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第71話 伯爵の気概


【ベスズプレイフル】のギルドマスターであるルチアーノさんが協力を申し出る極秘クエストとして、イントミスで密かに蔓延る闇ギルドの調査を命じられた。

イントミスに迫る闇ギルドを壊滅に追い込み、俺は五日間の意識不明から目が覚め、クルスも過去のメンバーとの清算を終えたのだった。

退院日に【ベスズプレイフル】のギルドマスターの執務室にはロミック・ハイレンド伯爵が赴いていた。


「やぁ、久しぶりだね。トーマ君、皆さん」

「ロミック様!?」


そこには、かつてクエストで縁を持った子爵の爵位を持つヒライト家から誘われたパーティーで初めて出会い、ティリルやイントミスを含めた領地を治めるハイレンド家の当代当主であるロミック様が3名ほどの護衛を連れながらその場で居座っている。

爵位を持った貴族が冒険者ギルドに出向くのは相当珍しい事であるのは聞いているが、ここでロミック様が出て来るのは予想もしていなかった。

向かいにはルチアーノさん、ケインさん、俺が座り、他は立ったまま聞く姿勢だ。


「ロ、ロミック様。なぜ、こちらに……」

「イントミスは我が領地内にあるギルドだからね。今回の件で話があって出向いた次第と言う事だ……」

「な、なるほど……」


ロミック様が治める領地にはティリルだけでなく、イントミスも含まれており、今回の事件の対処に一肌脱いでいるって次第だ。

連れている護衛は4名であるが、剣士などの近接職らしき人物3名と後方支援を得意とするギフト持ち1名がおり、いずれもケインさんやフィリナさん、ニコラスさんやエルニさんクラスの実力者であるのは見て取れた。

物騒な事件が起きれば、守備や安全にも力を入れたくなるのは当然だ。


「この度は我が領内で蔓延ろうとした闇ギルドの排除を担っていただき、誠に感謝する。諸君らの働きのお陰で領内の平和をまずは取り戻せた」

「頭を上げて下さい!私達は当然の事を行ったまでです!」


ロミックが深々と頭を下げながら感謝の意を述べると、ルチアーノさんは窘めている。

自分がギルドマスターを務めて拠点にしている街の領主から頭を下げられる経験なんて、滅多にあるモノではないからだ。


「今回起きた闇ギルドの調査が想像以上に過酷で凄惨である事は私の耳に届いておる。イントミス近くの町が殆ど壊滅しかけた事も、皆様が酷い怪我を負ってしまった事も……。何より、死者を一人出してしまった事も……」

「「「……」」」


今回の事件で起きた事を思い出すような言葉に俺達は沈黙した。

ドキュノが死んでしまい、カズナとフルカが冒険者を引退せざるを得なくなってしまい、そしてゼルナと言う裏切者を出してしまった。

俺を含めて重傷者を数名出してしまった事も、心に影を落としてしまったようだ。


「皆様には感謝の気持ちを抱いている共に、申し訳なく思っている。これも私の監督や運営が至らなかったばかりだ。だが、ここで約束させて欲しい事がある」


ロミック様はビュレガンセの各領主からも「名領主」と呼ばれ、侯爵や辺境伯爵の爵位だって狙えるほどに有能な人格者と言われている。

だからこそ、責任を感じてしまっているのだろう……。

俺達や後に控える護衛達も切なく見ていた。


「これからは今回の一件を猛省して、闇ギルドが蔓延る事が起きないための全面的な支援をしていく事を約束する!」

「「「!?」」」


ロミック様がそう言うと、俺達は驚いた。

確かにロミック様が治める領内に冒険者ギルドは【アテナズスピリッツ】や【ベスズプレイフル】の2種類があり、その領内でクエストが起きる事は珍しい話ではない。

だが、貴族がここまで全面的な援助をやると表明していく事例はほとんどなく、ビュレガンセ王国の貴族でもレアケースだ。


「お気持ちは非常に有難く思いますが、そこまで……」

「もちろん、我々が先導となっていきながら、協力をしていただける近隣の領主にも協力を呼びかけ、冒険者ギルドとの連携をしていけるように取り計らう!これからは、我が領内を起点とし、ビュレガンセ国内で闇ギルドによる犯罪を根絶していき、より良い生活が実現できるように努めていく所存だ!」

「ロミック様……」


ロミック様の決意と覚悟は本物だ。

自分の領内で起きた事だからスルーしてしまうような人ではないものの、ここまで努力していく姿勢を見せてくれるのは思わなかった。


「ロミック様……。あなたの決意と覚悟、しかと受け取りました。【ベスズプレイフル】のギルドマスターであるルチアーノ・エルロン、私もその使命に協力する所存でございます!」

