SS 1話 クルス、過去の清算へ
クルスの視点で描きます。
時折、主人公パーティー以外のキャラにフィーチャーしたサイドストーリーも展開していきます。
「うっ……ここは……?」
「あっ!目を覚まされましたか?只今先生をお呼びしますね!」
僕が目を開けた時には、真っ白で飾り気が一切ない天井の上だった。
その様子を見ていた看護師は忙しない様子で部屋を出て行き、ここが病院だと知った。
僕は【ベスズプレイフル】のギルドマスターであるルチアーノさんからの要請を受けた協力クエストに参加していて、街で蔓延ろうとしている闇ギルドの調査に赴いていた。
僕は【アテナズスピリッツ】に籍を置いているCランク冒険者パーティー【トラストフォース】に所属していて、仲間であるセリカやミレイユ、そしてトーマさん達と事に当たっていた。
その中で一人の魔改造された暗黒戦士との交戦に参加し、僕は大傷を負って何日か意識不明となってしまったと聞かされた。
それから治療してくれたお医者さんに身体の状態を聞かれ、しばらくの安静を命じられた。
「「クルス!」」
「うお!セリカ!ミレイユ!」
医者と入れ替わる形で、セリカとミレイユが病室に飛び込んで来た。
二人も相当な重傷を負っていたが、僕よりも早く【回復魔法】による応急処置と病院でしっかりした治療を受けたお陰で、今は激しく動かなければ問題ないくらいまで回復している。
「クルス!本当に大丈夫なの?身体の調子は……?」
「うん!大丈夫だけど……」
「本当に心配したんだよ!二日間意識不明になっていたんだから!」
「二日もか……」
僕は二日間も意識を失っていた。
二日間も寝込むなんて、風邪をひいた時でもなかったのに意識不明でそうなるなんて今までなかっただけに、余り実感が湧かなかった。
セリカは心配そうにしていたが、ミレイユは泣きそうな表情をしていた。
「そう言えば、トーマさんは?」
「「……」」
トーマさんが今どうなっているかを確認した時のセリカとミレイユの表情は暗かった。
最悪な可能性が頭を過った。
「トーマさんも重傷だったけど、命は取り留めている。ただ、今も意識不明の状況よ……」
「身体の傷は概ね治っているけど、精神的ショックが強いみたいな事になってるの……」
「そうか……」
僕はトーマさんが今どうなっているのかを聞かされて、複雑な気持ちになった。
様子を見に行きたかったが、少なくとも一日は絶対安静を医者に命じられていた。
(トーマさん……。そう言えば、カズナさんやフルカさんはどうなったんだろう……?)
僕は目覚めた一日を煩雑で方々に考えを巡らせながらベッドの上で過ごす事になった。
翌日—————————
「トーマさん……」
「「……」」
セリカとミレイユの付き添いでトーマさんが眠っている個室に向かった。
トーマさんの身体中に付けられている医療用の器具、空しく響く駆動音、横たわったまま動く気配のない状況が虚しさも覚えさせた。
医者からも目覚めるかどうかが山場だと聞かされ、僕は最悪なシチュエーションも心のどこかで覚悟をしていた。
リハビリの意味で病院の建物内を歩いている時だった……。
「ん……?」
「はぁ……はぁ……」
かつて所属していた【パワートーチャー】のメンバーの一人であり、看護師に支えられながら杖を突いて歩くフルカさんの姿だった。
僕は目覚めてすぐに、カズナさんとフルカさんの状態を知る事になった。
カズナさんは今回のクエストにおけるターゲットであるビデロスによって、左腕と右脚を欠損こそしなかったがかなり深く斬られてしまい、特に左腕は肩の腱まで届いてしまったため、活発に動かす事ができなくなったそうだ。
フルカさんは背中を斬られてしまった時に神経の一部をバックりとやられてしまい、その上カズナを背負って逃げるために無理をして走った事もあって余計にダメージを重ねてしまっていた。
それによって左脚に強い痺れが残ってしまい、リハビリ次第では日常生活には戻れるものの、スピードやテクニックが自慢であり要になる『中級軽戦士』として冒険へ出るには致命的となってしまった。
そんなフルカさんは今、人並みの歩行能力を取り戻せるように、もがくようにリハビリに取り組んでおり、自力で何とか歩けるだけの力を取り戻そうと頑張っていた。
カズナさんも、重りを握って上げ下げしながら感覚を取り戻そうとしていた。
「カズナさん……フルカさん……」
