第62話 明かされる陰謀
ここからシリアスになっていきます……。
【ベスズプレイフル】のギルドマスターであるルチアーノさんが協力を申し出る極秘クエストとして、イントミスで密かに蔓延る闇ギルドの調査を命じられた。
確証を得始めた俺達は本格的に動いていく中、イントミスに近い町で調査をしているドキュノとゼルナが敵に襲撃され、彼女が何者かに攫われてしまっていた。
「確かこの辺りか?」
「あぁ、戦った形跡がある。誰だやり合ったのは?」
「裏路地の奥へ足跡があるぞ!」
「カズナ!あれじゃない?」
「きっと戦闘があったんだわ!」
ドキュノが襲われてから数分後、調査に来ていた冒険者パーティー達が大きな音を聞いてその場所へ集まっていた。
そこにドキュノ率いる【パワートーチャー】のメンバーであるカズナとフルカも遅れてその場で合流した。
「あなた達は【パワートーチャー】の……」
「さっき、ドキュノから連絡が入ったんです。ウチのメンバーのゼルナが攫われたって!」
「それから何度も呼び掛けているんですけど、返事が無くて……」
「何だって?」
カズナとフルカはドキュノから「ゼルナが攫われた」と言うメッセージを受け取っていたが、それからは何の応答も無かった。
騒ぎになり始め、【ベスズプレイフル】に所属している冒険者数名が対応に当たっていた。
「急いでケインさん達に連絡します!」
「あぁ、頼む!」
(ドキュノ……)
フルカは今の状況をイントミスで調査に乗り出しているケインさんや俺達に連絡した。
同時刻、イントミス中心地
「分かった。俺達もそちらへ向かう!」
「ケイン、どうかしたの?」
「【パワートーチャー】のゼルナが何者かに攫われて、それをドキュノが一人で追いかけていった。今も連絡が付かない状況だ」
「え……?」
「ゼルナさんが攫われた?」
「ちょっと、何かヤバいんじゃないの?」
(ドキュノさん……)
見回りに一定の区切りが着いた俺達の下へ、ドキュノ達に起きた事件が伝わった。
「ケインさん……」
「仕方がない。俺達もその現場に向かおう」
「でしたら我々も……」
「巻き込まれているのは私が所属しているギルドの冒険者です。【ディープストライク】と【トラストフォース】の8名で向かいます!皆、行くぞ!」
「えぇ!」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
ケインさんは迅速に決断した。
【ベスズプレイフル】も協力を申し出てくれたが、イントミスの対処はそこを拠点にしているギルドのメンバーの方が何かと都合が良いため、【アテナズスピリッツ】に所属しているメンバーである俺達だけで行く流れになった。
そして馬車乗り場へ駆け込み、急いで現場に向かった。
「何とか間に合いますかね?」
「ここからはそう遠くない。ただ、闇ギルドが絡んでいる可能性が極めて高い。心してかかるぞ!」
「「「ハイ!」」」
「分かったわ!」
「「分かりました!」」
(……)
ケインさんは再び気を引き締めるように発破をかけた。
俺達は気持ちを切り替えていくが、クルスだけはどこか浮かない顔だ……。
同時刻、地下洞——————
二本の蝋燭の明かりが照らす暗く気味の悪さをまざまざと醸し出す石造り壁と天井に腕を縛る鎖が繋がれた部屋。
「う……あ……。ここは……?」
「何で、俺……腕が鎖で……?」
(そう言やあぁ……)
その部屋にある鎖で両腕を縛られているボロボロにされている人物は、【パワートーチャー】のリーダーにして、メンバーの一人であるゼルナを助けに向かったドキュノだった。
普段は陽気で自信満々な振る舞いをしているドキュノも、あちこちが傷だらけで息も絶え絶えの状態になっていた。
魔力も放出できそうにもない事から、繋がられている手錠には魔力を抑制させる効果があるのだろう。
ドキュノは必死に記憶を掘り起こすと、黒いフードを被った人物と交戦したが、善戦空しく剣で切り裂かれ、そこから意識が混濁して闇に堕ちた所までを思い出す。
「起きたか」
「誰だ!?」
重々しい雰囲気を放つドアを開けて現れたのは、ゼルナを攫った黒いフードの人物だ。