「ルチアーノ殿……。感謝する!」


こうして話は纏まり、領民の代表達が協力体制を見せていく表明を見せるのだった。

ロミック様の意向で、闇ギルドや闇クエストの根絶を目指すための政策を打っていくために動いていく事になった。

そして夕方、ロミック様はイントミスを発つ時間になった。


「見送りまで来ていただけて感謝するよ」

「いえ、滅相もございません。この度はありがとうございます」


ロミック様に対し、俺達は最敬礼のお辞儀をした。

これからも領地の安寧や平和のために粉骨砕身の努力をしようとするロミック様に敬意を表し、その門出を見届ける意味もあったからだ。


「私こそ、この度は本当にありがとう。皆の働きと功績、決して忘れない!そして、それらに報いる事ができるよう、私も努めていく!」


ロミック様はそう言うと、俺達は斜め45度の最敬礼をしながら、元いた場所へ帰ろうとする馬車を見えなくなるまで見送った。

夜も遅くなった俺達はクエストでお世話になっているホテルの部屋に戻った。


「明日でこのイントミスとお別れか……」

「短いようで長かったような気がしますね」

「いや、滞在時間は長い方だったでしょ。皆の、特にトーマさんの入院期間を含めれば中々の長期滞在なはずだけど……」

「同感です!」

「五日間も意識不明になったなんて、言われてもあんまり実感ないのも確かだしな……」


俺の体調もほとんど回復したのもあって、イントミスで過ごすのは今日が最後になった。

ルチアーノさんのご厚意で、調査中に助けたイズノさんが中心のショーを見せてもらえる流れになり、俺達はそれを楽しんだ。

看板パフォーマーと言われるだけあって、イズノさんは一際輝いていた。

自分の全てを表現せんばかりに活き活きと華麗に踊る彼女は正にスターに見えた。

それからはケインさん達とも酒場で食事をした。

今回の事件について全てとは言えないが、良い気分転換になったのも事実であり、また頑張ろうと言う気持ちにさせてくれた。


「ティリルに戻ったら、考えなきゃいけない事が結構あるな……」

「そうですね。受けるクエストはともかく、ミレイユの杖やクルスのロングナイフも一本破損してしまったので、買い替えないと……」

「杖はやっぱり、欲しいわね……」

「僕は……そこまで良いモノじゃなくても構いません」


魔改造されたドキュノとの死闘で、ミレイユは杖を、クルスは鋼のロングナイフ一本をそれぞれ修復不能なほどに破壊されてしまった。

協力クエストの報酬で各パーティーに支給してもらえるものの、これで武具を新調するにもまたお金がかさんでしまう。

ミレイユやクルスは上等な素材でできた武具じゃなくていいと言っていたものの、想像以上に大変だったクエストを頑張ってくれたので、願わくば良いモノを買ってあげたい。


「トーマさんが入院している間、イントミスの武器屋を回ってみましたけど、やっぱりティリルの『ロマンガドーン』の方が馴染むモノを見つけやすいと思うので、そこで探そうと考えています」

「そうなのか……?」

「ミレイユが探そうとしている杖もそっちの方が見つけやすいからありですよ!」

「あそこは冒険者向けの武器が結構揃っているからね」

「イントミスの武器屋も品揃えは悪くないんですけど、やっぱりティリルで買い揃えるのが賢明かと……」


イントミスにも剣や盾などの武具はきちんと取り揃えられているものの、全てがそうではなく、半分近くは楽器やパフォーマンスに必要な道具だったため、これだと思う杖やロングナイフは見つからなかったらしく、結局ティリルで買う事にすると決めたようだ。


「そうだな、明日はギルドに出向いてケインさん達と一緒に今回のクエストについて報告しないといけないしな!ミレイユとクルスの使う武具についてはその後考えよう!」

「「ハイ!」」


明日にはティリルに戻るため、俺達は睡眠を取って床に着いたのだった。





同時刻、とある深い地下の空洞——————


「まさか、ビデロスがBランク冒険者如きに敗れるとはね……」

「えぇ、我が弟の不始末によって計画に支障を及ぼす事になってしまい、誠に申し訳ございませんでした」

「いいわ、魔改造したドキュノと言う男のデータや結果を基に、これからの取り纏めは大変になるでしょうけどお願いするわ。ギグロス……」

「ハッ!」


玉座のように立派だが古くも闇深さを感じさせる椅子に座っているのは、闇ギルドの幹部であるビデロスの上司にして胴元であったバスディナ・ドゥルーズだ。

深淵を思わせる濃い黒髪に紫が混じった腰より伸びたロングヘアーと暗い世界に引き込むような落ち着いた声にミステリアスな雰囲気を纏い、黒を基調にした煽情的なドレスに身を包み、冷たい雪のような白い肌に妖しく輝く緋色の瞳をしているあまりにも美しい女性でありながら、内に秘めている漆黒の気配は尋常じゃない不気味さだ。


「そうそう、ギグロス。私に積極的に協力してくれる素晴らしい仲間ができたから紹介させてもらいたいわ……」

「はい。どのような方で……」

「慌てないで……。さぁ、いらっしゃい……。私の新しい同志……」


バスディナがそう言うと、奥から身体を黒いマントで身を包んだ女性が現れた。


「新たな同士……。ゼルナ・ドゥーチェよ……」

「初めまして。バスディナ様直属の部下をお目にかかる事ができて光栄に存じます」


【アテナズスピリッツ】を裏切り、自身の目的や欲求のためにドキュノを魔改造して俺達に危害を及ぼしたゼルナだった。


「我が野望を成し遂げるためのキーパーソンよ。仲良くしてあげなさい」

「ハッ!」


バスディナがそう言うと、ギデロスは迷う事無く同意した。


「各国に我が野望のために暗躍している幹部は直に集まる。その時こそ、本当の始動よ」


バスディナは立ち上がり、両手を高々に広げており、ギグロスとゼルナはそれを見つめる。

そして黒い波動が周囲に広がった。


「その過程まで楽しみましょう!世界を絶望に染めるその糧も含めてね……」


その表情は狂気と野心が確かに滲み出るモノだった……。




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