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第67話 それぞれの死闘④

二つの死闘の内一つが決着を迎えます!


闇ギルドの幹部であるビデロスがケインさん達【ディープストライク】、裏切者のゼルナによる魔改造されたドキュノは俺達【トラストフォース】がそれぞれ戦っている。

そしてそれぞれの戦いは、佳境へと向かっていく。


「はあぁ……。エルニの【支援魔法】なしじゃ、とっくに終わってるんじゃない?」

「そう思いたくはないが、そう思わざるを得ないかもな……」


Bランクパーティーである【ディープストライク】の古参メンバーであるケインさんとフィリナさんは、傷だらけになりながらも当たり前のようなやり取りを交わしていた。

この二人はギルドや国内でも高い実力を持っていると信頼させるBランクの冒険者であり、実際にそれ相応の実力を持っている。

だが、その表情は絶望こそしていないが、深刻そのものだ。


「禁呪を使ったパワーアップがこれほど恐ろしいとはね……」


ケインさんとフィリナさんの前には、ターゲットとして追っていた闇ギルドの幹部であるビデロスであり、背中には黒い翼と口元には仰々しい牙が生えており、体表も薄い黒に染まっていると言う、最早人間離れの様相になっている。


「これが我々の追及している力だ。欲しくなっただろう?」


ビデロスは高らかに言い放っており、その様に品性も知性も何一つない純粋な高慢さんがただひたすらに映っていた。


「そんな気はないね……」

「あぁ、全くその通りだ!」

「何?」

「こんな下らない姿になってまで得る力なんていらないわ。そんな姿じゃ強くはなっても男にそっぽ向かれそうで嫌だもの」

「悪魔に魂を売ってしまうくらいなら、ここで果てる方がマシだ」


「「そんなクソみたいな力なんぞ、クソ食らえだ!」」


しかし、ケインさんとフィリナさんが返す言葉は、ビデロスの思っていた事とは真反対のモノであった。


「ふざけるなあぁ!我々の思想を、俺の力を、卑下してくれるなあぁーーー!」


同時にそれが、ビデロスのあるのか無いのか分からないようなプライドを刺激させた。

そして、ケインさんとフィリナさんは再び闘志を燃やすのだった。




「はあぁ……はあぁ……。トーマさん」


クルスは俺とドキュノが戦う戦場へと駆け出していた。

今正に激しい戦闘が繰り広げられており、不用心に立ち入る事は自分の命を危険に晒す可能性は非常に高い。


「僕にしかできない事が必ずあるはずだ……」


それでもクルスは危ない橋を渡る選択を選ぶのだった。


ガキイィーーン!


「!?……あそこだ!」


高く鳴り響いた金属音を聞いたクルスは急いでその方角へ向かっていった。

自分を救い上げ、導いてくれた恩人のために……




「ガアァァァ!」

「ウオォォ!」


俺はドキュノと斬り合っていた。

俺は剣であるのに対し、ドキュノが握っている槍は柄も刃も漆黒に塗られ、派手さはあるが、禍々しさをこれでもかと感じさせるほどだった。

ドキュノが握っている槍は剣よりもリーチがあるために間合いが広く、手を伸ばしても届かない距離で釘付けに出来るメリットもある。

加えて剣のような両刃状であるため、横薙ぎでもその威力を発揮し、加えて黒い衝撃のようなモノまで飛ばしてくるから厄介だった。


「ウルアァ!」

「ギイィ!」


それでも俺は付いて来れている。

【脚力強化】による機動力重視の戦法で高速で振り回す槍を縦横無尽に振り回して捌けている。

槍を扱うモンスターである“フィッシャーナイト”に比べればパワーでは今のドキュノがずっと上だが、戦い方がほぼそっくりだった。

加えてあの時は鋼の剣だったが、今はミスリル製の剣で戦っている。

鋼よりも美しい銀色の輝きを見せながら、それでいて頑丈で軽く、魔力を流せばその輝きと強度は上がっていく。


「【腕力強化】&【剣戟LV.1】『斬鉄剣』!」

「グガッ!」

「オラッ!」

「ガアァ!」


俺は思い切り踏み込んで強烈な横薙ぎを浴びせ、ドキュノが受け止めた瞬間に後ろ回し蹴りをその腹に叩き込んで吹き飛ばす。

決定打ではないが、ダメージを少しずつ重ねていった。


「ギィアァァーー!」

(まるで暴走じゃねえか……いや……)


ドキュノは雄叫びと共に槍を振るい、その身体から黒い魔力を噴き出していった。

先ほどの爆発を引き起こすのではなく、動物を狩るための構えだった。

俺は再び剣を青眼に構えた。


「ガアァァァ!」


疾風のような速さでドキュノは槍を向けて突っ込み、俺は必死で捉えようとする。


「ラアァ!」

「ぐう!」

(重い!)


