第66話 それぞれの死闘③
戦いが加速しております!
闇ギルドの幹部であるビデロスがケインさん達【ディープストライク】、裏切者のゼルナによる魔改造されたドキュノは俺達【トラストフォース】がそれぞれ戦っている。
「フン!」
「ハアァァ!」
【ディープストライク】サイドはビデロスと死闘を演じており、ケインさんとフィリナさんが戦っている。
ケインさんはビデロスの攻撃で不定期にめまいを引き起こす状態異常を受けてしまい、不利になりかけたが、フィリナさんは見事なまでの体術でケインさんを上手くフォローしており、ケインさんも自分を鼓舞しながら剣を振るっている。
「そこの女もやるじゃないか」
「これでも『上級武闘家』をやってるのよ!舐めんじゃないわよ!」
(フィリナは俺の相棒だ!甘く見るな!)
凄まじい攻防が続く中、流石のビデロスも二対一は不利なのか、先ほどよりも僅かながら余裕の表情が消えている。
「【武術LV.2】『バルカンラッシュ』!」
(この女、打撃の一つ一つが速く重い!厄介だな)
「ここよ!」
「グッ!」
フィリナさんの大雨のようなパンチの連打にビデロスも防御と回避に回らざるを得なくなり始めている。
一瞬ガラ空きになったビデロスの左脇腹にフィリナさんのボディーブローが決まり、僅かに動きが止まり、彼女はサイドステップした。
「ケイン!」
「【剣戟LV.2】『螺旋突牙』!」
「グウゥ!」
ケインさんは捻りを加えた強烈な突きを放ち、ビデロスは魔力を込めた剣を前に構えて防御するも、吹き飛ばされてしまった。
「ケインさん!近くで【トラストフォース】側に負傷者二名出ました!」
「分かった!向かってくれ!」
「エルニ!」
「はい!【支援魔法LV.2】『ビルドアップ』!」
「済まない!助かる!」
「しばらくの間、身体能力の強化ができる【支援魔法】をかけておきました!」
「ありがとう!」
クルスが連絡したのか、ニコラスさんの下にセリカとミレイユが怪我をしたと言う情報が飛び込み、ケインさんは一瞬で判断して指示を飛ばした。
エルニさんの【支援魔法】でケインさんとフィリナさんの身体能力を底上げした後に、ニコラスさん達はその場を去った。
「どうやらドキュノの方は上手く行っているみたいだな……」
「上手く行っている?どういう意味だ!?」
「今回は我々が造り上げた魔槍の出来具合とゼルナの魔改造の成果を確認するためなんだよ。今のやり取りを見るに、ドキュノはいい仕事をしているみたいだな……」
ビデロスは立ち上がりながら、少し口角を上げていた。
「貴様ら……。どこまで腐り切っているのだ!?自分勝手な欲や目的のために誰かの人生を、命を弄ぶような真似をするなど、最早人間の所業ではない!悪魔の所業だ!」
「何を言っている?表の世界を上手く回せているのは、裏に生きる者の働きがあっての事だ。魔改造による暗黒の力を得た猛者達を作り上げるのは国力の増強に繋がるのだよ。そうすれば戦争でも負ける事もなければ無用な争いも起きまい」
「ふざけないで!禁術で作り上げられた力なんて、今を生きている冒険者、いや、全ての国民に本当の意味での平和をもたらすはずがないわ!」
「我々の高尚な革命を否定するのか?」
「そんなものは革命じゃない!ただの横暴だ!」
ビデロスの、闇ギルドの余りにも偏屈で独善的で、そして罪のない多くの人間を苦しめるような思想にケインさんとフィリナさんは強く否定した。
「これ以上お前達に何を話しても無駄なようだな。私も本気を出すとしよう……」
「「!?」」
ビデロスはもう何を言っても無駄だと割り切ったような様子でいながら、呆れた表情を見せて両腕を広げた。
そして激しく漏れ出る黒いオーラと禍々しい瘴気を出し始める様相に、ケインさんとフィリナさんは一筋の汗を流しながら身構える。
「この力を見れば、お前たちの考えも変わるかもしれんぞ……」
そう言うビデロスの口元は……最早人間のそれではなかった。
「はぁ……はぁ……どこだ?」
「クルス君によるとこの辺りのはずです!」
人気のない通りを走るニコラスさんとエルニさんはクルスと合流するために走っている。
概ねの場所は聞いていても、見つけられない状況だった。
「ニコラスさん、エルニさん!」
「「?」」
「こちらです!」
