第73話 いつもの冒険者ライフからの……
Bランク冒険者パーティー【ディープストライク】の絡みについては、
「SS 2話 ケインさん達の日常」から繋がっています!
【ベスズプレイフル】のギルドマスターであるルチアーノさんが協力を申し出る極秘クエストとして、イントミスで密かに蔓延る闇ギルドの調査を終えた俺達。
クエストの中でミレイユの杖が破損したので、新調したのだった。
数日後————
「「「「「ワオオオーー!」」」」」
「来たぞ!ミレイユ!」
「【氷魔法LV.2】『メガブリザード』!」
ミレイユの杖を新調した翌日、とある町長が発注した“メガヴォルグ”と“ハイヴォルグ”の群れの討伐クエストに挑んでいる。
“ハイヴォルグ”自体はレア度Dのモンスターでも比較的弱い部類だが、数が数十体な事に加え、その上位種にしてレア度Cの“メガヴォルグ”が2体いる。
言ってみれば、非常に統率が取れている集団って意味だ。
最初はクルスのモンスターの集団やコロニー殲滅における奇襲が上手く行って数は半分に減らしたところに俺とセリカ、杖を新調したミレイユが飛び込んだ。
そしてミレイユの【氷魔法LV.2】『メガブリザード』によって“ハイヴォルグ”らは氷漬けとなった。
「ハアァァ!」
「フンッ!」
「シイィィィ!」
「「「「「グオォォ!」」」」」
凍ってほとんど動けない“ハイヴォルグ”の残りは、俺とセリカ、クルスによる剣術で次々倒していった。
そして忘れていけないのが……
「「グルルルルル……」」
「ボスとの対面か……」
群れのボス格である“メガヴォルグ”二体との対決だ。
人間サイズの“ハイヴォルグ”よりも2倍はあるだろう“メガヴォルグは威圧的な視線と唸り声を見せ付けているが、俺達は毅然と返す。
「「ガアァァ!」」
「「「「【脚力強化】」」」」
強く踏み込み襲ってくる“メガヴォルグ”の突進を、俺達は【脚力強化】による機動力向上で咄嗟に躱したお陰で空を切った。
それだけで終わらず……。
ジジジジジジジジジジジ……。
“メガヴォルグ”二体の足元には、クルスが愛用している炸裂弾数個が転がっており、すぐに爆発して煙が舞い上がる。
「「グルルルルル……」」
だが、二体の“メガヴォルグ”は焦る事無く、冷静に状況を見回していた。
“メガヴォルグ”はレア度Cのモンスターであり、魔法攻撃を使う事も無ければ特殊能力を備えてはいないものの、高い知性を持っている。
それこそが、多くの下位種である“ハイヴォルグ”を従えているのも納得なくらいに警戒心が高く賢いレベルであるくらいだ。
その瞬間……。
バパバパバパバパッ
「「グルッ!?」」
二体の“メガヴォルグ”の上で、耳を劈くような破裂音が響き、その視線は上を向いた。
「【炎魔法LV.2】『フレイムジャベリン』!」
「【剣戟LV.2】『地雷斬』!」
「「ギャバアァァァ!」」
その隙を突くように、俺とミレイユはそれぞれの個体に強烈な一撃を浴びせた。
一匹は燃える炎の槍に喉元を貫かれながら焼き焦げて倒れ、もう一匹はその首が胴体から離れて地面に落ちていきながら、光の粒子となって消えていき、魔石と表皮を落とした。
「ふうぅ~、やったな!にしても凄いな、ミレイユの新しい杖……」
「ハイ!効率よく強力な魔法が撃てているような気がします!後、振り回しやすいです!」
「ミレイユの杖を新調したのは大正解でしたね!」
ミレイユの新しい杖は280万エドルと大枚をはたいて買ったものの、見事にクエスト達成に大きく貢献する結果を残せた。
先の協力クエストでもらった報酬は9割方使ってしまったものの、それでもお釣りが来るだろう結果を残し、使用した本人も手応えを感じている。
「トーマさん!買っていただけてありがとうございます!」
「喜んでくれて何よりだよ!」
「待ってなさいよクルス!アンタの分の武器もポンと買えるくらいに稼ぐからね!」
「ありがとう……。気長に待つよ……」
こうして俺達は倒したモンスター達から出てきた魔石や素材を回収して依頼をした町長へ結果を報告した後に、ティリルへと戻っていった。
「これでクエスト達成になりますね。お疲れ様です」
「ありがとうございます!」
お馴染みの受付嬢であるナミネさんに完了報告を行い、報酬を受け取る事になった。
