第86話 ユニークなクエスト
新たな展開に進んで行きます!
【トラストフォース】に加わる事になったハイレンド伯爵家のご令嬢にして、『付与術士』のギフトを授かったエレーナをパーティーの一員として迎え入れる事になった。
エレーナが仲間になって約二週間———————
「確認しました。こちらがクエスト達成の報酬でございます」
「ありがとうございます!」
夕方に差し掛かる時刻にて、俺達は馴染みの受付嬢であるナミネさんにクエスト完了の手続きを済ませて報酬を受け取った。
今日はCランク向けのクエストであるレア度Cのモンスターの中でも特に強いと言われる“ブレイズレオ”の討伐に赴いていた。
3メートル近い大柄な体格に名前の通り炎のようなオレンジ色のたてがみをした勇猛かつ荒々しいモンスターであり、【炎魔法LV.2】も操る強敵だ。
コロニー殲滅や群れではなく、一体だけの討伐であるが、相手が相手なだけにCランク以上の冒険者パーティーが対象のクエストとなっている。
一時は“ブレイズレオ”の凄まじい魔法攻撃や動きに苦戦したものの、エレーナの【支援魔法】による全面強化とミレイユの【水魔法】を主体とした攻めにクルスの搦め手と剣術、そして俺とセリカによる一撃で討伐に至った。
やはりレア度Cのモンスターの中でも強敵に類するだけあって、落ちてきた魔石や表皮も武具や衣装などの生成に多いに役立つとの事であり、得た報酬も100万エドルと高額だ。
「やりましたね!トーマさん!」
「あぁ、皆のお陰だ!特にエレーナ……。本当にありがとう!」
「そんな……。わたくしは【支援魔法】でフォローしたに過ぎなくて……」
「それが大きな助けになったんだよ!」
「恐れ入ります……」
正直に言えば、『付与術士』であるエレーナの加入は想像以上に大きかった。
支援だけでなく、本職の『僧侶』に数枚劣りながらも【回復魔法LV.2】も使えるだけでなく、希少なスキルとされている【聖属性魔法】が使えると言うのはどんなクエストをこなすには本当に魅力的であるとセリカからも言われていた。
サポートがメインと言っても、攻撃力を備えた支援系のギフトを持っている仲間がいるのは本当に心強い。
「エレーナの【支援魔法】が私達を後押ししてくれたのよ!」
「私にない魔法が使えるなんて、羨ましい限りよ!」
「ありがとう!エレーナ!」
「皆様……」
セリカやミレイユ、クルスは純粋な誉め言葉を並べており、エレーナの顔に笑顔が零れた。
気さくに接してくれる人物の存在は、どんな階級の人にとっても代え難いからな……。
「今日はどうする?どっかで食事するか!?」
「あの!でしたら……なんですけど……」
「「「!?」」」
今日の夕飯はどうするかを考えていると、エレーナは手を挙げてある提案をしてきた。
「近くの八百屋でたまたま家畜向けの魔牛が入ったって話があるので、今日はそれを購入して、ウチで食事しませんでしょうか……?まだあると思います」
「あぁ……、近くの八百屋でちらりと見えたあの……」
「はい……」
「じゃあ、行ってみるか!」
「よろしいのでしょうか?」
「俺もちょっと興味あったし!」
「ありがとうございます!」
エレーナの提案で八百屋に寄ったところ、まだ残っており、それを買い上げる事になった。
それから居宅で料理してもらってお酒のつまみとして堪能すると、凄く盛り上がった。
ミレイユはちょっと悪酔いしてはクルスが介抱して、セリカやエレーナは微笑ましくも見守っていた。
路地ならともかく拠点にしている室内ならば勝手が効くんだよね……。
パーティーの戦闘や生活における安定感が増した以外はかなり充実した日々を送るようになってきている俺達であった。
翌日——————
「トーマ!今日もクエストに出向く感じか?」
「えぇ……。昨日は“ブレイズレオ”の討伐に行ったので今日はお休みでして……」
「セリカちゃん!ミレイユちゃん!おはよう!」
「「おはようございます!」」
「クルス!ちょっとカッコイイ感じになってねぇか!?」
「あ、ありがとうございます……」
ギルドに赴く道中、色んな人達が声をかけてくるようになってきた。
振り返ってみると、俺が異世界人である事も皆すっかり受け入れてくれている様子であり、日々の活躍に闇ギルドの一件、加えてエレーナの加入も相まって大分注目されるようになっている。
「エレーナ嬢!今日もお美しいです!」
「クエスト頑張って下さいね!」
「応援してます!」
「うふふ……。ありがとうございます」
中でも一番注目されているのはエレーナだ。
伯爵家の貴族令嬢でありながら、冒険者をやっていると言う異色と言っていいキャリアを現在進行形で歩んでいるのに加え、よく整った美貌に滲み出る気品の持ち主なので、やたら目に付いてしまうのだろう。
これはエレーナだけでも、未開の地へ赴く際には顔が判別しにくくなる手段を考えなければだな……。
ギルドに着いて飲食スペースに着くと……。
「「「「はぁあ~」」」」
「……」
俺達はちょっとだけ疲れていた。
街の人達から応援されて、冒険者達からも一目置かれるようになったのは喜ばしい事だが、声を掛けられてあれよこれよと対応するのは中々疲労が貯まる。
「あれ?エレーナは平気そうだね……」
「え?まぁ、わたくしは慣れていますので……」
「「「エレーナは貴族令嬢だからね」」」
エレーナはケロッとしていた。
貴族令嬢として様々な人物として高い身分の人達と接する機会が多い事に加えて、Aランクパーティーに身を置いていた経験や留学した時にできた繋がりからの人付き合いもお手の物であった。
加えて自分が貴族出身である事を鼻にかけようとしないあの謙虚さだからな……。
「そんな事ないです!トーマさん達もそのうち慣れますよ!」
((((それが果たしていつになるのやら!))))
