第61話 蠢く不穏
ここから展開が加速します!
【ベスズプレイフル】のギルドマスターであるルチアーノさんが協力を申し出る極秘クエストとして、イントミスで密かに蔓延る闇ギルドの調査を命じられた。
花形のパフォーマーであるイズノさんを助け出した際、闇ギルドの幹部格であるビデロスが貴族と人身売買をしているネタを掴む事に成功した。
「……と言うわけで、闇ギルドの幹部格であるビデロスがビュレガンセの貴族と人身売買をしている情報を掴む事ができました」
「闇クエストには貴族が絡む話や噂は聞いた事はあるのだが……」
「まさか本当にあるんですね」
「信じられねーな」
証拠を聞き出した夜、【ベスズプレイフル】の会議室において、ケインさんが全員を呼び出して情報共有した。
その席にはルチアーノさんもいる。
「私の方からも【パワートーチャー】のゼルナさんが見つけた証拠を精査したところ、その中には、男爵の爵位を持った貴族が2名確認された」
「それは本当ですか?」
「間違いないわ。その中の一人がゼルナさんと一夜を共にした人物であり、もう一人はイントミスの隣町を仕切るゴモロ男爵と言う人物よ」
ルチアーノさんも独自に調べ上げており、闇ギルドと繋がっている可能性がある人物を特定して見せた。
「マジっすか?これで解決にグッと近づきますね!」
ドキュノらは感嘆な声を出していた。
確かにその事実を王都ファランテスに報告すれば、王国の騎士団から協力をもらえて捜査範囲が広がって闇ギルドの根絶に一気に近付く。
早速にでも報告と思われるが、一つ問題がある。
「あの~、繋がりがあるのは特定できたとしても、私からも一つ、思った事があります」
「何だい?」
ルチアーノさんの目を見て、俺は手を挙げて発言をした。
「闇ギルドが密かに逃げてしまう懸念はございませんかね?そのゴモロ男爵と言う方を証拠と共に引き渡せば、そのビデロスと言う男も手が及ぶ事に気付いて、知らずにどこかへ逃げると思うんですよ」
「と、言うと……?」
「闇ギルドを根城にしている場所を特定もしくは目星を付けてから引き渡した方が良いと思うんですよ。そのビデロスって男、用心深い気がしますので……」
俺の発言になるほどと皆思ったような顔をしていた。
「昨日ケインさん達が助けたイズノの話や今ある証拠をもう一度照らし合わせた上で作戦を立てましょう!」
ルチアーノさんがそう言って、今日の仕事は終わった。
同時刻、とある酒場——————
その酒場の奥には、よく見ないと違いが分からないくらいに精巧に作られた扉がある。
その地下を降りる事数分、蝋燭で照らされた明かりが不気味さを加速させる。
そう、そこには古くなっている隠し部屋があり、貴族が抱える屋敷のような広さを誇るスペースだ。
中には如何にも悪さを経験した事を匂わせるような男女が数名いる。
酒を飲みながら闇クエストの手続きをする者、ギャンブルに興じる者、愛人関係を持つのに金額などの交渉をする者、日の当たる世界では絶対に見ないだろう剣呑な光景だ。
そこにいるのは犯罪者になって前科が付いたせいで冒険者ギルドのクエストを受けられない者、誰にも知られないように犯罪行為を依頼する者、目の上のたんこぶのような存在を消すために依頼するような者がほとんどである。
「以上が、今月の売上となります」
「うん、ここ数ヶ月は増収増益、上場ね」
「有難きお言葉です」
部屋の最奥にある暗く不気味な雰囲気を漂わせる一室でビデロスが一人の女性に業務報告をしている。
「変わった趣味をしている貴族や行商人を上手く抱き込むとは流石ね、ビデロス」
「お金を持て余している人間ほど常人では考えられない趣味を抱えているものでございます。何より、人間の欲と言うのは誰もが持つモノでございます」
ビデロスは淡々と言葉を並べる。
「確かにね……。ではよろしくお願いするわね。ビデロス」
「ハッ!失礼します!バスディナ様!」
そんなやり取りを終えると、ビデロスは部屋を去った。
「ふふふふふ。人間なんて、欲深い生き物よ」
深淵を思わせる濃い黒髪に紫が混じった腰より伸びたロングヘアーと暗い世界に引き込むような落ち着いた声にミステリアスな雰囲気を感じさせた。
黒を基調にしたチューブトップ状のドレスに身を包み、冷たい雪のような白い肌に妖しく輝く緋色の瞳をしているあまりにも美しい女性。
