第68話 それぞれの死闘⑤
闇ギルド編、クライマックスです!
闇ギルドの幹部であるビデロスがケインさん達【ディープストライク】、裏切者のゼルナによる魔改造されたドキュノは俺達【トラストフォース】がそれぞれ戦っている。
ケインとフィリナの活躍で、闇ギルドの幹部であるビデロスを撃破する。
そして俺とドキュノとの死闘は決着が見えていた。
「ギョオオォォ!」
「ウオオォォォ!」
俺は【ソードオブハート】を発動させて凄まじい斬り合いに雪崩れ込んでいた。
しかし、2分近く撃ち合っていると、ドキュノの槍による攻撃でめまいや痛みの状態異常を受けてしまっており、早期決着を狙っている。
「【剣戟LV.1】『斬鉄剣』!」
「グゥウウウ!」
【ソードオブハート】でパワーアップした俺の『斬鉄剣』はドキュノの胸を切り裂いた。
まだ倒れないが、戦況は互角に持ち込めている。
しかし、体力や精神力の消耗が激しいため、長期戦になればそれこそお終いだ。
焦らないようにしつつも撃ち合いながら機会を待つのは相当面倒な事だ。
それでも、倒れるわけには、敗けるわけにはいかない。
「ガアァアア!」
「ハァ!」
「グアァ!」
ドキュノの突きを躱して、今度は脇腹を切り裂いた。
魔改造されたドキュノのパワーとスピードは平時の時よりも遥かに上がっているが、【ソードオブハート】を発動している俺は五分の状況に持ち込めている。
どこかで一発、大きいのを浴びせないと……。
その時だった。
「ぐっ……」
(ヤバい、めまいが……)
【ソードオブハート】の使用による疲労もそうだが、状態異常が付与されたドキュノの斬撃による状態異常の影響で、一瞬だけ強い酩酊感に襲われた。
「ウアァアアアア!」
「グッ」
ドキュノが衝撃波を纏った槍を振るい、俺は剣で防御するも、何メートルか後退させられた。
同時に俺は斜め一閃に斬り裂かれ、土煙まで巻き上がった。
身体が警笛を鳴らし始めている。
これ以上使えばどうなるか分からない……。
だが……。
「俺は、皆の想いと命を背負っている!絶対に諦めねえ!生きて帰ってみせる!そのためにお前を倒す!」
俺は再び奮起して立ち上がる。
ドキュノに対して決意を込めた表情を向けた、正にその時だった……。
「ゴガアァァア!」
ドキュノは怒りのままに槍を頭上で高速に振り回し始めている。
恐らく今までで一番強力な攻撃を仕掛けてくると直感した。
正直、【ソードオブハート】を発動した状態の俺が今持っているスキルを使っても何とかできる保証はない。
それでも生き残る気概は消えていない。
勝って、生きて戻る……。
そう思って俺は剣を構えた時だった……。
「‼‼」
「死ねーーーー!」
グサッ!
「「!!?」」
ドキュノが槍を振り下ろそうとした瞬間だった……。
ドキュノは自分の背中に灼熱を浴びたような感覚に襲われた。
「ガアァ!て、てめぇ……」
「……」
これまで、まともな言葉を発してこなかったドキュノが初めて、人間らしくも屈辱に塗れたような表情をしていた。
巻き上がった煙が晴れ、俺とドキュノはその元となった存在を初めて知って驚愕した。
「「ク、クルス……」」
ドキュノの背後から刃を突き立てていたのは、ドキュノとかつて同じメンバーであり、俺と今同じパーティーに所属している『シーフ』、クルス・ロッケル本人だ。
クルスの表情には、普段の穏やかで一歩引いたように謙虚な振る舞いとは全く違う、モンスター、いや、人の命を刈り取らんばかりの怒りや冷徹さを同時に秘めたようなモノであり、その時のクルスは【気配遮断LV.2】を伴う見事な不意打ちだった。
「クルス、お前何で……?」
「トーマさん!助けに来ました!」
そう言ったクルスの表情は、覚悟を決め切ったような様相をしていた。
クルスの名前を聞き、その顔を見たドキュノの表情は一気に強張った。
「クーールーースーー!」
「ガァアア!」
ドキュノは自分よりも下と思っていたはずの存在が、刃を突き立てている状況を否定するために振り切らんばかりに激昂しながら槍を振るった。
クルスは刺したロングナイフ二本で咄嗟に防御しながら半歩身を引くも、勢いに負けて後ろに吹き飛ばされると共に袈裟切りを受けてしまった。
僅かにだが、内臓に届いているかもしれない傷だった。
そして、金属製のロングナイフはものの見事に粉々となってしまった。
「オォオオオオオ!」
「グッ!?」
ドキュノの突き出した槍は、クルスを貫こうとした。
「やらせねえぇええ!」
「ガアアァ!」
「ウゥウ!」
「グア!」
俺は無意識にドキュノへ剣を振るい、その背中を切り裂いた。
ドキュノは気付いて咄嗟に身体を捩じり、切っ先を俺に向けて突きを放とうとしていた。
クルスは持っているもう一本のロングナイフを投げ付けてドキュノの腹に命中させる。
しかし、ドキュノは構う事無く黒く悍ましい魔力を交えた一撃を放つ。
「アァアアアアーー!」
「!?」
ドキュノが不安定気味にブレながら放つ槍の刺突に対し、俺は勢いを付けながら身を回して突っ込み、胸と脇腹と両腕に大きな傷を負いながら、懐に潜り込んだ。
「【剣戟LV.2】『地雷斬』!」
「ゴバアァアアアアア!」
咄嗟に会得と構想を生み出した【剣戟LV.2】による渾身の一撃は、魔改造によって禍々しくも轟轟しい魔人の如き姿と化したドキュノの身体を、斜めに切り裂いた。
俺の周りを纏う光が消えかかる……。
「絶対に勝つ!」
「ギャアァァァーー!」
俺は力の一滴までを振り絞り、渾身の斬り上げをドキュノに浴びせた。
その手から槍が数メートル先まで吹き飛んだ。
それと同時に【ソードオブハート】が切れてしまい、俺は膝を付いた。
ドキュノは力なく仰向けに倒れ伏し、煙のような黒い瘴気が天へと昇っていった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「トーマさん!」
「クルス……お前……」
「いてもたってもいられずに来ました」
今にも倒れそうな俺の下にクルスが身体を押すように歩み寄る。
俺とクルスは外傷用のポーションが染み込んだ布を脇腹や胸に当てた。
そして二人で倒れるドキュノに目をやり、最早動けず、魔改造された身体から黒い煙が空へ消えていく姿を見ていた。
「う……う……」
「ドキュノさん……?」
クルスがしばらくドキュノの姿を見ていると、黒い瘴気が上るに比例して、その身体に刻まれた赤黒い肌は徐々に白くなっていった。
そして掠れた声が聞こえてくる。
(俺……。死ぬのか……?)