クルスの今の武器はミスリル製のロングナイフ一本と、約30センチメートルの従来のナイフ一本であり、こちらはセリカが自宅の棚を整理していたら偶然出てきて、当面はそれを使うって事になった。
しかし、Cランク向けのクエストに挑むには心許ないため、早く新調しなければって話だ。
「今回は100万エドルですか?結構もらえましたね!」
「ここから生活費に何割か充てても、すぐに新しい武器は買えそうですね!」
「リペアフルードとかも買うとなったらまた話は変わるけどね……」
「お金は大事ですから……」
クルスがミスリル製のロングナイフの手入れをしながら呟いた。
Cランク向けのクエストとしては悪くない金額をもらえたが、ここから日頃の生活費や装備品の修繕や保守をするための経費などを差っ引くので、残った金額を武具や衣装の新調、補助アイテムを購入する貯蓄に充てている。
パーティーを組んでいる以上、財政管理はしっかりしなければならず、得た報酬をいたずらに浪費してしまうのは冒険者として死活問題に繋がるだけでなく、金銭面でのトラブルは人間関係や信用にも直結する。
俺が現実世界にいた時にも同僚や部下からお金の貸し借りの話を持ち掛けられてもきっぱり断るようにしていたが、それが元でトラブルに巻き込まれかけた事もあるため、金銭面における事柄にはシビアに対応する事を心掛けている。
「お金が全てじゃないけど、何をするにもお金がかかるんだよな~」
「同感です!」
「深いですね!」
「それ分かります!」
一同は納得しており、全員が金銭面に関係する意識をしっかり持っている事に一安心した。
「やぁ!今日もクエストに行ってきたのかい?」
「「「「!?」」」」
その時、聞き覚えのある気さくな声が俺達に届いた。
「あ、ケインさん!皆さんも……」
「ケインさん達もクエストに赴いていたんですか?」
「ビュレガンセで小さな領地を構える男爵貴族が発注したクエストでな……。シーゾス近くで発生した “オーガジェネラル”筆頭の大規模コロニーの殲滅クエストに赴いていたんだ。その帰りさ!」
「“オーガジェネラル”って、“オーガナイト”の上位種であるレア度Cのモンスターですよね!?てことは下位種の“オーガ”……」
「えぇ、かなりいたわよ。私ら4人で全滅させてやったけど!」
「そんな凄い事をサラッと……」
そこにいたのはBランクパーティー【ディープストライク】のリーダーであるケインさんであり、サブリーダーのフィリナさん、メンバーのニコラスさんとエルニさんもいる。
“オーガジェネラル”とは、俺達が『イバヤ遺跡』でやり合った“オーガナイト”の上位種であり、当然そのパワーや頑強さはその比ではなく、Cランクパーティーが挑むには、今の俺達では何とかできる保証もないくらいに強力なモンスターだ。
加えて“オーガナイト”十数体に“オーガ”何十体を相手取る訳だから、ケインさんクラスの冒険者じゃなければ相当厳しい。
……はずなのにケインさんとフィリナさんはあっけらかんとした表情と声のトーンで言っており、ミレイユとクルスはポカンとなっていた。
「とは言え、俺とフィリナだけじゃない!エルニの【支援魔法】や【回復魔法】によるサポートとニコラスの魔法あっての結果だからな!」
「それが私の役目ですから……」
「私は“オーガ”や“オーガナイト”の殲滅の中心とボスキャラ討伐のフォローをしただけですよ。最終的なトドメはケインさんとフィリナさんが果たしてくれました」
「……」
『上級僧侶』であるエルニさんによる【支援魔法】で味方の身体能力やスキルをパワーアップさせ、それを受けたニコラスさんによる【炎魔法】と【土魔法】、【岩石魔法】で下位種の多くを倒し、ケインさんとフィリナさんも援護していった。
そしてコロニー殲滅におけるボスキャラである“オーガジェネラル”の打倒をケインさんとフィリナさんを中心にした戦術で果たされたって訳だ。
これまでのゲームや漫画の知識を総動員しながら聞いただけでも、鮮やかで見事な連係プレーだなとイメージできた。
これと言った傷が目立たないのも、エルニさんの【回復魔法】のお陰だ。
「ん?どうしたトーマ?ボーっとして……」
「あ、いえ……。俺、今の話を聞いてふと思った事がありましてね……」
「何がかな?」