前のパーティーを追放される直近までの二人にされた事は忘れていないし、思い出すだけでも腸が煮えくり返るような気分になりかけたけど……。
「うん……」
僕は黙ってその場を去って行った。
心に溜めていた事はあれども、今は言う気になれなかったから……
「ふぅう!キツかったな~!カズナはどう?」
「ほんの少しマシになった気がする!」
「そう……」
カズナさんとフルカさんは同じ病室でリハビリについて話し合っていた。
古い関係であるのもあって、気心が知れたようなやり取りだったものの、それぞれの表情に芯から明るいと言うには後ろめたさを感じさせるような空気が漂っていた。
「あの……」
「「!?」」
一つの声が聞く方にカズナさんとフルカさんは振り向いた。
「お加減はどうですか……?」
「「クルス……」」
僕だった……。
「お医者さんから伺いました。冒険者として復帰するには絶望的な大傷を負ったって……」
「聞いたわよ!今所属しているパーティーのメンバーが事件の解決に貢献したって……」
「何よ?笑いに来たの?私らはこんな状況でアンタは回復傾向にあって事件解決の功労者なんだもの!笑いたければ笑いなさいよ!」
「……」
「ちょっと、黙ってないで何とか言いなさいよ!」
二人は言いたい放題に言っていた。
だが、僕に怒りや嫌悪の気持ちは一切抱いていなかった。
「笑いません……。いや、二人を嘲笑うほどの余裕も資格も、僕にはありませんから……」
「「え……?」」
僕の言葉に二人は思わず固まった。
「ゼルナによる裏切りでドキュノさんは死んで、お二人も酷い傷を受けてしまった。結果【パワートーチャー】は壊滅。本当に辛いだろうって思います……。何より、もう冒険者に戻れなくなってしまった事実を自分が突き付けられたらって思うと、想像するのも恐くなるでしょう……」
「な、何なのよ急に……」
「二人に言います!冒険者に戻る事は叶わなくなっても、どうか人生を投げ出さないで下さい!」
僕の畏まりつつも真剣な表情に対し、カズナさんとフルカさんの顔に困惑の表情が浮かんでいた。
「分かったわよ……。リハビリが終わったら、実家に戻って家業を手伝うつもりだし……」
「カズナに同じく……」
「そうですか……」
そして僕は少し深呼吸をして……。
「でしたら僕は……。カズナさんとフルカさんの事を赦します……」
「「え……?」」
僕がそう言うと二人は固まった。
自分達を赦すなんて、僕の口から出ると思っていなかったから……。
「Cランクに上がって自惚れて以降はずっと酷い目に遭わされました。その事実は一生忘れないでしょう。でも、必要としてくれた時もあった。純粋に感謝してくれた事もあった。僕一人では行く事も叶わない場所にも連れて行ってくれた。辛い日々もあったけど、楽しくもあった……」
「「……」」
「お二人の存在を否定するのは、嫌な時も喜ばしくて楽しい時まで捨てる事になってしまうんです……。僕は前に進み続けますので、二人も立ち上がって前に進んでください!それが僕からの願いです……」
「クルス……。本当に赦してくれるの……?」
「はい……」
「キツイ仕打ちを散々しちゃったのに……?」
「もう一度言います!僕は……。カズナさんとフルカさんの事を赦します……。冒険者に戻る事は未来永劫叶わなくともどうか、過去の過ちに囚われないで、前に進んでください!それが僕から言える、何よりの願いです!」
「「……」」
カズナさんとフルカさんは下を向きながら思い返していた。
僕と出会った日の頃、一緒にモンスターを倒してクエストを達成した時の事、酒場で飲み交わした事、楽しく過ごせていた日々が彼女達の脳裏に去来した。
それから少しして……。
「クルス……。こんな事言っても遅すぎるのは分かるけど、言わせて欲しい。酷い事しちゃって、本当に……ごめんなさい……」
「本当にごめんなさい!赦してくれてありがとう!今ここで約束する!これからは本当の意味で真っ直ぐに生きていくから!」
カズナさんとフルカさんはその場で号泣した。
本当の後悔の念と償っていく決心が涙と共に流れていた。
僕は確信している。「この二人なら、きっとやり直せる」と……。
後にトーマさんも意識を取り戻してから数日後、カズナさんとフルカさんは【アテナズスピリッツ】を除名し、実家へと帰って行った。
新しい人生を再び歩んでいくための決意と覚悟を秘めながら……。
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