今、俺達が追っている闇ギルドのトップ、バスディナ・ドゥルーズ、その人だ。
翌日、夕方——————
「それでは、作戦を始めるぞ!」
「「「「「「「「ハイ!」」」」」」」」
俺達は作戦に打って出た。
今回派遣された俺達【アテナズスピリッツ】とイントミスを拠点とする【ベスズプレイフル】に所属する冒険者パーティー数組による徹底的な見回り強化、いわゆるローラー作戦だ。
最近闇クエストが蔓延しつつあるこの状況を止める抑止力であるのは確かだが、もう一つ狙いがあり、むしろそのもう一つが目的なのである。
「闇ギルドの所在や手掛かりを何とか掴めればいいんですけどね……」
「うん、その辺のお店がカモフラージュなんて考えにくいからね」
そう、闇ギルドの洗い出しだ。
イントミスもしくはその近辺に根城としている場所があるのはほとんど掴めており、本当の意味で足跡を掴むために抜き打ちのような形で全体的な見回り強化に打って出たのだ。
それで拠点を変えるために動き出すならば、その後を追いやすくなり、足がかかりもできれば有意義な証拠にもなれるってわけだ。
「今回の作戦の成功率を上げるため、【ベスズプレイフル】の大半の冒険者達が協力してくれているって話だ」
「必ず見つけ出してやるわ!」
「僕も、感度をMAXにしていきます!」
皆の気合も十分だ。
ここまで闇ギルドに迫れたんだ。やるからには必ず叩き潰す覚悟を持って臨んでいく。
同時刻、イントミスより少し離れた町——————
「俺達はイントミスと打って変わって静かな場所の調査ってか……」
「にしても、少し殺風景じゃない?」
「言えてるわね……」
「……」
ドキュノ率いる【パワートーチャー】と【ベスズプレイフル】の冒険者パーティー数組はイントミスからほど近い比較的閑静なお店が立ち並ぶ町の調査に来ている。
イントミスと比べたら場末と言う言葉が合うほどに静かな雰囲気だ。
ルチアーノさんによると、「お金が余りない人や静かに飲みたい人向け」との事だ。
言われて見れば、比較的慎ましいムードだ。
「皆さん、最近ではこの町にも怪しい人物が出入りしているって噂も出回っているので、用心をした方がよろしいかと……」
「分かってるわよ、そんな事!」
「ゼルナは余計な事言い過ぎ!」
「まあまあ、落ち着けって……」
ゼルナの慇懃と思える発言にカズナとフルカは噛み付くが、ドキュノが窘める。
闇ギルドの調査も大詰めになっているのに、チームワークを乱すわけにはいかないからだ。
しばらくしてそれぞれのパーティー毎に分かれて調査を開始した。
旅の冒険者に扮するように、少しボロボロのフードで身体を隠すように行動を始めていくドキュノ達。
「さて、どうやって見つけるかだな」
「ここは二人一組で分かれるのはいかがでしょう?」
「え?」
「四人一組で固まっているのは少々目立ちます。ここはドキュノさんと私、カズナさんとフルカさんで行動していくのは……」
ドキュノが慎重に動こうとする中、ゼルナが見つける確率を上げつつ目立たない行動をしていく提案を行った。
「待って待って!またドキュノと行動する気なの?」
「前から思っていたけど、ドキュノとべた……何かにつけて行動し過ぎじゃない?」
「確かにそうかもしれませんが、私はこれがベストな組み合わせと思っています。」
「どういう意味よ?」
「近接職なのはドキュノさんとフルカさんであり、その二人を中遠距離からフォローする組み合わせの方がバランスも取れます。それに、カズナさんとフルカさんは私が入る前からの仲ですので、いざという時の連携は特に取りやすいと見ているんですよ。あくまでも場所や手掛かりを見つけるに留めておけば、後は皆様で本格的に乗り出せばよいのです」
「「……」」
噛み付くカズナとフルカに対し、ゼルナは丁寧かつ合理的な理由を説明した。
例え闇ギルドの拠点を見つけても、4人だけで全て解決できる保証はないからだ。
「分かったわよ……」
「確かに、私とカズナの連携プレーなら戦闘も逃げも自信はあるし……」
「ドキュノさん、それでよろしいでしょうか?」
「そうだな。それで行こう!但し、危険を感じたら逃げる事と、連絡はしっかりする事は絶対に忘れないようにな!」
カズナとフルカは言いくるめられていると思うような表情をしつつも、最終的にはゼルナの意見を受け入れた。
