第87話 本番までの間
新たな展開に向けて動いていきます!
【トラストフォース】に加わる事になったハイレンド伯爵家のご令嬢にして、『付与術士』のギフトを授かったエレーナをパーティーの一員として迎え入れて行動する事になった。
そんな中、カルヴァリオさんのお願いでベトカルブと言う街に赴いて欲しいと言うクエストを受ける流れになった。
「エレーナの意向で受けるのはいいんだけど、どんな街なんだろうな?ベカトルブって?」
「ビュレガンセの中でも国境にかなり近い街の一つでして、冒険者ギルドも抱えています」
「そうなのか?」
「確かベカトルブって、ビュレガンセの境目辺りの領土を治めているブレジール辺境伯爵家が管轄であると存じています……。お父様とお兄様も数回ほど視察や交流のために立ち寄った経験がございまして、わたくしも何回か訪れた経験がございます……」
「ベカトルブってどんな街なのかな?冒険者ギルドの名前は?」
クルスとエレーナが説明していて、俺はどんな場所なのかを好奇心本位で聞いてみた。
すると二人は少し間を置いて口を開く。
「ギルドの名前は【アンビシャノブアレス】。一言で言えば、ビュレガンセに点在する冒険者ギルドの中でも屈指の武闘派で大所帯って聞いた事がありますよ」
「人数はウチや【ベスズプレイフル】よりも多く、あそこって見事なまでの実力主義で成果主義って聞いた事ありますよ!」
「そんなに違うのか……?」
「はい……。ギルド自体がビュレガンセとお隣さんの国であるスウォーミクスの国境付近にあるため、モンスター討伐を始めとするクエストをこなしながら、いざという時のための防衛線のような役割を果たしているんですよ。だからベカトルブを治めている領主のブレジール辺境伯爵家も敵対している軍隊を迎え撃つ役割も担っているのですよ……。昔はティリルやグリナムとは対照的に荒廃気味だったものの、ブレジール辺境伯爵家の代になってからは活気を取り戻したって話ですよ。少なくともわたくしが物心付いた頃には悪い噂をそれほど耳にしていませんよ」
「そうなんだ……」
エレーナの話を聞いてベカトルブと言う街がどんな場所かを知った。
シンプルに纏めれば、領土にいる民間人の生活を維持させつつ、外部からの進軍やスタンピードと言うモンスターの大量行進などの有事の際にはブレジール辺境伯爵家が指揮を執り、【アンビシャノブアレス】を筆頭にした冒険者ギルドと共に対処をしているって事だ。
俺達が籍を置いている【アテナズスピリッツ】と同じかそれ以上に冒険者の存在を優遇しているようであり、強い領地を目指しているベカトルブは『勇猛の街』と渾名されている。
スウォーミクスと言う国の名前が出てきたけど、これは時間がある時にゆっくり聞こう。
「でも、それだけ強そうで大所帯な冒険者ギルドが【聖属性魔法】を扱える冒険者を抱えていないなんて、何か妙な話だな……」
「妙と言うよりも、【アンビシャノブアレス】は『剣士』、『重戦士』、『軽戦士』、『槍術士』、『魔術師』などの戦闘に強いギフトを持っている比率がかなり高いんですよ……。もちろん、聖職者系のギフトを持っている冒険者も抱えていますけど、かなりイレギュラーもしくは特殊なスキルがないと対応が少し苦手みたいな傾向があるって聞いた事があります」
クルスが言うには【アンビシャノブアレス】はビュレガンセ国内の冒険者ギルドの中でも武闘派の実力主義で知られているため、抱えている戦力で言えば【アテナズスピリッツ】と同等以上と言われている反面、捻りのある案件の対応はウチよりも若干苦手らしい……。
尚、男女比率も男性が8割で女性が2割との事だ。
「話は変わるんだけどさ、今から1週間後まで時間あるけど、どうする?」
「ベカトルブってティリルから馬車でも4~5日はかかるらしいですよ……」
「でしたら一つクエストをこなしたら準備にとりかかりましょう!」
「それもそうですね。トーマさんこのクエストとか……」
「あら?トーマ達じゃない!」
「「「「「!?」」」」」
ギルドの掲示板を眺めながら話をしていると、聞き覚えのある女性の声がした。
「なに~?今日もクエストに勤しむ感じかな~?」
