るく快活さを感じさせる愛嬌を持っている。
『重戦士』らしく鎧に身を包んでいるが、人体の急所を守る事に焦点を置きながらも、活き活きと動かしやすいような構造になっており、背負っている大きな両刃斧がその剛毅さに拍車をかけている。
パーティー内における攻防の要であり、メンバー最年長のお母さん的な存在との事だ。
「俺はランディー・トスカー。『槍術士』をしている。今回はよろしく頼む」
クールに淡々と挨拶する長身痩躯な男性のランディーさんは冒険者ランクAの『槍術士』だ。
濃い緑色のベリーショートヘアに細身ながらもよく鍛えられたのが分かるように鍛え引き締まった肉体に精悍さをまざまざと見せ付けるような風貌が特徴的な男性であり、今は亡き『槍術士』のドキュノとは比べ物にならない猛者と感じさせた。
纏っている装備も機動性重視にしながらも、急所をしっかり覆っているミスリル製の軽鎧と手甲や脛当てに包んでおり、手に握る豪華さと洗練さを兼ね備えているであろう槍も、一目で上等なのが分かる。
パーティー内ではジーナさんと並ぶ前衛担当であり、若い部類ながらも相当な実力者であるとの話だ。
そうして俺達も自己紹介を終えていった。
「顔合わせは終わったところかな?明日からベカトルブに赴いてもらうのだが、これから打ち合わせに入らせてもらうから、隣の応接室に来てもらっていいかな?」
カルヴァリオさんがそう言うと、20人は座れるほどの広さの部屋に長いテーブルと椅子が並べられており、それぞれ向き合う形で座った。
「今回の【アンビシャノブアレス】から協力を申し出られたクエストなのだが、【聖属性魔法】なくしては解決に繋がらない特殊なモノになっている。それで【聖属性魔法】が使えるエレーナが所属する【トラストフォース】と、彼女が修行していた時に世話になっていた【ノーブルウィング】を派遣させる事になった」
「それは存じております……」
「詳しい内容とは一体……」
澄ましながらも毅然としているウルミナさんに対し、俺は少し身構えている。
「ベカトルブ近辺で洞窟型のダンジョンが発見された。その最奥にあるかもしれないアイテムを取って来て欲しい。と言うモノだ……」
「ダンジョン!?」
ダンジョンと言う単語を聞いて、俺は驚きと好奇心が入り混じったような感情が湧いた。
ダンジョンって言えば、ファンタジーの世界では切っても切り離せない存在であり、いつか遭遇するだろう、RPG好きな俺にとっては無意識に心が躍りそうな要素だ。
「そのダンジョン攻略とエレーナの存在が凄く絡んでいると言う意味でしょうか……?」
「そうだ。【アンビシャノブアレス】がその攻略を数度試みたらしいが、【聖属性魔法】を持った冒険者の存在が必須になったと言う結論に至った……」
「それで、【聖属性魔法】を使えるエレーナがいる【トラストフォース】や彼女がお世話になりAランクパーティーの称号を持つ【ノーブルウィング】に白羽の矢が立ったと……」
「そう言う事になるね……」
心が躍りそうになったが、ニヒルな言葉を聞いてそれは数秒で収まった。
それでも、ビュレガンセ内でも数ある冒険者ギルドの中でもトップクラスの武闘派で知られる【アンビシャノブアレス】でもお手上げになり兼ねない事態を知れば知るほどに放置していいか分からない自分がいるのだった……。
「エレーナがかつてお世話になっていた【ノーブルウィング】を筆頭にお願いしたって次第なんだ……」
「……」
一切の私情を抜いたように伝えるカルヴァリオさんの表情を見て、気が引き締まった。
「ダンジョンと言う名の通り、冒険者にとっては挑む目標であると同時に挑む事そのものに命のリスクが伴ってくる……。もちろん目的を達成して欲しいのは本音だが、決して無茶をしてしまわないように……」
「承知しました……」
それから諸々の打ち合わせが終わり、俺達は帰路に着いていった。
「エレーナ様。そして【トラストフォース】の皆様。明日はどうぞよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
「あの……。ウルミナさん。皆様……。一つわたくしからよろしいでしょうか……?」
「ハイ……。何か……?」
出発を明日に控えている中、ウルミナさんに礼儀正しく向き合うエレーナがおり、張り詰めたような空気が漂う。