そしてカズナとフルカ、ドキュノとゼルナはそれぞれ別行動を取った。
「フルカ、ゼルナの事をどう思ってる?」
「どうって、最初は良かったけど、今はドキュノと随分イチャついているような距離感でいる事が多くて何かイラッとするわね。ドキュノもドキュノだけど……」
「だよね~。闇ギルドに繋がる証拠を見つけたのは凄いし感謝してないわけじゃないんだけど、何かモヤモヤして仕方がないのよ……」
裏通りに入ったカズナとフルカはゼルナに対する不満を口にしていた。
少なくとも、ドキュノの目や耳が届く場所で言わなければやっていられないくらいに不服の気持ちが強まっていた。
ゼルナの実力や働きを認めていないわけじゃないが、彼女が来る前まで可愛がってくれた自分達を蔑ろ気味の現状に納得がいっていないからだ。
「ねぇ、フルカ。私、考えたんだけどさ……」
「何?」
「この闇ギルドの調査が終わったらさ、一回ドキュノと真剣に話をしてみない?」
「……?」
カズナの提案を聞いて、フルカは足を止めた。
ゼルナの事は目の上のたんこぶとしか思っていないけど、気安くパーティーからは抜けたくない気持ちもあるため、クエストに区切りが付いたら関係を一度整理したがっている。
フルカもしばし考え込んでいた。
「そうね、ドキュノの考え次第では、抜けるって手もありかもね」
「じゃあ、決まり!そうなったら私らでパーティーを組んで新しい仲間を探そうか?」
「一理ありだわ!」
闇ギルドの調査が終わったらドキュノと話し合い、今後について話し合う決心を固めるカズナとフルカだった。
「いかにも怪しい雰囲気ですわね、ドキュノさん」
「あぁ、きな臭い香りがプンプンするぜ」
ドキュノとゼルナは町の片隅らしき通りを訪れている。
最初に入った場所と比べれば、閉まっているお店も多く、開いていても繁盛している様子はない薄暗い雰囲気であり、いたずらに吹くそよ風が不気味さに拍車をかけている。
「ゼルナ、俺から離れんじゃねぇぞ」
「はい、信じております」
「おう、任せろ!」
二人は周囲を警戒しながら歩いていく。
それから人気を感じない通りを歩いて数分——————
「おいおい、今日の獲物が引っかかったぞ~」
「旅の人間か。いくら持ってるんだろうな~」
「「!?」」
「お?チラッと見えたけど、背が低い方は女だぜ!しかもかなりの美人と来た!」
「マジかよ?金のついでに奪っちまおうぜ!」
ドキュノとゼルナを前後からそれぞれ、二名のならず者の男達が現れた。
「心配すんな!見たところ、冒険者ランク的にはDランク辺りだ。俺やゼルナだったら楽に勝てる!サクッと決めようぜ!」
「えぇ、そうですわね」
やり合う決心を固め、ドキュノは槍を取り出し、ゼルナも臨戦態勢だ。
「やっちまえー」
「「「おりゃーー!」」」
男達のリーダーの呼応で3人が飛び掛かる。
「【棒術LV.2】『乱れ突牙』!」
「【炎魔法LV.1】『ファイアボール』!」
「「「ギャアァァァーー!」」」
ドキュノの槍による連続突きとゼルナによる炎の弾丸をぶつけ、ならず者3人は戦闘不能になり、残すはリーダーらしき男のみになった。
「何だこいつら?強い……」
「【棒術LV.2】『牙風突き』!」
「ギャアァァァーー!」
そしてドキュノの攻撃を受けたリーダー的存在の男は、隠していた顔を露わにしながら気絶した。
相手は人間であるため、刃のない方で行ったが、ドキュノの槍の腕前は本物だ。
リーダーといきっているだけの男にあれほど練度が高い棒捌きはできない。
「流石ですわ!ドキュノさん!」
「まぁ、ざっとこんなもんよ!さて、こいつらを縛り付けて情報を吐かせるか」
ドキュノはリーダー格の下へ足を進めていく。
「ドキュノさ、んぐ!」
「!?」
ドキュノが振り向くと、黒いフードを被った人物にゼルナが口を塞がれている状態で身動きが取れない状況となっていた。
「この女は攫って行くぞ。ある目的のためにな……」
「何だテメェは?」
(気配や魔力を感じなかった。何者だ?)
ゼルナを裏通りへと引き摺り込む黒衣の人間を鬼の形相で追いかけるドキュノ。
この時ドキュノも、俺達も知らなかった。
恐怖の計画が密かに進んでいる事を。そして俺達に襲い掛かってくる事も……。
「面白かった!」
「続きが気になる、もっと読みたい!」
「目が離せない!」
と思ったら、作品への応援をお願い申し上げます。