「ウィーネスさん!それに皆様も……」
声をかけてきたのはウチのギルドのBランクパーティー【ブリリアントロード】のリーダーであるウィーネスさんであり、そのメンバーであるバダックさんやモレラさん、リエナさんに初めて見かける男性が一名いる。
「まぁ、そんなところですね……。あれ、そちらにいる男性は……」
「あぁ、紹介するよ!彼は『僧侶』のトクサ・ショーン。二週間くらい前からウチのメンバーの一員になったのさ!」
「初めまして。トクサと申します……。皆様の事はウィーネスさんから聞いております……」
「は、初めまして!」
トクサさんが礼儀正しく挨拶してくる姿に俺達も応じて自己紹介をした。
薄いグレーを基調にした、動きやすさを取り入れたようなデザインをしている僧衣を羽織っており、握られている錫杖も一目で上質だと分かるくらいに良いモノだ。
黒に近い茶色いベリーショートヘアに丸眼鏡をかけた理性的で穏やかさを感じさせる印象であり、一言で表すならば、「お寺のお坊さん」をイメージさせた。
「トクサは東の国から修行の意味で移住してきたのよ。最近ウチのギルドで冒険者登録をしてすぐの時、サポートに優れた冒険者を探しているところでアタシが声をかけ、スカウトに応じてくれたってわけなの……」
「Bランク冒険者で回復を得意とする方を見つける事ができて良かったですね!」
「皆さん、今後ともよろしくお願いします」
「よろしくお願いします!トクサさん!」
俺とトクサさんは握手を交わし合った。
「そうそう!ビュレガンセと友好関係にある国へ遠征している【ノーブルウィング】が帰ってくるんだって!」
「え?【ノーブルウィング】って……」
「アタシ達が所属している【アテナズスピリッツ】にはAランクパーティーが2つあるんだけど、その内の一角である【ノーブルウィング】が1週間後くらいに帰還してくるの!」
「「「「「……」」」」」
「あれ?何かテンション低くない?」
「久しぶりにAランクパーティーの皆様に会えるんだぞ~」
ウィーネスさんが気分良く話している中で俺達のリアクションを見て彼女は呆けた様子になり、バダックさんも問いかける。
「実を言いますと、1週間後に一緒にベカトルブへ行く事が決まったんですよ……。その……【ノーブルウィング】の皆様と……」
「マジ?てか、何でベカトルブ?」
俺達は飲食スペースで事の経緯をウィーネスさん達に打ち明けた。
「なるほど……。【聖属性魔法】を使えるエレーナが必要だから、トーマ達が【ノーブルウィング】の皆様とベカトルブに赴くって事なのね……」
「そう言う事です」
話を聞いたウィーネスさんは肩透かしを食ったような気分になっていたが、すぐに受け入れるように切り替えた。
「にしても、国内でも武闘派の実力主義で知られる【アンビシャノブアレス】がウチに協力を求めてくるなんてね……」
「あのギルドは戦闘が得意なギフト持ちが幅を利かせているって専らの噂なんだ。その上成果主義でもあるから、強いモンスターを倒すか有名な盗賊団を打倒したなどの結果を残せばギルド内でもランクに関係なく割のいいクエストを回してもらえるとか……」
「僕も聞いた事あるんですが、足の引っ張り合いこそないのものの、数組のパーティー同士で割の良いクエストを受けたいと言わんばかりの取り合いが結構多いみたいなんですよ。実績どうこうで決めたがる傾向が強いと言いますか……」
「本当に実力主義なんですね……」
ウィーネスさんに続き、バダックさんとモレラさんの話を聞いて徹底した実力主義なんだなと改めて思った。
「どんな小さなクエストでも冒険者を必要としている人物は大勢いる」と言うカルヴァリオさんの方針もあり、そう言う事はウチのギルドではあまり聞かない。
「私もあのギルドの方針はあまり好みじゃないのよね~……」
「【アテナズスピリッツ】の方針を心から共感できるだけにどうしても……」
リエナさんやトクサさんも渋い表情をしている。
【アテナズスピリッツ】はマスターであるカルヴァリオさんの理念もあって、所属している冒険者や職員のほとんどは本当に暖かな人柄をしており、互いに高められるように研鑽し合っている。
