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SS 4話 ナミネさんの日常

有能なギルド職員の日常を描きます!


ティリルの住宅街の中に一軒のアパートがあった。

比較的新しく建てられたのが分かるくらいに薄い土のような色をした壁は綺麗であり、しっかりした造りだった。

その一つの部屋に朝日が差し込んだ。


「ん~。朝か……」


1ルーム8畳ほどの部屋の隅のベッドから起き上がり、シャワーを浴び、パンやサラダに肉のソテーに牛乳とシンプルな朝食を済ませた。

そしてクローゼットから事務的な仕事をするためのような洋服を取り出し、それに着替えて髪型も整えていく。


「さて!今日も頑張りますか!」


ティリルに拠点を置く冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】に勤務しているお馴染みの受付嬢のナミネさんだ。

暗めの長い茶髪をシニヨンに纏めた髪型にベージュのベストとパンプスのような服装をしており、顔立ちや雰囲気も清楚さを感じさせる雰囲気だ。

見た目的には20代前半から半ばといったところかな……?

出勤するとすぐに今日の予定や自分がするべきルーティン、ギルドマスターを始めとする上役からの共有事項の確認などを事前に行った後に受付へと立った。

するとすぐにギルドには冒険者達で集まってくる。


「ナミネさん。こちらの討伐系クエスト、我々が引き受けます!」

「Dランクパーティー向けのクエストでございますね!こちら手続きを済ませておきますので、よろしくお願いします」

「昨日のコロニー殲滅に成功した証拠と魔石の数々です!換金お願いします!」

「かしこまりました。すぐに行わせていただきますね!」

「すみません!これらを会計課の方に渡しといて下さい!」

「ハイ!」


これがナミネさん、そしてギルド職員の仕事における日常だ。

冒険者の応対、クエストの実行や完了の手続き、鑑識や会計を担う課との連携、ギルドで引き受けるクエストの精査などと多岐に渡る。

ナミネさんは主に冒険者の応対が中心となる、いわばギルドの看板である。

冒険者がごった返すと職員のほとんどが忙しなく働いており、毎日が慌しい。


「すみません。こちらのクエストですが、『魔術師』や『アーチャー』等の中遠距離攻撃ができる手段を持つギフト持ちがいない状態で臨むのは少々厳しいですよ」

「え?キツイですか?」

「“アンガーイーグル”は飛行系のモンスターです。中遠距離攻撃を得意とするギフトを持った冒険者がいる方が効率的ですよ。Dランク以上が推奨です」

「そうは言ってもな~」

「アライアンスを結ぶのはいかがでしょうか?確か、コチラの3人組パーティーが最近Dランクに昇格されまして、『魔術師』や『アーチャー』2名のいるパーティーでございますが、いかがいたしましょうか?」

「どうする?」

「ん~。まぁ、コロニー殲滅だから人数はいるに越した事はねぇな!分かりました!その方向で引き受けます」

「かしこまりました!そのパーティーにアライアンスを希望しているとの伝達をしておきますね」

「ありがとうございます!」

「さてと……」


ナミネさんは冒険者相手でも冷静かつ正確に対応していき、それだけでなく難しいと判断した上で新たな提案を出して納得させて見せる等、受付嬢として申し分ない技量だ。

【アテナズスピリッツ】の職員の能力は基準通りか少し上回っている者が大半の中、ナミネさんは特に仕事ができる有能な人材の一人だ。

ギルドに所属している冒険者の顔と名前だけでなく、ギフトまでほぼ把握しており、事務処理がスムーズなだけでなく、その場に即した合理的なアイデアを提供する事もあるほどに柔軟な対応ができるほどだ。

実際にナミネさんを信頼しているのは職員だけでなく、見習い~駆け出しの冒険者の多くからも信用されている。


「ふぅう……」

「ナミネさん!お疲れ様です……」

「お疲れ様!リンコさん」


ナミネさんが職員専用の談話室でシンプルなランチを取っている中、ベージュのミディアムヘアを左おさげの髪型をしている素朴な雰囲気の女性はリンコさんであり、自分が教育係として指導してきた後輩だ。

