第72話 強くなる為に……
徐々に日常に戻りつつあります!
【ベスズプレイフル】のギルドマスターであるルチアーノさんが協力を申し出る極秘クエストとして、イントミスで密かに蔓延る闇ギルドの調査を命じられた。
様々な傷を残しながら、イントミスに迫る黒い野望を阻止した俺達だった。
イントミス出立の朝—————
「皆様、この度は我々の協力クエストを引き受け、解決に尽力していただき、本当にありがとうございます」
【ベスズプレイフル】のギルドマスターであり、俺達に協力を申し出たルチアーノさん達に見送られ、手配してくれた馬車でイントミスを発った。
カズナとフルカは療養のため、先にティリルへ戻っていた。
遺体となったドキュノは所属していた【アテナズスピリッツ】のギルドへ送られており、既に小規模ながら葬儀を執り行われたとの事だ。
「今回は長い出張みたいになってしまいましたね……」
「想像以上に大きく深い事件だったからな」
「ケインさん達も身体は大丈夫なんでしょうか?」
「【ベスズプレイフル】の『僧侶』達に【回復魔法】による応急処置や病院で治療を受けたから、俺とフィリナは概ね治って今は平気さ。ニコラスもエルニも大きな怪我はなかったしね……」
「むしろアンタ達の方が酷かったくらいだからね。セリカとミレイユは中々の重傷、クルスは胸をザックリ斬られていた上に結構危なかったし、トーマに至っては五日間も意識不明でベッドの上だったのよ。セリカ達、その間ずっと不安そうにしていたんだからね」
「その節は本当に心配をかけたな……」
「こうして回復したので、もう充分です!」
「そうですよ……」
馬車の中で今回のクエストについて振り返りながら話し合っていた。
俺達4人組の冒険者パーティー3組が出向く事になり、闇ギルドの幹部であり中心人物だったビデロスの打倒によってイントミスの平和は守られたものの、裏切者のゼルナは行方知らずのままだ。
【パワートーチャー】のドキュノは魔改造の末に死亡し、カズナとフルカは冒険者としての再起は絶望的となって、パーティーは事実上の解散となってしまった。
実際、馬車の雰囲気はお世辞にも和やかとは言えず、今回の事件を引きずっているような空気になっており、各々が思い直すような表情をしていた。
俺はこの異世界に来て初めて、身近な人間の死を目の当たりにした。
そしてそれがもしも、セリカやミレイユ、クルスらパーティーメンバーを始めとする大切な人達の誰かだったらと思うと、失いたくない気持ちが沸々と込み上げていた。
「俺……。もっと強くなるよ……」
「トーマさん?」
「今より強くなって、セリカも、ミレイユも、クルスも、大切な人達を守れるくらいに強くなって見せる!ここで約束する!」
俺はその決意を皆の前で示した。
「それを言うなら、私だって!今以上に強くなってトーマさんを支えて、皆を守れるだけの力を付けます!」
「私だって同じです!」
「僕もです!」
「皆……」
もっと強くなる決心を固めているのは、セリカ達も同じだった。
今までも時間を見つけては鍛錬をしてきた俺達だが、大切な人達を守りたい想いを胸に、一層の努力を心に誓うのだった。
へこたれる事無く向上心を見せた俺達を見て安堵しているケインさん達だった。
それから馬車に揺られて—————
「久々のティリルだな」
「僕、ちょっと懐かしい気持ちになりましたよ……」
約半月ぶりに、俺達の拠点としている街であるティリルに戻ってきた。
着くや否や冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】へと赴き、ギルドマスターであるカルヴァリオさんに結果を報告しに行った。
「皆、この度は本当に良くやってくれた。感謝すると同時にお詫び申し上げる」
「あ、頭を上げて下さい!」
「カルヴァリオさんは何も悪くないですって!」
ルチアーノさんからカルヴァリオさんへ今回のクエストの結果は全て伝わっている。