「ク、クルス君か?びっくりした~」
「良かったです。合流できて」
「こちらにセリカとミレイユがいます……」
クルスが狭い路地裏から走っているニコラスさんとエルニさんに声をかけて何とか合流するに至った。
俺がドキュノと、ケインさんとフィリナさんがビデロスとやり合っている現場からは離れているけど、どちらも同じような距離であり、いざとなれば深刻な方に駆け付けられて、母屋としての機能がある建物にセリカとミレイユをクルスが匿っていた。
「ここです!」
「セリカさん!ミレイユさん!大変だ!」
「すぐに治療します!【回復魔法LV.2】『ダブルヒール』!」
クルスが案内した先には、ドキュノの凄まじい一撃から守るために傷付き気絶していたセリカとミレイユの姿があった。
ニコラスさんは驚き、エルニさんは速やかに回復させていった。
「うぅ……」
「はあぁ……」
「セリカ!ミレイユ!」
「二人共意識を取り戻しました!」
「良かった!」
エルニさんの救命活動により、セリカとミレイユは目を覚ました。
外傷用の塗り薬と止血による応急処置をクルスがしていたお陰で、セリカとミレイユは満足に動く事自体は叶わないが、二人は上体を起こせるくらいに回復した。
「あれ、クルス。トーマさんは……?」
「魔改造されたドキュノさんと交戦している」
「え?」
「だったら、助けにいかないと……」
クルスが説明するとセリカとミレイユは身体に鞭を打って動かそうとするが、二人共まともに歩くのも厳しい状況だ。
「二人共いけません。今は絶対安静です」
「命は繋いでいる状況ですので動かない方が……」
「トーマさんが戦っているんです。私だけ寝ている訳には……」
「ドキュノを倒せなくても、トーマさんの支えになるくらいにはどうか……」
セリカもミレイユも無理をしてまで動こうとしていた。
外傷自体はほとんど治せたものの、魔力を大いに消耗した疲労感や倦怠感は抜けておらず、足元も覚束ないような状況だった。
「セリカ、ミレイユ、今は絶対に安静にして欲しい。僕がトーマさんのところへ戻る」
「一人で行くのは無茶よ!」
「せめて、私かミレイユのどっちかは……」
「この中で戦闘に支障をきたさない程度で動けるのは僕だけだ。駆け付けたところで僕に何かができる保証はないけど……」
「僕がセリカやミレイユの分までトーマさんの支えになりたい!いや、なって見せる!」
クルスの言葉を聞いてセリカとミレイユはそれ以上言わなかった。
「ニコラスさん、エルニさん。ランクもキャリアもあなた達より低い僕が言うのもおこがましい事を承知ですが、二人をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「分かりました。引き受けましょう」
「お二人は私達が見ています」
「早めに戻れるように善処します」
クルスはニコラスさんとエルニさんにセリカとミレイユの看病をお願いし、その場を走り去って、俺がドキュノと斬り合う戦場へと戻っていった。
「トーマさん、どうか無事でいて下さい!」
確実に叶う保証がない願いと共に、クルスは戦場へと戻っていった。
「はあぁ……はあぁ……」
「ゼエェ……ゼエェ……」
俺はドキュノと何分経ったか分からないくらいの時間も斬り合い、立ち回っていた。
気が付けば、町から離れそうな場所にいた。
「殺す……殺す……」
「……」
傷を負いながら、殺意が高まっているドキュノを前に、俺は血と傷に塗れながら向き合う。
(ケインさんらもセリカやミレイユがどうなっているかは今どうなっているか正直分からねえな……)
「殺す……」
「けど、もうやるしかないよな……」
俺がそう呟くと、静かに息を整えた。
「行くぞ!」
「ガアァァァ!」
俺は【腕力強化】と【脚力強化】を発動させた。
【ソードオブハート】はギリギリまで温存する方向で、勝負どころで使うつもりだ。
勝って生き残るか、敗けて死ぬかの状況だったが、それでも俺は必ず生き残ってやる決意でドキュノへと突っ込んでいった。
(絶対に逃げねぇ!)
そして、衝撃の結末を迎える事になるとは、この時俺は知らなかった……。
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