ドキュノはその顔見た瞬間……。
「私の顔を知っているかな?」
そう言うとフードを外して素顔を見せる。
「お、お前は、ビデロス・ガルラン!」
ドキュノ、そして俺達が今回の闇ギルドの調査でキーパーソンとなり得るであろうビデロス・ガルラン本人だ。
Cランク冒険者として活動してきたドキュノもビデロスが放つプレッシャーを感じた。
実力派の冒険者特有の大きく強い覇気、それに加えて光の届かない暗い場所へ引き込まれるような何かも気取った。
「ここはどこだ?ゼルナはどうした?何が目的だ?」
「……」
「おい、黙ってねぇで何とか……」
ドキュノが質問を言い並べるのを他所に、ビデロスは黙っていた。
「フン!」
「ぐあああぁぁ!」
ビデロスはドキュノの額と鼻の付け根の中間辺りの「鳥兎」と言う急所を親指で瞬間的に押した。
ビデロスの指の力もあってか、ドキュノは悲鳴を上げた。
「はぁ……がぁ!」
「うるさい男だ。ちょうど時間があるから少し答えてやろう。」
痛がるドキュノを尻目に、ビデロスは語り始める。
「まずここはイントミスから離れた町のスラムにある廃酒場の地下を利用して造り上げた我々のアジトであり、今いるこの場は牢獄だ。お前の仲間であるゼルナと言う女だが……」
「!??」
ゼルナの名前を聞いて、ドキュノは一番聞きたかった質問を聞こうとビデロスに目をやる。
「安心していい。別室にいるが、彼女は生きている。怪我一つない」
「……そうかよ……」
ドキュノは取り敢えずホッとした。
気に掛けているゼルナが無事である事が確認できて少しだけ安堵の表情が零れた。
「そうそう、目的も聞きたがっていたな。我々はある目的のために闇ギルドを起ち上げ多くの闇クエストを取り仕切っている。人攫いをしているのは目的にあった器を探すためであり、貴族に売る事によって人身売買で多額の資金を稼ぐためでもあるのだ。更には強い力を持った人間と接点を持つのも狙いの一つだ」
「……」
ビデロスが淡々と目的を言い並べると、ドキュノの顔は深刻になっていった。
【ベスズプレイフル】からの協力クエストは当初、闇ギルドの調査で済むだろうとどこかで思っていた。
しかし、闇ギルドの幹部に近付いたと思ったら自分が捕らえられ、想像以上に深くドス黒い陰謀が自分の前に迫っている事に気付いてしまった。
「強い力を持った奴とお前らの目的と、何の関係があるってんだよ?」
「私も最初は冒険者ギルドに属する事ができない冒険者崩れの輩に目を付けては引き込んだものの、どれも出来損ないばかりでな。半端な実力と覚悟しかない者では目的の達成どころか足を引っ張りかねない事もあるからな」
ビデロスの発する「冒険者崩れ」「出来損ない」「半端な実力と覚悟」の言葉と先ほど聞いた黒い狙いを聞いて、更に顔を青くするドキュノ。
「まさかお前ら、俺とゼルナを誰かに売る気なのか?」
「違う。そんな事はしない。目的と関係のない遊びに付き合うほど我々も暇ではないのだ。これ以上話しても気付かないようならば教えて差し上げよう。我々の目的を……」
「……」
ドキュノの焦りの表情に対し、ビデロスは微笑みながら告げた。
「我々の目的は……この世界を破壊する事だ」
「!!??」
「我々が造り上げた魔槍はギフトが『槍術士』、それもCランク以上は欲しかったのでな」
ドキュノはそれを聞いて絶句した。
想像を絶する闇の深さを改めて悟り始めるしかなかった。
何とか助かる方法、ゼルナを見つけて救い出す算段を必死で考えようとするが、両腕は縛り付けられただけでなく、魔力は封じられ、近くに武器もない状況だ。
天啓一つ降りて来ないドキュノだった。
コッコッコッ……
「もう少し話をしてやるつもりだったが、どうやら準備が整ったようだ」
「あぁ、何の準備……」
「ドキュノさ~ん、お元気ですか~?」
「!?」
ビデロスはもう用は済んだと言わんばかりの淡々とした表情に戻り、ドキュノは女性の声がする方角へ目をやり、驚愕した。
「ゼルナ‼無事だったのか?」
「はい、来てしまいました」
捕らわれてしまったはずのゼルナが、五体満足で現れた。
