第88話 先輩冒険者達による手解き
先達の冒険者達との修行です!
注目はセリカとウィーネスの(模擬戦による)一騎打ちです!
【トラストフォース】に加わる事になったハイレンド伯爵家のご令嬢にして、『付与術士』のギフトを授かったエレーナをパーティーの一員として迎え入れて行動する事になった。
そんな中、カルヴァリオさんのお願いでベトカルブと言う街に赴いて欲しいと言うクエストを受ける流れになった。
ふとしたきっかけでBランクパーティーの【ブリリアントロード】を率いるウィーネスさんを筆頭にしばらく行動を共にする事となった。
翌日——————
「おらぁあーー!」
「いい打ち込みじゃん!もっと来な!」
「ハイ!」
俺はティリルから少し離れた草原で、ウィーネスさんと剣術の稽古に励んでいた。
普段使っている武器を模した木剣で実戦さながらに撃ち合い、数分間それを終えたらフィードバックされると言うのを繰り返していた。
そう、今の俺達は【ブリリアントロード】から修行を付けられているのだ。
そして現在、俺はウィーネスさんに滅多打ちにされていた。
「トーマ!普段からモンスターの討伐やセリカ達との修行で剣術や立ち回りを学んではいると思うけど、まだまだ粗削りよ!」
「そうですか……?」
「そうよ!モンスターの討伐やコロニー殲滅はセリカ達のフォローがあるにしても、誰もいない時には立ち回りについてよく考えないと……」
普段のウィーネスさんは社交性溢れながらも気配りが感じられるけど、いざ稽古になれば中々スパルタに接してきていた。
ウィーネスさんもBランク冒険者なだけに、剣術や立ち回り、スキルの扱いまでビシバシ伝えてきたが、これを初日からされているのだから中々応える。
正直、異世界に飛ばされてすぐに修行の段階で一からこんな事をされていたらポッキリ心が折れそうだった。
飛ばされてすぐに出会い、剣術や戦闘に関係する心構えが備わっていて優しく教えてくれたのがセリカで良かったと改めて思う俺だった。
それからは接近戦がメインになる俺とセリカはバダックさんとも打ち稽古や魔法攻撃がメインとなるミレイユはウィーネスさんが率いるメンバーの一員にして、Bランク『魔術師』であるリエナさんと実戦形式で手合わせしながらフィードバックし合っている。
ミレイユもリエナさんも【水魔法】や【氷魔法】を使える者同士で通じ合うところがあるからか、どちらも新しい発見になればと思っての采配だ。
クルスも普段使う二本のロングナイフを模した木剣でウィーネスさんと撃ち合った後、Bランク『アーチャー』のモレラさんから戦術についての手解きを受けていた。
「リエナさん。流石に強いですね……」
「それを言うならミレイユこそ、その年で【水魔法】の発展版と言われる【氷魔法】を早い段階で身に付け、【炎魔法】の派生版にして破壊力特化と言われる【爆撃魔法】を習得し始めているから、【炎魔法】が苦手な私から見れば羨ましい限りよ……」
「クルス君、【気配遮断LV.3】をその年で習得しているとはね……。加えて【武術LV.1】も習得したならば、武器が無い状態でもできる事はかなりあるからね……」
「本当ですか!?是非教われればと思います!」
「分かった!まずは……」
もしも誰かが傷付いた時、ウチからはエレーナ、ウィーネスさん側からはトクサさんによる【回復魔法】でそれぞれのパーティーメンバーの治癒をその都度行われていた。
もちろん、エレーナとトクサさんもスキル向上のために実戦形式でフィードバックしながら実力の向上を図っている。
昼食を挟んで一時間ほど……。
「ウィーネスさん!行きます!」
「最後に手合わせした時よりも良い顔してるね!でも負けるつもりは一切合切無いから、どっからでも来な!【風魔法】や【雷魔法】とか一向に使って構わないからさ!」
「ハイ!」
セリカとウィーネスさんの一騎打ちによる模擬戦だ。
次の瞬間、セリカが突っ込んでいき、ウィーネスさんはドンと構えた様子で迎え撃つ姿勢を見せている。
