第70話 戦いが終わって……
激しい闘いの後の話です。
頭の中でイメージしながらご覧になれば幸いです。
【ベスズプレイフル】のギルドマスターであるルチアーノさんが協力を申し出る極秘クエストとして、イントミスで密かに蔓延る闇ギルドの調査を命じられた。
そして闇ギルドの幹部であるビデロス、裏切者の魔女であるゼルナによって魔改造されたドキュノとの死闘に発展した。ケインさんはフィリナさん協力の下で命辛々にビデロスを倒し、俺はドキュノとの戦いを制してその死に様を見届けた。
闇ギルドとの死闘から5日間、慌しい日々が続いていた。
【ベスズプレイフル】に所属する冒険者達主導の下で、闇ギルドの証拠集めと事件の後始末を担っていた。
闇ギルドの本拠地となっていた地下洞には、闇クエストを依頼した多くの証拠や取引の記録が残されており、関わっていた犯罪者の検挙が駐屯している国管轄の衛兵部隊協力の下で行われ、検挙していく日が続いた。
ビデロスがメインで仕切っており、当の本人は死んでしまった事で、少なくともイントミスやその周辺の地域で闇クエストが蔓延る心配はほとんどない状況となった。
そしてビデロスと繋がりのあったゼルナは行方を晦ましたのもあって、籍を置いていた【アテナズスピリッツ】のギルドマスターであるカルヴァリオさんの意向で世界中に点在するギルドに今回の一件を共有した。
これに伴い、ゼルナはギルドから強制除名と共に、世界中で指名手配される事になった。
そして……
「うぅ……」
俺は朧気にベッドの上で首を少し動かしながら状況を見回した。
病院のような場所である事はすぐに理解できた。
そして、自分が酷い怪我をしている事も……。
「目が覚めたんですね!良かった!」
「看護師さん……」
(俺、ドキュノとやり合って生き延びたんだな。そして、アイツの死に様も見届けたんだな)
瞬間的に俺は覚えている記憶を掘り起こした。
魔改造されたドキュノと戦った事、【ソードオブハート】を限界以上に使用した事、そしてドキュノの死に様を見届けた事を中心に思い出した。
聞いた話だと、ドキュノが死んでいった様相を見届けた後に俺は意識を失い、ダメージや疲労に加えて、状態異常でかなり危ない状況になっていた。
【ソードオブハート】を過剰に使用した事による精神力の摩耗と傷を負いながら戦闘したダメージが特に酷かったとの事だ。
【ベスズプレイフル】に所属する『僧侶』の【回復魔法】による応急処置と病院に詰めている専門の医者による治療で何とか助かったと聞かされた。
全員が治療を受け、セリカとミレイユ、ニコラスさんとエルニさんは一日ほど入院していた。
ケインさんとフィリナさんはビデロスとの死闘で受けたダメージが相当残っていたのもあって、意識不明な状態が二日続いたが、後に回復していた。
クルスもかなり重傷であったが、意識を取り戻していた。
そして俺についてだが、五日間も意識不明だったと聞かされた。
思い出した事や聞かされた事を考えていると……
「「「トーマさん!」」」
「!?」
俺がいる病室にセリカとミレイユ、クルスが飛び込んで来た。
そこにはニコラスさんとエルニさん、まだ包帯や湿布をあちこちに付けているケインさんやフィリナさんもいた。
「セリカ達、ずっと心配してたよ」
「皆……」
セリカとミレイユは俺に抱き着いてきた。
「良かった……。トーマさん。目を覚ましてくれて……」
「嬉しいです……。生きていてくれて……」
「……」
俺にしがみ付いてきたセリカとミレイユは号泣しており、クルスは涙目だった。
「セリカ、ミレイユ、クルス……」
俺はそれぞれの顔に目を見やった。
「今まで心配でした。本当に良かった……。うぅ……」
「このままトーマさんが目を空けなかったらって思うと、自分じゃどうしようも……」
セリカとミレイユは俺が意識を失っている時は毎日のように見舞いに来てくれては、不安でいっぱいの気持ちでいたとの事だ。
気付けば、俺が今着ている入院用の服はセリカとミレイユの涙で濡れていた。
「トーマさん……生きていて何よりです……」
クルスの目からも涙が零れていた。
もしもあの現場で援護してくれなかったら、こうして生きている保証も無かった。
クルスには本当に感謝しかなかった。
「皆、心配かけてごめんな……。けど、帰ってきたよ……」
「「うわ~~ん!」」
「……」
俺の言葉を聞いて、セリカとミレイユは声を挙げて泣いていた。
クルスも涙を流している自分の顔を拭い続けていた。
ケインさんとニコラスさんは優しく見守り、フィリナさんとエルニさんも泣きそうだった。
何にしても、生きて戻ってこられた。
「お加減はどうです?トーマさん」
「ルチアーノさん」
少しして、【ベスズプレイフル】のギルドマスターであり、俺達に協力を求めたルチアーノさんがお見舞いに来てくれた。
「【アテナズスピリッツ】から派遣されている冒険者の皆様がいるので、申し上げたい事があります。この度は私の協力クエストを引き受けていただき、本当に感謝しています。それと同時に、激しい戦いに巻き込んでしまった事を心よりお詫び申し上げます」
ルチアーノさんはそう言って頭を下げた。
俺達はそれを何も言う事無く見つめている。
「頭を上げて下さい!ゼルナの裏切りについては、見抜く事もできなかった我々にも非があります。ルチアーノさん一人の責任ではございません」
「そうですよ!私達もリスクを承知の上で今回の協力クエストに参加しました。どうか自分を責めないで下さい!」