ほぼポーカーフェイス気味な表情でいた俺にケインさんとフィリナさんが訪ねてきた。
「今回のクエストの立役者って、『上級僧侶』のエルニさんかもって考えてまして……」
「え?エルニが……?」
「私、でしょうか……?」
俺がそう言うと、フィリナさんと不意に名前を出されたエルニさんが少し驚いた。
エルニさんはギフトや役回りもしくは本人の性分もあってか、自分から目立つタイプの人間でないのは分かりつつあり、基本的に淑やかで口数は少ない方だ。
「味方をパワーアップさせる【支援魔法】があれば、前衛に出て戦うギフト持つ人や中遠距離攻撃を得意とするギフトを持つ人などはより強力な攻めができるのと、体力や状態異常を治せる【回復魔法】があれば、討伐系にしても調査系にしても凄くありがたいと思うんですよ。相当な数のモンスターの群れや格上の相手に対抗するなら、味方の強化や回復するのが得意なギフトを持っている方が一人いればって考えてたんです」
「そうですね。ウチのパーティーでは前衛で戦うケインさんとフィリナさん、その二人を中遠距離から魔法で援護やトドメを刺す役割を担うニコラスさんがいますので、味方を強化や回復ができるスキルを持っている人がいれば、少なくとも安定感は増しますね」
「エルニは『上級僧侶』だから回復と支援を得意としているんだ。彼女の場合は【回復魔法】の方が得意だけど……」
「とは言っても、俺とフィリナがやり合ったあのビデロスって奴との勝負もエルニが掛けた【支援魔法】のお陰で勝てたんだよな……」
「【支援魔法】や【付与魔法】を本職にしている『神官』や『付与術士』にはとても及びませんよ……」
俺の考えている事を伝えると、エルニさんは回復や支援に優れたメンバーがいる事の重要性とメリットを説明してくれた。
実際、魔改造されたドキュノとやり合った俺達の内、セリカとミレイユはかなりのダメージを負っていたが、エルニさんの【回復魔法】のお陰でそれも最小限に抑えられた。
ケインさんとフィリナさんがやり合ったビデロスとの闘いも、エルニさんの【支援魔法】がなければ勝って生き残るどころか、命を落とす危険性も大いにあった。
「トーマさん、次は『僧侶』や『付与術士』とかサポートを得意とする冒険者を仲間にしたい感じですか?」
「できればって話だな……」
「エルニさんの言う通り、味方の強化もしくは回復を得意とするギフト持ちが一人でもいれば、パーティー全体の安定感は上がりますよ」
「そう言われてしまうと……、確かに欲しくなりますね……」
エルニさん達の話を聞いていると、俺を含めたメンバー全員が支援や回復に優れた冒険者が欲しいと思い始めている。
「あのさ~。一つ思い出した事があるんだけど、いいか?その支援や回復に優れたがどうとかの話なんだ……」
「あぁ、あれね!」
「あの話ですね!」
「あっ……」
「どうしましたか?皆さん……」
ケインさんが何かを思い出したように話を切り出すと、フィリナさんに続いてニコラスさんとエルニさんも連鎖しているかのようにハッとなった。
「ここに戻る道中で聞いた話なんだけどな……。ティリルを始め複数の土地を治めているハイレンド領の領主であるロミック様に関係する話なんだ……」
「え?ロミック様が……?」
支援や回復に優れたギフトが欲しいと思い始めた矢先に伯爵の爵位を持ち、先日、闇ギルド根絶の協力を表明したロミック様の名前が出た事に驚いた。
ロミック様と何の関係があるんだと思いながら聞いていた。
「ロミック様には血の繋がったご令嬢様がいらっしゃってな……。3年ほどウチのギルドのAランクパーティーに身を置いて冒険者修行を行い、加えて聖教国家で有名な『レリーチャ』に1年前から留学していたんだよ」
「ロミック様、娘さんがいらっしゃるのですか?って……ん?」
先ほどまで支援や回復が得意なメンバーについて話をしていたところである意味衝撃のカミングアウトとロミック様の娘さんが神聖国家『レリーチャ』に留学している事実から、ケインさんが何を言いたいのか、この時点で俺は半分以上理解した。
これはもしかすると……。
それは、聞いていたセリカとミレイユ、そしてクルスも同じだった。
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