数秒後—————
「ウルミナさんを始めとする【ノーブルウィング】の皆様に修行を付けて頂けた事には本当に感謝しております。ですが、今のわたくしは【アテナズスピリッツ】に所属する一人の冒険者、エレーナ・ハイレンドです!だからこれからは、敬称や敬語はなしで接していただきたいのです!」
一時は預かった身と言え、エレーナはウルミナさん達に一人の冒険者としての関係を続けて欲しいと言うメッセージを迷いなく伝えていた。
それを聞いていたウルミナさん達も、その目を見て決意を感じているようだった。
それから数秒して——————
「分かったわ。今回のクエストはよろしく頼むわね。エレーナ……」
「ハイ!」
ウルミナさん達は速攻で切り替えていた。
エレーナは一人の冒険者としてキャリアを積んでいく覚悟を感じたのだろう……。
「【トラストフォース】の皆様……。明日はよろしくお願いするわね」
「ハイ!よろしくお願いします!」
「「「「よろしくお願いします!」」」」
こうして俺達は、当日指定された場所に赴く事を伝えられた後にウルミナさん達とその場で分かれた。
まだまだお昼だが、明日に備えて回復用ポーションや戦闘の補助アイテムを帰りに買い揃えてから帰路に着く事にした。
「武具のメンテナンスもしっかりやっておこう!」
「ダンジョンは私も初めてですが、全力を尽くします!」
「やってやるわよ!」
「洞窟系のダンジョンならば、僕の出番ですね!」
武具やアイテムを扱う御用達のお店の『ロマンガドーン』で必要な物資を購入しようとする中、エレーナの目にあるものが飛び込んで来た。
「あら?これは……?」
「どうしたのエレーナ……?ってもしかしたらそれ……」
ボトルに詰まったその液体は美しい川のように透き通った無色透明ながらも神秘さも感じさせており、それを手に持って凝視しているエレーナに気付いたミレイユが声をかけると、同じくそれが何なのかを思い出したような表情をしていた。
俺も二人の下へ歩み寄っている。
「“パージフルード”ですね……。別名『聖水』と呼ばれる“アンデッド”や“ゴースト”系のモンスターへの数少ない対抗手段のアイテムです」
「そんなレアアイテムが何で?店主さん!いつから入荷されましたか?」
「確か3日前だな……」
エレーナが解説した後、ミレイユが店主さんに確認を取った。
武具もアイテムも品揃えがいい店とは言え、ピーキーな要素が強いアイテムを取り扱う事はなかった。
それを聞いたエレーナは確信した。
「恐らく、お父様の計らいだと思われます……。この辺りの商会にもコネがありますので」
「なるほどね~」
(親バカだな!ロミック様)
エレーナは悟った表情をしており、ミレイユは合点がいったような表情をしていた。
値段を見ると、500ミリリットルほどしかないのに一本10万エドルと今まで手を付けたアイテムの中ではトップクラスであり、普段買うポーションとは比べ物にならない値段だった。
「トーマさん!これを5本ほど購入しましょう!ダンジョン内なので“アンデッド”や“ゴースト”系のモンスターが出て来ない可能性もないですので!」
「え……?5本買ったら50万エドルだぞ!」
「わたくしも必要以上の贅沢はしてしまいたくはないです。ダンジョンでは普通の攻撃が通じないモンスターや悪辣なトラップも待ち構えている可能性は十分あります。そのためのリスクヘッジは当然ですし、この手の対抗手段を持っておけば生き残る確率も大怪我する確率も確実に減ります!」
「……」
エレーナは貴族令嬢だけど、高飛車な性格をしていなければ、浪費家なんて事は全然無く、むしろしっかりとした金銭感覚を持っている。
その考えを聞いて、踏ん切りが付いた。
「分かった。万が一に備えて買っておこう!」
「ありがとうございます!」
最終的には今まで手に入れたアイテム史上最高額の“パージフルード”を5本も買う事になったが、不思議と安心感が出てきた。
こうして買いたいモノを買えた俺達は拠点にしている邸宅へと戻って行った。
(明日は気を引き締めよう!)
俺達はそれぞれの部屋で武具のメンテナンスや持っているアイテムの確認をしながらその日を過ごした。
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