ケインさんとフィリナさんが必死に窘めるが、ルチアーノさんの表情からは憂いが消えそうにない状態だ。
普段は快活なルチアーノさんだが、責任感は強い人だから、もしかしたらギルドマスターを辞任する覚悟だって固めているかもしれない。
「ルチアーノさん、俺からも一言よろしいでしょうか?」
「何でしょうか?トーマさん……」
「俺が五日間も意識不明になるような重傷を負ってしまいましたけど、このクエストに参加した事を後悔なんて微塵もしておりません。ですから……、ルチアーノさんが自分を責める事は、もう止めて欲しいのです。きっと今も、ルチアーノさんがギルドマスターでいる事や、街の中心でいて欲しいと願う人達は沢山いるはずです」
俺は自分の気持ちを伝えた。
「トーマさん……、ありがとうございます。少しだけ、救われました」
ルチアーノさんに笑顔が戻っていた。
俺が意識を取り戻す前からケインさん達の提案で、【ベスズプレイフル】に所属する冒険者達やイントミスの民間人達に「ルチアーノさんにギルドマスターでいて欲しいか?」について行動を起こしていた。
結果はほとんど満場一致で賛成の意見をもらう事ができ、ギルドマスターを続投する事が叶った。
これもルチアーノさんの人望やケインさん達の行動あっての結果だ。
「俺はもう二~三日して、問題なかったら退院だって、医者に言われた」
「そうですか。何にしても快方に向かって良かったです」
「応急処置の【回復魔法】で傷は大体直してくれたお陰ですね!」
「そうだな」
セリカとミレイユはすっかり回復しており、俺も順調に良くなっている。
俺も【回復魔法LV.1】は使えるけど、本職と比べても見劣りしてしまうし、よくても時間をかけて骨折を直すのが関の山だ。
俺ももっと成長していかなきゃと思うのと同時に、回復や支援を得意とする仲間を探していいかなとも考えていた。
「トーマさん……」
「ん?クルスか?」
「お水を用意してきましたが、飲みますか?」
「ありがとう。頂くよ」
クルスが飲み水の入ったグラスを用意してくれた。
心なしか、クルスの表情にも明るさが戻りつつある。
「カズナとフルカの二人とは話ができた感じかな?」
「はい……」
クルスは先ほど、元メンバーだったカズナとフルカの二人に会って話をしていた。
ドキュノを助け出すために踏み込み過ぎた結果、闇ギルドの幹部であるビデロスに襲われて酷い傷とダメージを負ってしまった。
エルニさんの【回復魔法】のお陰で傷自体は治り、数日安静にすれば退院できるとの事だが、それだけでは終わらなかった。
「医者からも確認しました。お二人は……もう冒険者に戻る事はほぼ無理だって……」
「「「……」」」
それを聞いて俺だけじゃなく、隣にいるセリカとミレイユも沈黙した。
カズナはビデロスに左腕と右脚を欠損こそしなかったがかなり深く斬られてしまい、特に左腕は肩の腱まで届いてしまったため、活発に動かす事ができなくなったそうだ。
フルカは背中を斬られてしまった時に脊髄の一部をやられてしまい、その上カズナを背負って逃げるために無理をして走った事もあって余計にダメージを重ねてしまっていた。
それによって左脚に強い痺れが残ってしまい、リハビリ次第では日常生活には戻れるものの、スピードやテクニックが自慢であり要になる『軽戦士』として冒険へ出るには致命的となってしまった。
ドキュノは死亡し、ゼルナは裏切者として指名手配されて逃走した事で、【パワートーチャー】は実質解散となった。
クルスにした仕打ちを考えれば自業自得であるのは確かだが、巻き込まれたカズナとフルカの二人は可哀そうと思う気持ちも抱いていた。
「さっき、二人から謝罪されたんですよ……」
「え?」
「二人共……。涙ながらに僕へ……」
遅すぎたと思うけど、自分の過ちについて理解できたのかなと思っていた。
そして、クルスにした事も……。
「だから僕も決めたんです。いつまでも因縁を引きずるのは止めようって……。カズナさんとフルカさんを赦そうって……」
「そうか……」
クルスの決断に俺達はそれ以上言わなかった。
酷い事をしたはずの相手を赦すのは、一生憎むよりも遥かに難しく、生半可な気持ちで決められる事ではない。
だが、今のカズナのフルカの状況と冒険者としての道が断たれてしまった現状を思うと、もういたずらに責める気にも、嘲笑う気にもならなかったのだろう。
何より、基本的に謙虚で穏やかでありながら、内には強い芯を持っているクルスがよく考えて決めたことならば、あれこれ言う方が野暮な話だ。
「お前がそう決めた事ならば、俺は何も言わないよ。ただ、何かあった時には相談してくれよな!」
「はい!もちろんです!」
クルスは過去に清算を付ける事ができたようでホッとした。
そうして数日が過ぎていった。
「トーマさん、退院おめでとうございます!」
「ルチアーノさん。ありがとうございます」
俺はルチアーノさんやケインさんらに出迎えられて、退院を祝ってもらえた。
本当に嬉しくて心が暖かくなる。
「それでトーマさんやケインさんらに会って欲しい方がいるのです」
「「??」」
俺はルチアーノさんに言われるがままに、ギルドへ赴いた。
そしてギルドマスターの執務室へと案内された。
「お連れしました」
「!!??」
俺達はその人物を見て驚きを隠せなかった。
「やぁ、久方ぶりだね」
ギルドマスターの執務室には、以前に出会った事があるロミック・ハイレンド伯爵が赴いていた。
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