自分が所属しているギルドの冒険者が闇ギルドに魂を売っていた事を始め、ドキュノの死亡、カズナとフルカの冒険者復帰が絶望的である事、俺達が酷い怪我を負ってしまった件などを詫びていた。
「特に、ゼルナが闇ギルドと共謀していた事についてはしっかりと身元確認し切れていなかった我々に落ち度がある。今後は所属しているもしくはこのギルドを拠点にしようとしている冒険者の素行や身元の調査に力を入れると同時に、闇ギルドの出現及び闇クエストの蔓延を防ぐために尽力していく所存だ……」
「そうですか……」
カルヴァリオさんはいつになく責任を感じているようだった。
巧妙にやられたとは言え、今回の一件で自分がマスターを務めるギルドに所属する冒険者に問題があったと分かれば、その対応にナーバスとなってしまうのは明白だ。
「ですが、ロミック様もこのティリルを治めている領主として、闇ギルドや闇クエストが起きる事による被害を防ぐために活動されているとかいないとか……」
「そうだ!君達が戻って来る数日前、ロミック様がこのギルドに訪れてきたんだ」
「え?ロミック様がうちのギルドに……?」
カルヴァリオさんの発言に、俺達は硬直した。
ルチアーノさんのところだけでなく、カルヴァリオさんのところにも来たのに驚きを隠せなかった。
「今回の一件についてはもちろんの事、私がギルドマスターを務める【アテナズスピリッツ】とルチアーノがマスターを務める【ベスズプレイフル】がある土地を領主に持つロミック様からの提言で、冒険者がより安全かつ健全に活動するための一案として、ロミック様管轄の領内にある冒険者ギルドで、我々は正式な同盟を組む事になった」
「「……!?」」
カルヴァリオさんの発言に俺達は驚いた。
「ロミック様が治める領地であるのはもちろんだが、手を取り合って治安を治めたい方針を確認し合っている。闇ギルドに絡んだ話は各世界であれども、我々のギルドが絡んだのは初めてだからね。この機会にと思った次第だ……」
「カルヴァリオさん……」
「前まではギルドで請け負った依頼については必要以上の口出しはしないようにしていたが、今後は一組織だけで解決し切るのは難しい案件、特に闇ギルドに関連する事は協力し合うって決断をされた……」
「これまた大胆な……」
「他の国では積極的にやっているところはやっているが、ビュレガンセではあまりなかったからね。特に伯爵以上の貴族がメスを入れるっていうのは、かなりレアだから……」
俺達はカルヴァリオさんからロミック様と会合された内容を話してくれた。
領内にある冒険者ギルドと貴族が本格的に手を取り合うのは、ビュレガンセ国内における長い歴史の中でも結構なレアケースであると言われ、これまた驚かされた。
少なくともロミック様の領地内だったら伯爵の爵位を持った貴族の後ろ盾を得られたと言う事を意味しているのだ。
俺が驚いていると、ケインさんやカルヴァリオさんが解説してくれた。
話が大きくてまだ飲み込み切れていないが、一言でまとめると、ハイレンド伯爵家は領内の冒険者ギルドに可能な限りではあるが全力で応援しますって事だ。
「ロミック様は近隣の領主にも闇ギルドの撲滅を呼び掛けており、協力し合う姿勢を見せている貴族もいると聞かされている。今後はその貴族から指名のクエストが来る可能性も高まるから心して欲しい。もちろん、Cランク以上のパーティーにも共有する」
「承知しました」
「全力でやります」
「何にせよ、今回のクエストは本当にお疲れ様だ。引き受けてくれて感謝する。ミーナス」
「はい……」
カルヴァリオさんがそう言うと、彼の秘書であるミーナスさんが二つの革袋を持って俺達の横に立った。
「あの、これは……?」
「今回のクエストにおける報奨金だ。中にはロミック様からの謝礼金も入っている」
「え?いいんですか?こんなに……?ミスリル製の剣を一本買ってもまだ余りそうなくらいの金額ですが……」