速いうえに途中で刃が飛んで来る槍の振るい方に、俺の表情が曇る。

そこからは俺が防戦一方になってしまった。

ここに来てドキュノの集中力が上がってきている。

そして俺の身体は徐々に皮を切り裂かれるようになっていき、傷が増えてきた。


「ラァァ!」

「ぐううぅぅ!」


続いて強烈な突きを剣で受け止めるも、衝撃で吹き飛ばされてしまう。

立ち上がろうとしたが……。


「……?」

(何だ、このめまいは……)


俺は不意に酩酊してしまったような感覚に襲われた。

大きなダメージを負ったわけでもないのにこうなる理由は察しが付いた。


「まさか、状態異常って奴か?」


そう、ドキュノによって俺の上半身を中心に細かい傷を受けてしまった事が原因だった。

魔改造された相手の攻撃を受けたら状態異常になるのかと思い、汗が噴き出す。

そして黒くも明るい方向に目をやり、咄嗟に剣を構える。


ガギイィン!!


「ガオオー!」

「ぐおっ!」


ドキュノの握る槍に付いている刃には黒い魔力が纏っており、辛うじて防ぐも、またもや吹き飛ばされて頬を切られてしまう。

いよいよ本格的にヤバい展開となってきた。

一方のドキュノは俺と比べれば少し斬られ、腹を蹴られた分のダメージで済んでいる。

もう、腹を括るしかないな……


(使うならここ以外ねぇえ!頼む!コイツを倒すまで持ち堪えてくれよ!俺の身体!)

「【ソードオブハート】!」

「ウオオォォォー!」


俺は今使える一番強い自己強化スキル【ソードオブハート】を発動させてドキュノに突っ込んでいく。

そして強烈な横薙ぎを浴びせ、ドキュノは防御するも、体勢を崩した所で剣を振り上げて切り裂き、初めて有効打を浴びせる。

すぐに鍔迫り合いになり、距離を取った瞬間に俺は至近距離にしていく。

そこから凄まじい攻防が繰り広げられていく。

【ソードオブハート】の長時間の使用は下手をすれば俺の命にもかかわってくる。

だからこそ、特攻同然で距離を詰めては斬撃を浴びせていく。


「ゴオオォォ!」

「ハアァァ!」


勝って生き残るか、敗けて死ぬか。俺とドキュノの戦いは、終止符へと急加速していく。





「ぜぇ……ぜぇ……」

「はぁ……はぁ……」

「ゴフッ」

「いいぞ、貴様ら……最高だ……」


別の場所にて、ケインさんとフィリナさんはビデロスとの戦闘が続いている。

三人共ボロボロになっているが、ビデロスの表情に凄みは消えていなかった。

一方のケインさんとフィリナさんはほぼ満身創痍であり、強力なのをもらったら死ぬ可能性が高い状況だった。


「ただの人間にしてはよく頑張った。だが、これで終わりだ……」

(トドメを刺しに来たな……)

(私達もそうだけど、ビデロスも勝負に出るってわけね……)


ビデロスが高々に剣を振り上げると、その刃に魔力が集中し始めているのを感じ取り、切り札を放って来る事を直感したケインさんとフィリナさん。

同時にここが勝負どころとも捉えていた。

そしてケインさんとフィリナさんの目が見開く!


「受けるがいい!【暗黒剣戟LV.3】『ダーククライシス』!」

((来た!))


