第76話 見定めの時間
ここから物語は加速していきます!
回復や支援を得意とするメンバーを欲しいと思い始めていた中、ティリルを含むいくつもの街を治める領土の領主であるロミック様主催の選考会が行われると知った。
ロミック様のお屋敷に向かうため、貴族階級向けの街とされているレグザリアを訪れ、その主要人物にして、ロミック様の愛娘であるエレーナ様と対面した。
翌日—————
「ここで指示された素材と数量を集めると……」
「ハイ!お父様が提示した事ですので!」
俺達はロミック様が主催しているハイレンド家伯爵の令嬢にして、冒険者を志しているエレーナ様が加入するに相応しいパーティーを見極める選考会に参加しており、その内容の一部であるクエストに勤しんでいる途中だ。
その場所はレグザリアから馬車で約3時間要する離れた場所であり、貴族が多く住んで利用しているような美しさと豊かさを感じさせる街並みと打って変わり、モノトーンな山々が大小に連なりながら、若干殺風景な印象を感じさせる街にいる。
その街の名前は『マイネラクセ』であり、「鉱山の街」と言う別名を冠している。
「エレーナ様、この街のどこかの鉱山で例のモンスターが……」
「はい、その討伐です!」
エレーナ様は冒険者ランクCの『付与術士』である。
お屋敷で会った時とは打って変わり、白を基調にしたいかにもローブやマントに身を包んでおり、白のロングブーツやロンググローブを着用し、1メートルほどの長さがある魔法の錫杖を握っている。
本人曰く、「動きやすいデザインにして欲しい」とオーダーメイドしたと語っていた。
俺達が来た目的は当然あり、数週間前から鉱山に住み着いた“ミスリルメガリザード”と言うモンスターの討伐を果たす事であり、エレーナ様をパーティーに迎え入れる重要なポイントになってくる。
マイネラクセの発掘地区にはエリアと呼ばれ、それは1から5まであり、採掘される鉱石も変わってくる。
従来の剣や斧の刃物を生成するのに必要な鋼を始めとする金属や石炭、強力な武器の素材となるミスリルも採掘するため、国のインフラとしても機能させる大きな役割を担っている。
今回の討伐対象である“ミスリルメガリザード”とは、レア度Bのモンスターであり、名前の通りミスリルを外皮に纏った強力なモンスターと言われており、Cランクパーティーはもちろん、Bランクパーティーでもしっかり準備をしなければ対処が難しいとの情報もあり、正直今の俺達が受けるにはキツイのが本音である。
だが、今回は行ける理由がある。
「エレーナ様。今回は“ミスリルメガリザード”が相手でございます。万が一の時は……」
「分かってます。だからこそ護衛に貴方を起用したのですよ。ザリオン……」
「はい、ありがたき事でございます。精一杯勤め上げて参ります」
(あの人がエレーナ様の護衛にして、俺達の働きぶりを測る人か……)
エレーナ様の側にいるのは、ハイレンド家伯爵の専属騎士の一人であるザリオンさんだ。
青色の髪をオールバックにした30代半ばほどの偉丈夫な男性であり、伯爵家お抱えの騎士なだけあって、纏っている鎧はかなり上質であり、背中に構えるバスタードソードや腰に携えているサブウエポンのサーベルも一級品だ。
当初は『重戦士』のギフトを賜り、冒険者として活躍していたザリオンさんは6年前のスタンピードによる戦闘に参加したが、ボロボロで死にかけていたところをロミック様に命を救われた事をきっかけに、ハイレンド家に深い忠誠を誓い、今に落ち着いている。
「【トラストフォース】の諸君、このザリオンがエレーナ様をお守りする護衛と同時に、仲間として迎え入れても問題ないかを見極めさせてもらう。今回はよろしく頼む……」
「「「「よろしくお願いします!」」」」
「では、参りましょう!」
ザリオンさんの騎士らしい佇まいからの挨拶で気が引き締まる。
今回行けた理由としては、エレーナ様によるサポートやザリオンさんが冒険者時代に“ミスリルメガリザード”を倒した経験があるからだ。
基本的にはエレーナ様の護衛であるものの、もしもピンチになればザリオンさんがいざと言う時にはフォローしてくれる。
しかし、言い換えればそれは「自分の助けがないままの力でエレーナ様は到底任せられない」と言うメッセージの裏返しでもあった。
俺は依頼主が待っている鉱山の麓にあるログハウスへと赴いた。
「これはこれはエレーナ様。お久しゅうございます。『付与術士』のギフトを賜ったとお伺いしてからの4年間に及ぶ修業と留学をした後に帰ってきたとお伺いしておりましたが、一層清くお美しくなられました~……」
「ありがとうございます」
「あの、ゴンジ殿……。本題を……」
「これは失敬した」
