SS 2話 ケインさん達の日常
闇ギルドの件で活躍した冒険者達がメインです!
ティリルの住宅街の中に一軒の小屋があった。
大きさは俺達が拠点にしているセリカの家の2倍近くであり、若干の年季を感じさせるが、定期的に補修されているのが分かる。
その一つの部屋に朝日が差し込んだ。
「ん……。朝か……」
8畳ほどの部屋の隅のベッドから指で眉根をつまんで気つけながら起き上がり、すぐ近くにあった水の入ったボトルに口を付けて飲み干し、稽古用の木剣を持って出ようとする一人の男性がいる。
「朝飯前に少し素振りするか……」
【アテナズスピリッツ】に所属する冒険者であり、Bランクパーティー【ディープストライク】のリーダー格であるケイン・バニシスさんだ。
精悍さと爽やかさを両立させた風貌をしており、オリーブ色の短髪にシルバーのメッシュを入れた髪型が特徴的な男性であり、性格も律儀で誠実な人格者だ。
そんなケインさんは拠点にしている住宅街のすぐ近くの小さな公園のような場所で木剣を素振りする稽古に励んでいた。
いつもの鎧姿ではなく、黒いタンクトップと長パンツ姿であり、そこからのぞく両腕はモンスターとの戦闘や鍛錬の積み重ねでできたであろう、屈強さを感じさせるくらいに逞しかった。
ケインさんは目の前に相手がいる事を想定しながら木剣を振るっている。
「フッ!ハッ!セイ!」
(あのビデロス・ガルランと言う男……。強敵だった……)
ケインさん達は闇ギルドを追うために蔓延っているとされているイントミスと言う街へ共同クエストに赴いていた。
そこで闇ギルドの幹部格であるビデロス・ガルランと戦闘になった。
凄まじい闘いで自身も大ダメージを負っていたが、メンバーの協力で勝つ事ができた。
(俺にもっと実力があれば、トーマ達を危険な目に遭わす事もなければ、フィリナにあんなリスクが伴う事をやらせてしまう事も無かった……)
しかし、紙一重と言っていい結果だったため、自分の実力不足を感じていたケインさんは朝稽古も最近追加したとの事だ。
それから自主稽古を始めて一時間—————
「ふぅ……」
「ケイン~!」
「おう。フィリナか!」
「やっぱりここにいた!朝ごはんがもうすぐできるから呼んで来たわよ!」
「そうか……。態々悪いな……」
ケインさんの下にやって来たのは、同じパーティーメンバーであり、サブリーダーのフィリナ・トレミスさんだ。
鮮やかなオレンジ色のロングヘアーをポニーテールにした髪型をしており、女性にしては長身でスレンダーな体型のサバサバした雰囲気を感じさせる美女である。
普段は軽鎧に身を包むフィリナさんも、今は薄いグレーのタンクトップにホットパンツとスポーティーな格好をしており、両手脚もモデルのように長く、鍛え引き締まった身体つきをしている。
「「ただいま」」
「おかえりなさい……。今日も朝稽古ですか?ケインさん?」
「あぁ……。食事前の軽い運動だ」
「そうだと思って、“ブラウンモウム”のソーセージやタマゴサンドを作っておきましたよ!これで筋肉付けましょう!」
「ありがとう!美味しそうだ!」
「エルニ、ニコラス!ありがとう!」
ケインさんとフィリナさんが戻ると、同じメンバーであり『僧侶』のエルニさんが料理をしていて、『魔術師』のニコラスさんが配膳をしていた。
基本的には交代で料理当番を担当するようにしているが、大体はエルニさんやニコラスさんが担っているようであり、ケインさんやニコラスさんもできない事はないが、手の込んだ料理は不得手みたいだ。
「「「「いただきます!」」」」
「美味いな……。また腕を上げたんじゃないか?エルニ……」
「いえ、そんな事は……。ニコラスさんも手伝っていただけたのもありますので……」
「私は食材を要所で出したりしたに過ぎませんよ。でも美味しい……」
「アタシらそんなに料理できる方じゃないからさ!今度教えてよ!」
冒険やクエストに赴く時じゃないケインさん達の日常は基本的に穏やかだ。
最近請け負ったクエストや戦闘になった際に思った事について話し合いながら、時にはひと気のない場所へ行って特訓や街に出て買い物をしたりと、自己研鑽やリフレッシュに力を入れている。
「お!ミスリルが練り込まれたシャツが入荷したんだ!エルニ!どうかな?」