ビデロスは剣を勢いよく振り下ろし、黒く禍々しいエネルギーを放出した。

その衝撃は猛然と襲い掛かってきている。


「フィリナ!」

「OK!」


するとフィリナさんはケインさんの前に立ち、両腕を脱力させながら深呼吸をした。

そしてそのはめられている手甲に力が籠る。


「【武術LV.3】&【風魔法LV.2】『反骨合気・巨壁』!」

「ぐうぅぅぅ!」


フィリナさんの両手には風が圧縮されているかのように魔力が集中しており、強烈な衝撃波を止めて見せた。

そして、その一瞬で……。


「ヤアアァァ!」


鎖されたドアを強引に開ける要領で、縦二つに割れた衝撃波は空へと飛んでいった。

同時にフィリナさんは長い髪を束ねていたポニーテールが解けながら片膝を付いた。


「何ッ!」

「【剣戟LV.2】『虚空号突』!」


ビデロスが双眸に捉えたのは、衝撃波を押し退けながら速く強烈な突きを見せるケインさんの姿だった。

衝撃波の中を突っ込むと言う意識していないシチュエーションにビデロスの表情が初めて崩れた。


「もらったーーーー!」

「チイイィィィッ!」


ケインさんの突き出した剣は狙った胸に数ミリ刺さり致命傷に至る寸前で、ビデロスは大きく回転して辛うじてずらした。

すると……。


「逃がしはしない!」

「な……?」

「ハアァァ!」

「ぐあ!」


ケインさんは軋む身体を鼓舞しながら身体と腕を強引に捩じり、左腕一本で振り抜き、ビデロスの胸を切り裂いた。

死にこそしていないビデロスも中々の深手を負ってしまい、その表情に怒りが籠っていた。


「ただの人間如きに、この俺が敗けてなるモノかーーー!」

「く……」


ビデロスは傷付いたプライドによる怒りをそのままに、ケインの胴体を切り裂かんばかりに剣を振ろうとした。


ドシュッ!


するとビデロスの顔には冷たい何かをぶつけられたような表情に変わり、左脇腹にその違和感を感じ取った。

その方向に視線をやると……。


「まだ、私がいる!」


ミスリルのロングナイフでビデロスを背後から斬り裂いたフィリナさんがいた。

ケインさんのサブウエポンであるロングナイフは彼が突っ込む直前、意図的に落としておいたと同時に、フィリナさんは残った力と気力で【脚力強化】と【気配遮断LV.1】でビデロスの背後に回っていたのだ。


「があ……」


ビデロスが一瞬感じた激痛によって剣の軌道が僅かにズレてしまい、ケインさんは頬を切られたが、止まらなかった。

そしてケインさんは剣を振り上げた。


「【剣戟LV.3】『疾空双斬』!」

「ギャアァァァーー!」


一呼吸で繰り出された魔力を纏った速く鋭い2つの斬撃は、ビデロスの動脈と胸を見事に切り裂いた。

そしてビデロスは仰向けに倒れ伏した。

フィリナさんはふらつきながらも、膝を付いているケインさんの下へ駆け寄る。

ケインさんの身体は傷だらけであり、フィリナさんも同様だった。

エルニさんから受けた【支援魔法】がなければ、勝つどころか、勝負になっていたかも怪しい状況だったが、それでもケインさんとフィリナさんはビデロスを打ち負かした。

そして役目を終えたかのように、【支援魔法】の効果が消えるのだった。


「奴は……」

「まだ、生きてるわね……」


ビデロスは既に虫の息であるが、仲間が出てくる前に始末せんと身体を起こすケインさんとフィリナさん。


「フフフハハ……」

「「!?」」


ビデロスは大の字に倒れながらも、力なく笑っていた。


「まさか黒魔術で強化されたこの俺が、人間如きに負けるとは……、笑えるな……」

「貴様……」


ケインさんはビデロスの下に近付こうとしている。

だが、ビデロスは抵抗しようとする様子もなかった。


「あの方の野望を成就させるためには一定の犠牲が必要なのは理解しているつもりだが、どうやら俺もその一人になったようだな……」

「野望だと!?」

「究極の暗黒騎士団を作るのはあの方の野望に必要な一つの要素なのだ。ドキュノの方が終わればコマの一つに加わるだろう……。俺がここで死ぬ事がなければ、俺はその騎士団の幹部になる予定だったんだがな……」


死期を悟ったように、ビデロスは自嘲しながら呟いていると、脚から頭に向かって少しずつその身体が崩れるように黒い粒子となっている。


「ケインとフィリナ、だったな……。お前らとの闘い、敗れはしたが、楽しかったぞ……」


先ほどまで命を獲り合う闘いをしていたケインさんとフィリナさんを見てビデロスは少し微笑んだ。


「これからお前ら、いや、この世界に生きる人間達が我々の野望によって革命が起きる事を、地獄の底から見守ってやる……ぜ……」


そう言い遺すと、ビデロスの身体は完全に消滅した。


「ビデロス・ガルラン……」


ケインさんとフィリナさんは霧散した黒い粒子が舞い散る空を見上げていた。



「面白かった!」

「続きが気になる、もっと読みたい!」

「目が離せない!」


と思ったら、作品への応援をお願い申し上げます。

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