俺も今所属しているギルドは大好きだからこそ、【アンビシャノブアレス】の方針を全面否定するつもりは今のところないものの、現状を見ない限りは受け止められない。
「あの~、話は変わってしまうんですけど、ウチのギルドに所属している【ノーブルウィング】ってどんなパーティーなんですか?気になってまして……」
「え?あぁ、その事ね……」
俺は張り詰めた空気を何とか払うべく、一緒に協力クエストへ赴く事になる【ノーブルウィング】について質問をし、ウィーネスさんも思い出したように頷いた。
「【ノーブルウィング】はウチのギルドが抱えている2つのAランクパーティーの一つでね、5人全員がAランク冒険者なの!」
「やっぱりAランク冒険者って凄いのでしょうか?」
「そりゃ凄いに決まっているだろう!CランクからBランクに上がるのもキッツいのに、BランクからAランクに上がろうとするには、それ以上に過酷な条件をクリアしなければならないんだ」
「それこそ、他国に赴いて難しいクエストをこなさないといけないものもザラにある」
「マジか……」
Aランク冒険者になれば特級の実力者として周囲に知れ渡るようになり、国内だけでなく他国にまでその名前を轟かすだろう名声を得る事になる。
そしてその称号を勝ち取るには授かったギフトや恵まれようがいまいが持って生まれるであろう才能をそれこそ、血が滲むような不断の努力で磨きに磨き続けた者にのみ与えられるのだ。
「確か、エレーナが冒険者としての修行を積む時にお世話になったパーティーよね……?」
「ハイ!リーダーであるウルミナさんや『付与術士』であるルエミさんを中心に沢山の事を教わりました!」
「ウルミナさんと言う方がリーダーなんだね……。それでその、『付与術士』のギフトを授かったルエミさんが主な師事役と……」
俺は【ノーブルウィング】のメンバーについて少しだけ知る事になった。
話を聞いていたウィーネスさんが少し考え込んで……
「あのさ……。アタシ、と言うよりもアタシ達からの提案なんだけどさ……」
「何でしょうか?」
「今日から5日間。私達と修行しながら行動しない?」
「「「「「え……?」」」」」
思わぬ申し出に、俺達は固まった。
「それはどういう事でしょうか……?」
「トーマ達が向かい受けようとする協力クエストについて聞いていたら、このまま行かせてしまうだけにはしたくないの!だから、私達と一緒に行動しながら5日間だけで構わないから付き合って欲しい!」
「ウィーネスさん……」
「トーマ達【トラストフォース】はもっと伸びていくし、5人共凄いポテンシャルを秘めている。だからこそ、Aランクパーティーに付いていけるように、【アンビシャノブアレス】の冒険者達に舐められないように、少しでもいいから実力を伸ばす一助を担わせて欲しい!」
「ですが、どうしてそこまで……?」
ウィーネスさんは必死に訴えている様子だった。
それでも、彼女の人柄や性格を考えれば、嘘にはどうしても聞こえなかった。
「可能性を感じたから……かな?」
「そんなフワッとした言い方じゃ良くねーよ!もっと言えば、選考会で取り合ったエレーナがトーマのところに行って、妹のように可愛がっているセリカとその仲間達を鍛えて強くさせたいって言う親心のような思い遣りだよ」
「ちょっとバダック!」
「ウィーネスって意外と世話焼きなのよね……。この間なんか……」
「こら!リエナまで!一言で言えば、Aランクパーティーの戦いに付いて行けるように私達が稽古を付けて、ノウハウを色々と教えてあげるって事!」
「「「「「……」」」」」
理由は抽象的と言えば抽象的だが、先達の冒険者達から指導を請える機会を得られた事に俺は大きなチャンスのようなモノを感じており、セリカ達も同じ気持ちだった。
「もしもよろしければ……。色々と教えて頂きたく思います!よろしくお願いします!」
「うん!よろしくね!早速始めよう!」
「今からですか?」
「善は急げよ!」
俺達はその申し出を受ける事にした。
今日からウィーネスさん達と5日間だが、共に行動をする事になった……。
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