セリカが鋭い横薙ぎを放つと、ウィーネスさんは余裕な表情で受け止め、セリカは回り込みながら数発撃ち込むが、これを体捌きと受けで止められる。
ランクは違うのを加味しても、年齢もキャリアもウィーネスさんの方が上であるのは分かっている。
だが、俺はセリカを応援せずにいられなかった。
「やぁああああ!!」
「良い気迫と撃ち込みね!」
そしてセリカとウィーネスさんの撃ち合いが始まった。
セリカは強い勢いで踏み込みながら稽古用の木剣を打ち込み続けるが、ウィーネスさんは意にも介さないかのようにいなしていた。
「はぁあああ!」
「ふぅううん!」
「【風魔法LV.1】『ウインドスライサー』!」
「そう撃ちたくなるよね!」
「【剣戟LV.1】「ゲイルスラスト」!」
「魔法攻撃の後は剣を始めとする近接戦向けの攻撃に頼りたくなるよね!ほら脇腹!」
「!!」
セリカが【風魔法】を始めとする戦術による立ち回りに対して、もう分かり切っているかのようにいなしつつ、まるで物覚えがなっていない生徒に説教をする教師のように要所要所でウィーネスさんはツボを突くかのように教えていた。
事実ウィーネスさんは熟練された戦闘者のように立ち回り、僅かな隙を突くようにセリカの脇腹を木剣で撃ち抜こうとしていていた。
ゴキィン!
「へぇえ……。反応良くなったじゃん」
「最後に稽古を付けてもらったままではありませんよ!」
セリカはギリギリ反応しており、逆袈裟をお見舞いしたが、ウィーネスさんは斜め後ろへバックステップする形で躱し、二人は向き合った。
「【雷魔法LV.1】『サンダーショット』!」
「【剣戟LV.1】『ゲイルスラスト』!」
セリカは新たに覚えたスキルである【雷魔法】によるバスケットボールくらいのサイズの雷弾を放つも、ウィーネスさんは【剣戟】スキルによる突きでかき消した。
セリカは体勢を低くしながら突っ込んで木剣を跳ね上げるも、ウィーネスさんは素晴らしい身のこなしで躱す。
「マジかよ……」
「【剣戟】を始めとする近接系スキルで魔法攻撃をかき消す事もできる。気付いているかもしれないが、同じスキルによる技であっても、本人の技量や込めた魔力量によって変わってくるんだ。今みたいに……」
「なるほど……」
バダックさんの解説を聞いてすぐに理解できた。
ゲームや漫画でもよくある話だが、同じスキルにしても技にしても、大きく強い方が勝つのは当然の論理であり、言ってみれば大人と子供、熟練者と素人のような力の差と言っても差し支えない。
セリカが出す技もウィーネスさんが使える事を前提にするなら、常識的に考えれば技量・経験・保有魔力量の高いウィーネスさんの方が強い。
ジョブスキルもそうだが、ベーススキルの【腕力強化】や【脚力強化】が一番分かりやすい例と言えるだろう。
細い腕で素の筋力の劣る男性がガタイの良い筋肉質な男性が【腕力強化】をして腕相撲をしても、あっさりパワーのある方が勝ってしまうようにだ。
「ふぅううん!」
「やぁああ!」
ここからは剣の撃ち合いに続き魔法攻撃を混ぜた形になるが、形勢はみるみるウィーネスさんに傾いている。
「セリカ!今使える技の中で一番強いのを出してごらん!受け止めてあげる!」
「え?でも……?」
「いいから!怪我しても後でトクサに治してもらうから!」
「えぇえ……」
ウィーネスさんが本気を出してもらうような一言にセリカは躊躇うも、当の本人は嬉々としている様子だ。
そして聞いているトクサさんは「そんなあっさりと……」と示さんばかりに少し引いたような表情になっている。
「では行きます!」
「来なさい!」
セリカは腰を落として右脚を後ろに下げ、剣を下段に構えると足元から噴水のように魔力が解放されていき、彼女の周りと剣を薄緑色のかかった強風が包んでいく。
そして……。
「【剣戟LV.2】&【風魔法LV.2】『ブラストスラッシュ』!」
(今のセリカが持っている最強の技ね!)