目の前にいるゴンジさんと言う方が今回の依頼主であり、エリアにある鉱山の管理を担っているこの街のお偉いさんだ。
年齢的には40代半ばに見えるが、少々厳つめの顔立ちをしており、デニムのような生地をしたオーバーオールに白いシャツと炭鉱夫らしい服装であるが、やはりガテン系の仕事に携わるだけあって年を感じさせない筋肉質な身体つきをしている。
エレーナ様がギフトを授かる際には物珍しさで見物していたとの事だ。
そしてザリオンさんが冷静に話を戻して本題に入った。
「なるほど、エリア3に“ミスリルメガリザード”が現れて住処にしてしまった事で、炭鉱夫の皆様が作業に出向く事が難しくなってしまったと……」
「はい。お恥ずかしい話ですが、【気配遮断】のスキルを持っている冒険者がいるギルドにクエストとして発注する形で少しずつ採取はしているのですが、エリア3にはミスリルが採掘されるのです……」
「確かミスリルは、武具を製造するのによく使われる鉱物ですね……」
「そうなのです。このトラブルが解決されないと非常に困るのです……」
ゴンジさんは思い詰めるように説明してくれた。
今は近隣の冒険者ギルドに『中級シーフ』のクルスと同じ【気配遮断】のスキルを持つ冒険者にこっそりと採取してもらう形で対応しているが、取れる量は限られており、依頼料や手間を考えれば割に合わないとの事で、“ミスリルメガリザード”を討伐しない事には根本的な解決には至らない状況だ。
ザリオンさん曰く、“ミスリルメガリザード”は体長約10メートルの大型モンスターであり、特殊な能力こそ持っていないものの、ミスリルに包まれた鎧のような皮膚は相当な硬さであり、生半可な攻撃では絶対に倒れないと言われた。
ただ、俺達を見極めるためなのか、倒し方や弱点は頑なに教えてくれなかった。
「分かりました。“ミスリルメガリザード”はわたくし達の手で討伐致しますわ!」
「ありがとうございます!エレーナ様!」
「では、その場所に参りましょう!」
エレーナ様は二つ返事のように引き受け、善は急げと言わんばかりに行動を開始した。
それから一人の炭鉱夫の案内でエリア3の入口まで辿り着いた。
「ここが例の鉱山か……」
「殺風景なのを想像したけど、やっぱり綺麗ですね~」
「そりゃ……ミスリルが採掘されるってくらいだからな」
高さ自体は小山と言っていいくらいだが、稀少な金属と言われるミスリルを採掘しているからか、迫力があるだけでなく、どことなく神々しさを感じる。
主に山の中よりも地下洞の方で良質なミスリルが採れるとの事だが、その辺りでターゲットの“ミスリルメガリザード”が生息しているとの情報が入った。
俺とクルスが先頭に立ち、最後尾にはエレーナ様とザリオンさん、間にセリカとミレイユと言う陣形で進む事になった。
「まだモンスターの気配はしませんね。後、トラップもなしですね……」
「そうか、分かった」
「ここは鉱山ですので、モンスターはともかくトラップはないはずでは……」
「モンスターがトラップを作るパターンもございますので、念には念をです」
「そうなのですね……」
(なるほど、『シーフ』がいるパーティーならではの方法か……。それに感知系スキルの使い方も上手だな……。更に磨きを掛ければ奇襲対策にもなる……)
エレーナ様が思った事を質問すると、クルスが丁寧に説明し、ザリオンさんはそれを聞いて納得していた。
かつては冒険者だったザリオンさんも調査系クエストなどでトラップに遭遇した経験もあってか、クルスの言っている事に得心がいっている様子だった。
「私達も左右や後ろを警戒するようにしており、いざと言う時は私の魔法攻撃やセリカのスピードを活かした援護で備えております」
「モンスターの襲撃には何より気を付けています!」
「そうですか……。随分と連携が取れているのですね。ザリオン」
「え?はい、仰る通りかと……」
セリカとミレイユがそう言うと、エレーナ様はザリオンに話を振って彼は頷いた。
それから階段を降りて平地に着くと、モノクロのイメージが強かった外観と打って変わり、輝かしさを感じさせる広大な空間だった。
「ん?」
「クルス?どうした?」
「前方から強力な気配を感じます。大きい……」
「「!?」」
アンテナを張っていたクルスの一声に、俺達も警戒心を数段階引き上げていく。
「グウゥオ……」
「何だ……?向こうから響く唸り声が……」
「エレーナ様!」
「皆!」
「「「ハイ!」」」
俺達は構えた。
ザリオンさんはエレーナ様の前に立って臨戦態勢を整えている。
そして俺達は目撃する事になるんだ……。
“ミスリルメガリザード”の恐ろしさと、エレーナ様の魔法の凄さを……。
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