求められる技量はどうにか備えているけど、何事も一生懸命な頑張り屋さんだ。


「さっきの対応見ていましたよ!咄嗟にあんなに的確な対応ができるなんて、尊敬しちゃいますよ!」

「そう?それほどでもないと思うけど……」

「当たり前にこなしちゃいますから尚更ですよ~!」


指導してもらった関係もあってか、リンコさんはべた褒めだが、ナミネさんは謙虚に対応している。

冒険者同士の談議もあれば、ギルド職員の談議もあるのだ。


「そう言えば聞きました!あの事件、確かイントミスと言う街で起きた……」

「あぁ、闇ギルドの件でしょ?正確にはその外れの場所で起きたって話だけど……」

「そうそう、そうです!それでウチのBランクの冒険者パーティー【ディープストライク】とCランクの冒険者パーティー【トラストフォース】で、えっと……」

「Cランクの冒険者パーティー【パワートーチャー】よ。ただ、事実上の解散にはなってしまったけどね……」

「あれを初めて聞いた時は……。私もドン引きでした……」


少し重苦しい雰囲気が流れていた。

今でこそ大分落ち着いたが、闇ギルドの件が発覚した際、【アテナズスピリッツ】の職員達はその対応に追われまくりでてんやわんやだったとの事だ。

その【パワートーチャー】でパーティー内の一人が闇ギルドに繋がる裏切者であり、二人が冒険者を引退、そして一人は魔改造された末に死亡してしまうと言う、余りに悲しく痛々しい事態が起きたのだから。


「でも、生き残った冒険者達は大なり小なり入院こそしたけど、今は全員復帰しているし、後遺症も残っていないらしいよ」

「そうですか……。良かったです……」

「そうね……。本当に……」

「ナミネさん?どこか物憂げですよ」

「そ、そんな事ないわ……」


俺達冒険者には知らないであろうナミネさんとリンコさんの細やかなランチトークが裏で展開されているのだった。

そして夜も更けていく中……。


「皆さん、定刻なので私はこちらで失礼します。お疲れ様です。」

「「「「お疲れ様です!」」」」


職員の私物を預けるロッカールームで帰り支度を済ませたナミネさんは同期や後輩らしき職員に帰りの挨拶をして帰って行った。

冒険者ギルドは24時間体制で動いており、大抵の冒険者ギルド職員はシフト制であり、健康的な問題がなければ週に1回は全員夜勤を担当しており、ナミネさんも例外ではない。

それでも、【アテナズスピリッツ】のギルドマスターであるカルヴァリオさんの方針で、体調的にキツイ時は速やかに共有するようにしており、代休をそれぞれ取り合う形でフォローし合っている。

そしてナミネさんはアパートに帰宅し……。


「ぷはー!仕事終わりの一杯は堪らないわ~!」


エールにから揚げにポテチと、ギルドでお馴染みのギルド飯を味わっていた。

仕事モードのナミネさんは仕事を冷静沈着かつ完璧にこなす有能な女性だが、本当はお酒が好きな女性だ。

業務に励んでいる時は髪を纏めているが、今は緩さを醸し出しているような髪型と少しダボついているような黒い半袖Tシャツにハーフパンツとラフさ全開の服装だ。

仕事が良くできる人ほど私生活は意外なくらいに緩くて自由だったりとする話は俺が異世界に飛ばされる前の世界でもよくある話として通っているが、ナミネさんもその一人だ。

まあ、年中無休で本当に気を張り詰め通すなんて、ほぼ無理だからな……。


翌日—————


「ふぅう……。ここのカフェは本当にまったりするわねぇえ……」


ナミネさんはカフェで貴重な休日を味わっていた。

家の中ではラフな格好をしているナミネさんだが、今は清楚さを感じさせる白のブラウスに花の花びらのように広がるスカートとオシャレな格好をしており、仕事で見せるシニヨンヘアーではなく、手入れは行き届いた髪を降ろしている。

そんな時だった……


「今回はありがとうな!今回のクエストはマジで助かったよ!」

「役に立って良かったよ!」

「また一緒にアライアンス組もうぜ!」

「おう!いいぜ!」

(ん?あれは……。あの時の……)


紅茶を楽しんでいるナミネさんの目には、アライアンスを組むように提案した冒険者達であり、紹介したパーティーと共に親しく話しており、その表情は明るく鷹揚だった。


(上手く行ったんだね……。良かった……)


それを垣間見たナミネさんは安堵とやりがいを感じたような穏やかで暖かな表情を浮かべながら紅茶を嗜んでいるのだった。


「ん?」

「どうした?何かあったか?」

「いや、気のせいだ!ごめんごめん」

「そうか!じゃあ、ギルドにクエストの完了報告でもするか!」

「おう!」


ナミネさんが悟られず知られずとも、【アテナズスピリッツ】の冒険者達の喜ばしい姿や嬉しい様相を道端で知る事は、細やかな楽しみの一つになっているのだった……。



面白いエピソードを投稿できるように頑張っていきます!

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