「はぁあああ!」
凄まじい風と魔力がセリカとその握る剣に纏わり付き、【脚力強化】もあって驚異的なスピードで攪乱させるように動きながら、ウィーネスさんに突っ込んでいく。
ゴーーーーー!
「うお……」
「……」
撃ち合った場所で激しい突風が巻き上がり、俺達は風に煽られて飛ばされそうになりかけたが、バダックさんらは動じていないようだ。
再びセリカの方に目をやると……。
「【剣戟LV.3】&【風魔法LV.3】『ディストームブレード』!」
「!?」
「なるほど!中級以上で上級未満の威力ってとこかしら……?」
そこには輝くような翡翠色に現れた高密度の魔力を纏った剣とオーラに身を包んだウィーネスさんがセリカの一撃を受け止めていた。
俺でも認識できるくらい、セリカ以上に洗練された魔力に包まれているのが分かる。
「はぁあ!」
「きゃぁあーーー!」
横薙ぎと共に突風のような衝撃波を放つウィーネスさんがセリカを数メートル先まで吹き飛ばした。
吹き飛ばされたセリカの身体は、草の上を激しく滑りながら転がっていた。
「う……。なぁ……?」
「確かに強くなったけど、私の勝ちね」
「ま、参りました……」
「トクサ!治してあげて」
「はい!」
気付けばウィーネスさんは倒れているセリカの下に一瞬で近付き、木剣を突き付けており、実力差を悟ったセリカは降参した。
トクサさんも【回復魔法】でセリカの傷を癒していた。
因みにウィーネスさんがセリカに振るった技はかなり手加減していたとバダックさんから聞いており、俺達は空いた口が塞がらなかった。
バダックさん曰く、「【剣戟LV.3】&【風魔法LV.3】『ディストームブレード』を本気で放てば半径数十メートルが消し飛びかねない威力」であり、ウィーネスさんの最強の技ではないとの事だ。
正直、ウィーネスさんは実力の半分どころか3分の1出しているか分からない力でセリカを子供扱いしているようにも見えた。
「どうだった?さっきの技は……」
「凄いですけど、本気ではないですよね……」
「当たり前じゃん!手加減なしでアレを撃ったら流石のアタシでも疲れるし、何よりセリカが危険だし、この辺り一帯吹き飛ぶし!」
「ですよね~」
やはり手加減していたようであり、セリカはウィーネスさんとの実力差を遠くに感じているような表情をしている。
「でも、アタシの見立てだとセリカ……。もう少し頑張れば【剣戟】や【風魔法】のスキルはLV.3に届くわよ。【雷魔法LV.1】を習得できた辺り、まだまだ伸びるよ!」
「本当ですか?」
「同じギフトを持っている先輩のアタシが言うんだから間違いないよ!自信持ちな!」
「ありがとうございます!もっと精進します!」
(やっぱこの子好きだわ~!)
ウィーネスさんはセリカの頭をワシワシとしながら撫でていた。
本当に仲良しだな……。
そうして俺達は日が暮れるまで稽古を受けながら、モンスターの討伐や対人戦における心構えやノウハウを教えてもらった。
明日はアライアンスを組んで実践形式でクエストに臨む事になった。
ベカトルブに赴くまでは修行とクエスト攻略の繰り返しにはなるが、先達の冒険者パーティーから学ぶ事は本当に多く、いずれも為になるモノばかりだった。
当日を迎える事を少し楽しみにしている俺なのだった。
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