第74話 冒険者を志す貴族令嬢
トーマ達と面識のある貴族の家族が登場します!
いつもの冒険者ライフを送っている中、回復や支援を得意とするメンバーが欲しいと思い始めていた。
闇ギルドの件で仲良くなったBランクパーティー【ディープストライク】のリーダーであるケインさんからハイレンド領の領主であるロミック様に二人の子供がいる事とその一人のご令嬢に関連する話を聞かされた。
翌日—————
「ケインさんの言ってた事ってこれだったのね……」
「まさか昨日の今日で張り出されるとは……」
「ロミック様って、フットワーク軽いのかな?」
「……」
俺達はギルドの掲示板に貼られた一つの掲示物を見て苦笑いしていた。
〈ハイレンド家伯爵令嬢スカウト選考会 近日開催!〉
先日ケインさんが言った通り、ロミック様の娘さんをどこの冒険者パーティーに入れるかを決める選考会が開催される内容だった。
ちなみにこれはハイレンド領にある冒険者ギルドである【アテナズスピリッツ】だけでなく、同じくその領内である【ベスズプレイフル】にも告知がされているとの事であり、どちらも主催者であるロミック様に協力する姿勢だ。
募集条件もしっかり明記されている。
①所属ギルドの推薦を受けたCランク以上の冒険者パーティーである事
②パーティーの人数は4名以上である事
③不当な扱いを決して行わないと約束できる事
「なるほど……。半端な実力や覚悟の冒険者パーティーには任せられないって事か……」
「ロミック様もそれだけ厳選していきたいって現れですね……」
「不当な扱いを決して行わないって……。当たり前の事だと思うんですけど……」
ロミック様のご令嬢を冒険者パーティーの一員として預かると言う意味でもあるから、懸念している事が起きないようにする対応なのは何となく察しが付いた。
伯爵の爵位を持つ貴族の実子が冒険者を志すとは、中々大胆だと思いもしたが……。
「トーマさん、この選考会……」
「うん、受けようと思ってる」
「「決断早ッ!」」
俺達は探そうとしていた支援や回復の専門ギフトを探しているのもあってまずは受ける流れになり、手続きを済ませ、ギルドの飲食スペースで腰掛けた。
やろうと決めたのも、【アテナズスピリッツ】のCランク以上の冒険者パーティーは複数いるのだが、俺達【トラストフォース】もそれに入っているからだ。
「にしても、ロミック様のご令嬢ってどんな方なのかな……?皆は何か知ってる……?」
3年ほどウチのギルドのAランクパーティーに身を置いて冒険者修行を行い、1年間留学していたって事は、少なくとも俺が異世界に来るずっと前の話だから分からないため、セリカ達に質問してみた。
「私は一回見た事ありますよ。当時は15歳でロミック様に連れられてこのギルドに登録して来ました。同じ年とは思えないくらいにとても綺麗なうえに、伯爵令嬢が持つような気品を持っていました」
「私もありますよ。比べていいか分からないですけど、ヒライト家のチェルシア様とはまた別の風格を感じたっていいますか……」
「僕もあります……。まさしく貴族のご令嬢と言うような印象でした」
セリカとミレイユは15歳の時に見かけたと言っており、同い年の女の子と思えないくらいに麗しくも貴族のお嬢様らしい気品と気配を感じたと語ってくれた。
「と言う事は、名前も知っているんだよね……」
「はい……。確か、お名前は……」
俺はセリカからその名前を聞いた……。
同日夕方—————
喧騒を感じさせる明るい街からほど近い郊外、全体的な住居の広さは現実世界で大規模なスポーツイベントを行うようなドームに迫るほど大きく広い庭付きのお屋敷がある。
流れる池がある広い庭には観賞用の魚が数種類泳いでおり、メイドや従者が掃除や美術品のお手入れなどで忙しく働いている。
そして、貴族らしい荘厳さと華やかさを感じさせるような外観だ。
屋敷の中の廊下は幅だけでも5メートル近くあり、非常に綺麗で清潔だ。
一人の男性が執事や護衛と共に歩き、一つの扉の前に立ってノックした。
「私だ。今よいか?」
「どうぞ、お父様……」
奥から伝わる女性の声に従い、ロミック様が入っていく。
「お前に相応しいパーティーに入れるための選考会の準備が整う頃でな……。現在、参加を表明しているパーティーのリストを用意しておいた。見たところ10から15組ほどだ……」
