第78話 完了からの……
格上モンスターとの闘いはクライマックスへ……。
回復や支援を得意とするメンバーを欲しいと思い始めていた中、ティリルを含むいくつもの街を治める領土の領主であるロミック様主催の選考会が行われると知った。
その選考内容の過程で討伐対象のモンスターである“ミスリルメガリザード”と戦闘していたが、想像以上の難敵ぶりに苦戦を強いられた。
「【支援魔法LV.1】『ハイアクセレート』!」
(うお!さっきより身体がまた軽くなってきている!)
俺はエレーナ様にスピードを一時的に大きく向上させる【支援魔法LV.1】『ハイアクセレート』をかけてもらった。
するとどうだろうか……?
最初にかけてもらった【支援魔法】よりも身体が一層軽く感じており、羽毛に似たようと言っても大げさではなかった。
セリカ達も同じような気持ちであり、表情に希望が灯っているようにも見えた。
「行くぞ!」
「「「ハイ!」」」
俺達は再び“ミスリルメガリザード”に勢いよく突進していった。
エレーナ様のお陰でその速さは相当なモノになっていた……。
「今だ!【ソードオブシンクロ】!」
俺はユニークスキルである【ソードオブシンクロ】をセリカ達に与え、最初に発現した【ソードオブハート】を彼女らも使える状況にした。
更にもう一つメリットがある。
<皆、分かってるな!>
<ハイ!初めに見た時よりも大分ダメージを与えていますので、トドメを刺します!>
<今の私は高速で動けますので、懐に潜ってみます!>
<僕は皆のフォローを!>
<よし!>
俺は“ミスリルメガリザード”の頭上に跳び、セリカは胴体の右側、クルスは胴体の左側、ミレイユは懐に潜り込んだ。
「【水魔法LV.1】『アクアスライサー』!」
「【風魔法LV.1】『ウインドスライサー』!」
「ガァアア!」
セリカは右から風の刃を、ミレイユは下から圧縮された水の刃をぶつけて“ミスリルメガリザード”のダメージを確実に重ねていった。
その巨体は抵抗しながら身体を振るうが、全て空を切っていた。
【ソードオブハート】の恩恵を受けた攻撃は先ほどのエレーナ様がかけた【支援魔法】と同等以上の威力をしており、確実に追い込んでいた。
肉体的にセリカほど強くないミレイユも、凄まじいダッシュ力で走り回っている。
「オラァア!」
「ハァアア!」
激しい攻防の中、俺とクルスは“ミスリルメガリザード”の顔周りを中心に斬撃を加え続けていた。
何かしらの挙動のような素振りを何度も見せているが、躱せるようになっていた。
その堅牢さには散々悩まされたが、観察して見ると意外と単純な攻撃しかしてこなかった。
前脚や尻尾を振り回す、頭突きや噛み付きで突っ込むくらいだ。
今はエレーナ様のスピードアップを施す【支援魔法】のお陰で楽々と躱せている。
<皆!そろそろ……>
<分かってます!狙いは……>
テレパシーで伝え合い、クルスの視線の先にあるのは、度重なる攻撃によって剥き出しになりつつあった“ミスリルメガリザード”の首だ。
最初は頭を斬り落とすつもりでいたが、額はもちろん首周りが想像以上に堅牢であったため、少しずつ確実に削る作戦を取っており、エレーナ様の【支援魔法】によってその進み具合が早まり、【ソードオブシンクロ】による全体強化でトドメを刺しに行く戦術にシフトしていたのだ。
「【剣戟LV.1】『隠座乱突』!」
「【剣戟LV.1】『斬鉄剣』!」
「ガガガァア!」
クルスは両手に握られたミスリルのロングナイフをその首に連続突きを浴びせていき、剥き出しになるまで後一歩のところまでにして見せる。
俺は左前脚に強力な斬撃を浴びせ、両断こそできなかったが、脚の筋を斬り裂かれたその巨体は前のめりに沈みかけている。
「おぉ……。これは見事な連携だ……」
「ザリオンはやはりそう見えるのね……」
「はい……。エレーナ様の【支援魔法】があるとは言え、冒険者時代にパーティーを組んで活動していた私から見ても、見事に連携が取れていると感じられます……」
(トーマ殿が使ったスキルを使ってからはパワーもそうだが……)
(それぞれが果たす事をしっかりと理解しながら動き、確実に勝利を手繰り寄せている見事な連携プレー……。これがお父様の言っていた……)