エレーナは当然のように言っていたが、俺達は苦笑いしていた。
流石ってところだとも思ってすらいる。
「あの~、皆様……。今よろしいでしょうか?」
「あ、ナミネさん。どうも……」
そこへ馴染みの受付嬢であるナミネさんが俺達のいるテーブルに声をかけてきた。
「マスターからもしもトーマさん達を見かけたら呼んで欲しいと言付かっております。ただいまお時間大丈夫でしょうか?」
「はい。問題ありません」
「ありがとうございます。こちらへ……」
俺達は促されるままにギルドマスターであるカルヴァリオさんが待つ部屋に入って行った。
「【トラストフォース】の諸君。忙しいところ来てもらって感謝するよ……」
「いえ、これと言った用事はございませんでしたので……」
「エレーナ。最近調子はどうだね……?」
「はい。トーマさん達やギルドに所属している冒険者の皆様も良くして下さって嬉しく存じております。ですが、今の状況に甘えてしまわないよう、わたくしもこれから精進していく所存でございます」
「そうか……。その言葉が聞けて何よりだ……」
エレーナは素直に自分の気持ちを伝えたが、問題ない現状と謙虚さや向上心に溢れる言葉をすらすらと出せるのは流石だなと思った。
貴族階級の人は高慢な人が多いイメージはあったが、少なくともエレーナや彼女の父であるロミック様や実兄であるガレル様、ヒライト子爵家の当主であるアスバン様らは人柄も気概もとにかく好感が持てる。
「さて、本題に入らせてもらおう。君達に1週間後、ベカトルブに赴いて欲しい」
「ベカトルブって、ティリルから北東にある……」
「そうだ。そこに拠点を構えるギルドマスターから協力を頼まれてね……。より具体的な内容は現地で聞けるが、モンスター討伐系と調査系、加えて採取系を複合したような形であり、今回の作戦のキーマンとなるのがエレーナなんだ」
「わたくしがでしょうか……?」
「あぁ……。強敵を相手にするかもしれないからウチからももう一組派遣させる」
カルヴァリオさんの話によれば、【聖属性魔法】を使える冒険者が必要であるとの事であり、現時点のギルド内においてそれが使えるのはエレーナだけであると如何にも的を絞ったようなギルド間同士の協力クエストだ。
「と言う事は、【聖属性魔法】が使えるエレーナがいなければどうにもならない事なのでしょうか?」
「エレーナ以外にもウチのギルドに【聖属性魔法】が使える人物もいるのだが、今の時点で頼る事ができるのは君達だけなんだ。もちろん、実力者揃いのパーティーも同行させる」
その人物もビュレガンセ国王陛下直々の依頼のために友好関係にある同盟国に遠征中との事であり、エレーナを抱える俺達に白羽の矢が立ったって話だ。
「そうですか……。でしたらトーマさん!このお話、引き受けましょう!」
「そんな簡単に決めて大丈夫なのかエレーナ?!」
「わたくしが赴いて解決できる事であれば、喜んでやります!それに、トーマさん達が一緒ならば、何かできそうな気がするんですよ!」
(そんな真っ直ぐな瞳をされてしまうとな~)
エレーナは迷う事無く引き受けるような姿勢であり、その純真かつ誠実な眼差しを向けられてしまうと断りにくくもなってしまう自分がいるのであった。
「カルヴァリオさんに一点質問がございます。わたくし達と一緒に来て下さる冒険者パーティーと言う事は、相応の実力者、最低でもBランクは必要と見ています」
「流石に鋭い……。もちろん、協力してくれるのはエレーナがお世話になったあのパーティーだよ」
「あの方達でしたら信用できます……」
「それで、トーマ達はどうするのかね……?」
エレーナとカルヴァリオさんのやり取りの後に俺へ質問を投げかけられた。
「その協力クエスト……。受けようと思います!ただ、その派遣していただけるパーティーについて詳しい事を知っておきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「そのつもりだ!ただ、帰ってくるのは6日後であり、顔合わせを終えてすぐに作戦会議や打ち合わせをしてもらえたらと思っている」
「承知しました。その間に準備を整えておきます」
こうして話はまとまり、俺達は部屋を出た。
廊下を歩いている中で思い出した事があった。
「エレーナ。さっき言っていたお世話になったパーティーって……」
「あぁ……。まだ共有していなかったですね。わたくしがギフトを授かってから約3年間、Aランクの冒険者パーティーに身を置いて修行した事があると言うのはご存知ですよね?」
「それはもう知っている」
「確かそのパーティーって……」
俺とセリカが聞き出そうとしていると、エレーナは自ら話し出す。
「【アテナズスピリッツ】に所属しており、Aランク冒険者パーティーの一つである【ノーブルウィング】ですよ!」
「え、Aランク!」
「あー、やっぱりね……」
「にしてもAランクパーティーが力を貸していただけるなんてね」
「え?何?どういう事?」
「【ノーブルウィング】はウチのギルドが抱えている2組あるAランク冒険者パーティーの一角であって、エレーナが修行の際に指導や薫陶を受けたチームですよ!」
「マジで!?」
「マジです!」
俺は冒険者最大の目標と言われるAランクの冒険者達と共に大役と思われるクエストへ赴く事に緊張とワクワクが入り混じったような気持ちを抱いた。
まぁ、6:4で緊張の方が勝っているんだけど……
そして俺達は後に思い知る事になるのだった。
Aランクパーティーの実力と、引き受けたクエストの難しさを……。
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