「ありがとうございます」
灰色の髪をオールバックにし、高級感あふれる貴族服やよく整った顎髭も相まってその風貌に威厳や風格を感じさせるこの中年男性こそ、ハイレンド領の領主である、ロミック・ハイレンド伯爵だ。
そのロミック様は目の前にいる女性とやり取りを交わしていた。
「お父様。本当にありがとうございます。冒険者として様々な世界や空間を見てみたい私の想いを汲んで頂けたことを心より感謝しています……」
「何を言う……。私はお前の意思を尊重しただけだ。ただ、最も異を唱えていたガレルの説得に心血を注いだのだけは、忘れないで欲しいがな……」
「もちろんですわ。お兄様を諭して下さった件は忘れていません……」
「ハハハ……。そうかそうか……。それならば、お前をAランクパーティーで修行をさせ、レリーチャへ留学させて良かったよ。のう……。エレーナ」
その女性は輝きそうな栗色に長くしなやかなロングヘアーに真っ白な大理石の如く白く滑らかな肌と紺碧色の瞳をした上品さと気高さを両立させたような気品を纏った美しい女性だった。
この女性こそ、ロミック伯爵の実子の一人にして、修行や留学を終えて帰国した伯爵令嬢である、エレーナ・ハイレンドその人である。
エレーナ様は15歳になって授かる『職授の儀』において、あるギフトを授かった。
「わたくしが『付与術士』になって、【聖属性魔法】が使える事が分かるなんて……。これもまた運命と言うのでしょうか……?」
「そう言い切るつもりは一切ない。だが、そうとも言えるかもしれん……」
エレーナ様は職授の儀で『付与術士』と言うギフトを授かった。
伝手を使って【アテナズスピリッツ】に所属するあるAランクパーティーに身を置いて修行する中、【聖属性魔法】が扱える事が判明したのだ。
それは数あるスキルの中でも相当レアなモノであり、【聖属性魔法】の大成に向けた教育機関に行く事が最適解と言われるくらいだ。
海外留学するには授業料や交通費、滞在費を始め相当な費用がかかってしまいやすい。
並みの家庭や冒険者ならばともかく、ビュレガンセ国内においては高名な貴族で知られるハイレンド家の出身なだけに、かかる費用はものの数字ではなかった。
エレーナ様より4歳年上の実兄であるゲイル様が元からハイレンド領の次期領主としての勉強やその領地の発展を目指しているのもあった事に加え、過去に冒険者が領内のトラブルを解決して見せた様子に立ち会ったのもあって、冒険者として様々な場所に行っては悩める人々のために頑張るその姿勢に対し、憧れのような想いを抱いていた。
だからこそ、エレーナ様は貴族令嬢として生涯を生きていく道を捨てて冒険者を志し、今回の選考会が開かれた次第だ……。
「お父様の進言の下で決めた事ですが、Aランクパーティーに身を置いての基礎訓練で3年、聖教国家『レリーチャ』へ1年間の留学で得た学術や経験は、紛れもなく私の糧となりました。だからこそ、今回の選考会を主催していただけた事は嬉しく存じます……」
「このくらいは容易いものよ……。これと思う人物やパーティーはあるのかな?」
「お父様、気が早いですわ。まずは今夜中に確認した上でご報告致します……」
「そうだったな……。私もこの選考会でお前と行動を共にするのに相応しい御仁達が見つかる事を願う……。それから、前に手紙でも記しておいたが、例のパーティーと人物も参加を表明しておるぞ」
「そうですか……」
父と娘の細やかな会話を終えたように、ロミック様は部屋を出ていった。
エレーナ様はすぐにリストを確認していき、まずは目を通した。
それから真剣な眼差しをしながら見て一分ほど……
「この方々達ですね……。お父様が言っていた冒険者パーティーとは……」
エレーナ様は束ねられた数十枚の資料を見ている中、一つのパーティー名と四名の顔写真付きの名前や詳細が目に飛び込むと、手を止めながら確認していた。
その紙面には【トラストフォース】と言う冒険者パーティーの名前にセリカ、ミレイユ、クルス、そして俺の名前が記された写真が載っていた……。
「うふふ……。直接会ってみるのが楽しみね……」
その表情には、期待と楽しみを胸に抱いていた……。
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