ザリオンさんが感心しつつ、エレーナ様も俺達の連携がしっかり取れている事に驚嘆の念を覚えながら見守りつつも、ある事を思い返していた……。
回想—————
「ユニークスキル持ち?【トラストフォース】のトーマと言う異世界人の方がでしょうか?」
「あぁ……。知人から聞いたのだが、冒険者になってしばらくしてから発現したらしいんだ。まぁ、精神的にも体力的にも負担は大きいようだが……」
「それは……。また数奇な何かを感じますわね……」
俺達がロミック様の屋敷に赴く前、エレーナ様は俺の事をいくらか聞いていた。
「だが、私が目に掛けている事と選考会で決める事とは別の話だ。ザリオンやエレーナの判断で厳正に決めて欲しい」
「はい。もちろんでございます……」
回想終了—————————
(トーマさん。あなたは……)
「グゴォオオオオオオオオオオ!」
「「「「「「!?」」」」」」
窮鼠猫を嚙むかの如く、“ミスリルメガリザード”は抵抗の咆哮をあげた。
だが……
<ミレイユ!>
<はい!待ってました!>
「【氷魔法LV.1】『アイスボール』!」
「ゴォオオ!?」
ミレイユは【氷魔法LV.1】で作られた氷塊を“ミスリルメガリザード”の口めがけて放出すると、ピンポイントで口内の中に入って喉元まで至った。
すると“ミスリルメガリザード”は喉を詰まらせた事による呼吸困難に陥り、その場で蹲り、必死でそれから抜け出そうと吐き出した。
だが……。
((この一撃に全てをかける!))
「【剣戟LV.2】&【風魔法LV.2】『ブラストスラッシュ』!」
「【剣戟LV.2】『地雷斬』!」
「グガァアアアアアアアアアアアアアア!」
セリカは真下から喉元を切り裂き、俺は渾身の唐竹割りを“ミスリルメガリザード”の首めがけて渾身の一撃を放った。
その頭部は少しの時間の間に宙を舞い、俺のすぐ傍へ鈍い音と共に落ちてきた。
最後はその巨体は倒れながら光の粒子となって消滅していった。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
「やったのか……」
「みたいね……」
「ハァ……ハァ……。!?」
セリカ達が疲労感を隠し切れないかのように肩で息をしており、俺も付かれていながらも何かを思い出したようにエレーナ様とザリオンさんらの方に目をやった。
「……」
ザリオンさんは真剣な表情のままだが、エレーナ様は微笑ましい事を示すように柔らかな笑顔を浮かべていた。
そして、俺達の下へと歩み寄った。
「皆様、お疲れ様です。“ミスリルメガリザード”の魔石が落ちていますので回収しましょう。そして、ここから出ましょう……」
「ハイ……」
「ではわたくしから一つ……。【回復魔法LV.2】『ワイドヒール』」
「おぉ……傷が治っていく……」
「グッタリ感も無くなっていくような感覚だ……」
「これで大丈夫でしょう……」
「「「「ありがとうございます!」」」」
エレーナ様の【回復魔法】のお陰で、俺達は大分元気になった。
俺達は“ミスリルメガリザード”が出した魔石を回収し、俺達は地上へと出た。
それから地下洞を抜けて……。
「皆様の力量や連携、そして信念をこの目でしかと見届けさせていただきました。本当に見事でした……」
「ありがとうございます……」
「これより私が居に構える自宅へと戻ります……」
エレーナ様の言葉を聞いて、俺達は深くお辞儀をした。
一方でその表情には優しさに満ちたと言うよりも、厳しくも凛とした様相も混じっているように見えた。
「エレーナ様、あの……」
「ミレイユ!」
「何でしょう……?」
「いえ、何でもございません。戻りましょう!」
「そうですか……」
結果を聞きたがりそうな素振りを見せたミレイユを俺は制し、エレーナ様達と共に帰路へ着く事になった。
結果としてはエレーナ様の【支援魔法LV.1】の2回分で済ませたうえで、“ミスリルメガリザード”の討伐を成功させるに至った。
それでも、これは選考基準の一つであり、もしも俺達以上に素晴らしいパフォーマンスを見せるパーティーが見つかれば、エレーナ様はそこに籍や身を置く事になるだろう……。
思案にふけて数時間後、ロミック様の屋敷へと戻った。
「【トラストフォース】の者達よ!この度は本当にご苦労であった!今回の結果や後に控える残り数組ほどの成果次第で、選考会の結果を伝えさせて頂く!」