「良いと思いますし、冒険の役には立つかと思いますよ……」
「ケインさん……。また新しい片手剣が入荷されていますよ……」
「ん……?おぉお、悪くないな……。キープの意味で目を付けとくにはいいな……」
ギルドでも実力者として有名なケインさん達でも休息は必要だ。
武器屋に赴いてお眼鏡に叶いそうな武具のチェックを見る事もあれば……。
「ふぅう……」
「本当に……。たまにはまったりできる場所でお茶するのもいいわね~」
「「ですね~~!」」
雰囲気の良さそうなカフェでのんびり過ごす事もある。
いつもの冒険者ルックではなく、休養日だから私服だ。
ケインさんはラフなセットアップにTシャツを身に付け、フィリナさんはオフショルダーのシャツに薄い青色のパンツとそれぞれカジュアルな格好だ。
ニコラスさんは白いシャツにグレーのスラックスとサスペンダーを身に付けており、エルニさんはベージュ色のワンピースと落ち着いた格好をしている。
明るく溌剌とした性格をしているフィリナさんの影に隠れがちだが、エルニさんも結構整った顔立ちをしており、私服姿もあって可憐だ。
まったりした世間話をしばらくすると、ケインさん達はギルドに向かった。
「あれって【ディープストライク】の4人じゃん!」
「あの人達だよな……。イントミスを脅かそうとした闇ギルドの事件を解決して見せたとかないとか……」
「闇ギルドの幹部をぶっ倒したってよ!凄い闘いだったらしいぞ……」
「私服姿も素敵~。ケインさんってカッコイイよね!」
「フィリナさんは美人でスタイル抜群だし、エルニさんもお嬢様みたい!」
「ニコラスさんもあの落ち着いた雰囲気、良いよね~」
先の闇ギルドの件でケインさん達はギルド内でもかなり話題になっていた。
内容が内容なだけに、所属している冒険者達も羨望の眼差しで見ている。
ケインさん達は図らずともまた知名度を上げている事を思いながら掲示板に向かっていた。
「ナミネさん。こちらのコロニー殲滅クエスト、我々が引き受けます!」
「Bランクパーティー推奨のクエストでございますね!こちら手続きを済ませておきますので、よろしくお願いします」
「皆!作戦会議を行うぞ!」
受けたいクエストの手続きを終えると、ギルドで併設されている飲食スペースに座り、作戦会議をしていた。
「いつものフォーメーションを中心にしつつ、イレギュラーを想定しながら立ち回って行こう。いざとなれば俺がフォローに回るから、無理はしないように……」
「分かりました」
「装備も整えておきますね」
「あぁ……」
「……」
「フィリナ?どうした?」
「ん?いや、何でもない!アタシも愛用の武具をリペアフルードでメンテしないと……」
作戦が纏まった中、フィリナさんはケインさんの顔をじっと見ていた。
ケインさんがそれに気付いて指摘すると、フィリナさんは慌ててはぐらかしていた。
普段住んでいる家屋に戻る道中で八百屋や屋台に寄っていき、夕飯で作る食材数点を購入していった。
それからエルニさんとニコラスさんが料理に取り掛かろうとした時だった。
「食事前の運動をしてくる。出来たら呼んでくれ……」
「分かりました」
「……」
ケインさんはそう言って出て行き、フィリナさんはじっとそれを見ていた。
着いてすぐ、朝稽古をしていた場所で素振りや筋力トレーニングをしていた。
「295……296……297……298……299……300!ふぅ……」
ケインさんはベンチに座ってボトルに入っている水を飲み終えると、沈みかけている夕日を見ていた。
その表情には憂いや焦燥が入り混じっているようだった。
(次のクエストも、俺がしっかりしなければ……。どんなモンスターや輩にだって敗けないくらいに強くならなければ……)
「焦っているようなカオしてるわね……」
「フィリナ?」
すると達観しているような女性の声がケインさんの隣から聞こえた。
フィリナさんだった。
「この間の闇ギルドの件から鍛錬の量が増えすぎているような気がして来てみれば、やっぱり張り詰めているのね……」
「フィリナ!もう飯の時間か?」
「もう20分はかかりそう!」
「そうか……。じゃあもう20分ほど……」
「あ!ストップ!ストップ!」
「何だ?どうした?」
フィリナさんが修行に戻ろうとしたケインさんの手を握り、ベンチに改めて座らせた。