安堵の表情を見せるが、同時におかしな点に気付く。
ゼルナが解放されているのにビデロスは捕まえる素振り一つ見せていない事に……。
「どうやって、てか、何でビデロスと……」
「うふふふふ」
「フン」
「お前……まさか……?」
「我々の目的に気付くのは遅れども、我々とこの女の関係性はすぐに理解したようだな」
いつもの冒険者として活動する衣装の上にビデロスと同じような形のマントに身を包んだゼルナはドキュノの方へ歩く事は無かった。
するとビデロスはゼルナに近付き、肩に手を回した。
ドキュノは全て悟り、その顔に絶望感が満たされていく。
「ゼルナ・ドゥーチェは、我々闇ギルドの仲間なのだ」
「……ッ?!」
ゼルナは闇ギルドに繋がる裏切者だった。
「お前、最初から俺を……、俺達を騙す気でいやがったのかよ?!」
「オーッホッホッホッホッホ!本当にドキュノは良いカモだったわ!【パワートーチャー】に入る前のパーティーでは【死霊術】や【呪術】を周囲に悟られないようにクエストを受けては実験や検証をしてみてデータは取れたわ。他にもデータを取るために偶然を装ってアンタに近付いて同情を誘ったらもうすんなり入り込めたわ!」
「あの時……」
艶やかだが上品な振る舞いをしていたゼルナは一転して、醜悪な笑みを見せながら高笑いしてドキュノを見下していた。
そしてドキュノは、ゼルナと初めて接触した日を思い出す。
回想・ドキュノとゼルナの出会い———————
クルスを追い出してからすぐの日、ドキュノは新しいメンバーを探しており、中遠距離攻撃を得意とする魔術師に焦点を絞っていた。
「誰か良いのいねぇかなー?っと!」
「キャァ!」
ドキュノは一人の女性とぶつかった。
「悪い、大丈夫……」
「ごめんなさい、考え事をしていたものでして……」
「……」
ドキュノは格好からして『魔術師』と直感した。
同時にゼルナから放たれた妖艶さを帯びたようなフェロモンに一目惚れしたような気持ちになった。
「君、もしかして魔術師か何かかな?」
「ハイ、冒険者ランクCの『魔術師』であるゼルナ・ドゥーチェです。もっと冒険は続けたいと思っているのですが、組んで下さる方がいなくて……」
魔術師を引き入れたいと思ったドキュノは……
「君、良かったらウチのパーティーに入らないかい?」
「え?」
「ちょっとドキュノ?」
「いくら魔法攻撃が得意な『魔術師』が欲しいとは言ってもそんな即決は……」
「分かってる!だからちょっと話してみないかい?」
「は、はい……」
それから話し合ってゼルナは【パワートーチャー】の新たなメンバーになった。
それからはゼルナの魔法スキルの高さや戦術構築の上手さを存分に活かし、雑務も卒なくこなしていく姿や妖しい魅力に惹かれたドキュノのお陰で馴染みつつあった。
「ゼルナは強くて美しくて頼りになるな~」
「うふふ、嬉しいですわ!」
「「……」」
気付けば、何年も前から苦楽を共にしたはずのカズナとフルカを差し置くようになった。
「これからもよろしく頼むぜ!ゼルナ!」
「はい!」
回想終了———————
「あの時から、騙していたのか?ゼルナの、闇ギルドの狙いに付き合わすために……」
「あなたじゃなければダメって訳じゃなかったの。欲しかった相手がたまたま近くにいたのがあなただった。それだけの話よ。でも、この力を得れば、あなたは誰よりも強くなれる……。誰にも見下される事もないでしょう……。手柄を欲する貴方から見れば願ったりかなったりじゃない。感謝してよね」
「う……待て!やめ……」
「ウギャアァァーーーーーーーー!」
後悔先に立たず思いと言わんばかりな気持ちのドキュノの表情には、悔しさと悲壮感で満たされていた。
そしてゼルナは両手に持っていた独特な色をした大き目のビンに入っている液体を、ドキュノの口に流し込み、特殊な呪印が刻まれた剣をその腹に刻み付けた。
そしてドキュノの絶叫が、地下でこだまするのだった……。
「面白かった!」
「続きが気になる、もっと読みたい!」
「目が離せない!」
と思ったら、作品への応援をお願い申し上げます。