「ハイ!」
ロミック様の話を聞いて、後は結果を待つだけの身となった。
俺達が来る前に何組かのパーティーが今回と似たような討伐系の選考をしていたとの事であり、1組が成功しているとの事だ。
「だが、こうしてエレーナと護衛の騎士が無事に戻って来れた一助を担ってくれたのもまた事実。感謝の一念として、【トラストフォース】の皆々をこの屋敷で宿泊して英気を養ってもらいたい!」
「ロミック様……。ありがたきお心遣いでございます!」
今日はロミック様の計らいで、屋敷で宿泊する流れとなった。
食事は貴族らしく豪華かつ美味な食事や酒を味わう事になり、美味しいのは確かだが、ある事を懸念しているため、心の底から堪能しきる余裕はなかった。
カポーン……
「クルス……。風呂が広いな……」
「そうですね……」
食事をいただいた後にはお風呂にも入れてもらえたのだが、流石は伯爵の爵位を持つお屋敷のお風呂なだけに、かなり広かった。
子爵の爵位を授かっているヒライト家のお屋敷のお風呂も十分なほどに広く清潔で豪華なインテリアをしていたが、ハイレンド家のそれは広大さに加えて電気風呂やジャグジーなどのようなタイプもあった。
入った時の豪華絢爛な空間に最初は驚いたものの、心穏やかではなかった。
それは女子風呂に入っているセリカとミレイユも同じだった。
「トーマさん……。戻って来てからちょっと表情が硬いような気がするのですけど……」
「今日ね……、【ソードオブシンクロ】を使ったんだけど、ふと思い返すとズルい事をしてしまったんじゃないかって思い直してたんだよ……」
「思い出したら確かにかもですね……。しかし、ユニークスキルの使用を禁じられたわけでもなければ、指示された【支援魔法】の回数以上の事はしていないですし、ザリオンさんが乱入する形になったわけでもないから大丈夫とは思いますよ……」
「聞いておけばよかったかもな……」
“ミスリルメガリザード”と戦っていた中でエレーナ様の【支援魔法】を二回受けてもらった上で、俺が持つ味方をパワーアップさせる【ソードオブシンクロ】を使用して、最後は討伐する事に成功した。
しかし、思い出してみるとパワーアップにパワーアップを重ねている事に遅ればせながら気付き、選考に影響しないか不安を抱いているのだった。
クルスは繕ってくれたものの、少なからぬ後悔もある。
一方、女子風呂—————
「トーマさんの【ソードオブシンクロ】を使って良いか、確認しておけば良かったわね……」
「確かに……。言われて見ればあれも【支援魔法】みたいなモノだから、ズルい事したと思われてもおかしくないかも……」
セリカとミレイユも同じ懸念を抱いていた。
普段は女性同士で仲良くガールズトークに華を咲かせるはずなのだが、いつになく口数が少なかった。
「でも、エレーナ様が優秀な方だって言うのは一緒にいて分かったし、私達よりも実力のあるパーティーできっと活躍していただけるはずよ!」
「そうね……。“ミスリルメガリザード”を倒せた経験もできちゃったし、ダメならダメでまた別の人を探す事にしましょ!」
セリカとミレイユはどんな結果も受け入れる様子で割り切っていた。
そんな時だった……。
「随分とポジティブに考えられているのですね……」
「「え?」」
流れるお湯の音が静かに聞こえる空間の中、淑やかな声がセリカとミレイユの後ろから聞こえた。
一方、男子風呂—————
「我々も湯に浸かってもよいかな?」
「はい、大丈夫で……え?」
「み、皆様……?」
一人の男性が後ろから聞こえて振り返ると、意外過ぎる人物が立っており、その人達を見て俺とクルスは固まった。
「我々と一緒に風呂でもどうかな?」
((このタイミングでか~~~?))
そこにいたのは、ロミック様とその子息であるゲイル様であり、今回の討伐に同行してくれたザリオンさんがタオル一枚で立っていたのだ。
そして女子風呂には、エレーナ様が風呂へ入りに来ていた。
俺達に“ミスリルメガリザード”と相対した時とは全く異質なプレッシャーが襲い掛かって来た。
どうなるんだ~~~!?
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