「ケイン……。そんなに思いつめなくてもいいのよ……。却って疲労を溜め込み過ぎてパフォーマンスが落ちでもしたら本末転倒よ!」
「分かっている……。もっと強くならなければ、また……」
闇ギルドの事件以来、ケインさんは自分の実力不足で一緒に参加してくれた冒険者達を危険な目に遭わせてしまった事を後悔しており、ここ数日はオーバーワークになりそうなほどの鍛錬メニューを繰り返していた。
作戦会議の時も、「自分がフォローするから」などの自己犠牲と言えなくもないセリフを何度もしていた。
古くからの付き合いであるフィリナさんはそれを見抜いていたのだ。
「テーーイ!」
「ンゴ?フィリナ?」
「ケイン。アンタさ……」
不意討ちのようにフィリナさんがケインさんの頭に手刀を浴びせ、彼は豆鉄砲を食ったような顔になった。
「そんなに責任抱えなくてもいいのよ!」
「?」
「【ディープストライク】のリーダーはケインよ!アンタがこうしたいって胸を張って言うならアタシはいくらでも協力する。闇ギルドの件だって、覚悟の上で話に乗ったんだから!ニコラスやエルニも同じ事を考えているわ!と言うか行く前に聞いたでしょ!」
「……」
フィリナさんは真っ直ぐな目をしながらケインさんに語り掛けた。
BランクパーティーがBランク向けのクエストに必ず成功する保証はどこにもない。
想定し切れなかったイレギュラーはいざ知らず、一人が暴発したせいで作戦にほころびができてしまった、疲労を抱えたままやったせいで本来の力を発揮し切れなかったなどの要素でクエスト失敗する事もある。
それこそ、死に直結する可能性だってある。
そのために事前に準備を行い、上手く行くように作戦を立て、それこそ今以上に強くなるために修行や鍛錬も重ねていかない事には始まらない。
「だから……。何が言いたいかってのは……」
「何だよ?」
少し素直になれていないような表情をしているフィリナさんにケインさんが聞き返す。
「もっとアタシらの事を頼りなさい!戦っているのは、ケインだけじゃないんだから!」
「フィリナ……」
「アタシだけじゃない!ニコラスだっている!エルニだっている!アンタが私達の事をフォローしてくれるから、アタシ達もアンタの事をフォローするし、どんなところにだって付いていく!舐めないでよね!アタシらの力を!!」
「……」
フィリナさんの言葉にケインさんはしばらく思案しながら、今までメンバー達と過ごしてきた日々を思い出していた。
冒険者になってすぐにフィリナさんとパーティーを組んで初めてのクエストでモンスター討伐に成功した時、作戦や欲しいメンバーについて安い飲食店で遅くまで話し合った時、ニコラスさんやエルニさんを迎えて初めてのクエストで成功した時、Bランク冒険者になれた時は嬉しさの余り夜が過ぎるまで飲み明かした時……。
張り詰める日が続く余り、無意識に蓋をしていたかけがえのない仲間の存在と大切さがケインさんの胸の中に再来した。
「そうだな……。お前の言う通り、俺は焦っていたのかもしれないな……」
「そうだと思うよ……」
ケインさんの表情から硬さが少しずつ消えていき、それを垣間見たフィリナさんも穏やかな微笑みを見せた。
「明日のクエストで討伐するモンスターは強いと聞いた事があり、それこそコロニー殲滅だ。シビアなクエストになるかもしれない。だから……」
ケインさんはスッと立ち上がり、フィリナさんと向き合った。
「俺の背中は任せるぞ!相棒!」
「えぇ!任されたわ!」
ケインさんとフィリナさんは吹っ切れたような表情で拳を合わせる。
その様子を微笑ましく見守るニコラスさんとエルニさんだった。
翌日—————
「お前ら!準備はいいか?」
「問題ありません!」
「装備の修繕や保守、回復アイテムの用意も万全です!」
「えぇ!むしろ行くのが楽しみで仕方ないわ!」
クエストへ出発する準備を終えたケインさん達の表情は自信に満ちていた。
(俺達【ディープストライク】は、もっと高みへ登っていく!皆と共に!)
「よし!行くぞ!」
「「「オォオオーー!」」」
そしてケインさん達はクエストのために目的地へと歩いて行った。
信じ合う仲間と共に……。
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