「イントミスに迫る魔の手を振り払った功績と今後の君達を応援したいと言うロミック様からのご厚意だ。それに、想像以上に厳しい事件に巻き込んでしまったお詫びと言う意味も含めている。どうか受け取って欲しい……」
「分かりました。ではお言葉に甘えて……」
俺達はパーティー別に報奨金をもらったのだが、ヒライト家のクエストを達成した時と似たような金額でビックリした。
これなら、杖や武器を破損してしまったミレイユやクルスにいいモノを買ってやれるかもしれないって思うと、改めて嬉しくなる。
こうして俺達はギルドを後にするのだった。
「君達、この後予定とかあったりするかな?」
「新しい武器を買いに行こうと思ってます。ミレイユは杖を、クルスはロングナイフ一本が破損してしまったので……」
ケインさん達に予定を聞かれ、俺達はそのまま武器屋である『ロマンガドーン』に行こうとしている事を伝えた。
「そうか。じゃあ、俺達も同行していいかな?何か新しい武器が入ってないか確認しておきたいし、よければ欲しいモノを見繕ってあげよう!」
「それはありがたいです!」
こうしてケインさん達と同伴する形で店へ赴いた。
「いらっしゃい!おぉ、聞いたぞ!イントミスに迫った闇ギルドを潰したんだってな!」
「えぇ、まぁ……」
「今日は杖やロングナイフを探しに来まして……」
「それなら、向こうに新しいのがあるぞ!見ていくか?」
「はい!」
店主さんは鷹揚な笑顔を浮かべながら教えてくれた。
言われるがままにそこまで向かうと……。
「おー、これが新しく入荷された杖か……」
「私が前に使っていたのよりも長いのに軽い……」
ミレイユが手に持ってみると、先端の宝玉の上に翼の生えた女性が両手で囲うような形の像がついている魔石が添えられており、全体的な杖の長さは彼女の肩辺りだが、想像していた以上に軽くて持ち運びやすい感じだ。
「この杖、ミスリルも含まれていますね。それでいて上質な魔石を数種類ブレンドして作られているので、強力な魔法も打ちやすくなります。相当優秀な『錬金術師』によって生成
されたんでしょうね……」
「上級や特級を目指すならば、買った方がいいですよね……」
【ディープストライク】の『魔術師』であるニコラスさんも手に取り、見た限りでもかなり上等な杖である事が明かされた。
剣や槍などは主に『鍛冶師』が作るのに対し、杖を始めとする魔法が含まれる武具は『錬金術師』が作り上げており、その技量が高ければ高いほど強力なアイテムが作られる。
「ええとお値段は……って。280万エドル!?高ッ!」
「上等な素材を使った魔法の杖の類は基本的に高いですからね。私やエルニが今使っている杖もこれくらいはしましたよ」
「上質な材料を含めたモノって、お金かかりやすいんですよね……」
「やっぱりミスリルが入った杖ってのもあるから値段張るな~」
「……」
買うかどうか悩んでいるミレイユに目をやるクルス。
「ミレイユ。買おう!」
「クルス?でも、アンタのロングナイフはどうするの?」
「僕のは後でもいい!戦力を考えれば、ミレイユの魔法攻撃を問題なく使えるようにした方がモンスター討伐系や犯罪者始末のクエストの攻略もやりやすくなる!」
ミレイユはクルスから自分の武器を優先してもらえる発言に驚いていた。
クルスの言う事は最もであり、多くのもしくは強いモンスターや手練れのならず者とやり合うならば、攻撃力の高い魔法が使えるミレイユに万全の装備でいてもらう方が確かに効率は良い。
「本当にいいの?」
「当面は後方支援や隠密行動が中心になるけど、僕の分はまた別の機会で問題ないよ。トーマさん、これを買いましょう!」
「クルス……」
クルスの意見を聞いた俺は……
「分かった!買おう!クルス、おまえの分も必ず用意してやるからな!」
「ありがとうございます!」
こうして戦力維持やアップの為に、ミレイユへ新しい杖を買ってやる事になった。
そしてこの答えは……、すぐに出る事となった。
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