第59話 潜入調査!
女性キャラが変装します!
【ベスズプレイフル】のギルドマスターであるルチアーノさんが協力を申し出る極秘クエストとして、領内で密かに蔓延る闇ギルドの調査を命じられた。
俺達以外ではクルスがかつて所属していたCランクパーティー【パワートーチャー】と
実力者揃いのBランクパーティー【ディープストライク】でその実態解明に動いている。
調査対象の街であるイントミスに入って数日——————
「トーマさん、セリカ!女性を攫おうとしている輩数名を捕まえました」
「ありがとう!」
「何か聞けた?」
「お金欲しさに手を貸したとは言っていたけど、胴元には……ってほら、抵抗しない!」
「「ささささ、寒いです~!」」
「早く連れて行こう」
今日は裏路地を見回る担当をしていた俺達。
クルスとミレイユが見回っている路地でパフォーマーをしている若い女性が攫われそうになった現場を目撃し、その捕縛を済ませていた。
問い質したところ、闇クエストによる人攫いである事やお金目的でやった以上の情報を引き出す事ができなかった。
この数日で闇クエストよるものや一介のチンピラが起こすトラブルの解決をいくつかこなすも、胴元である闇ギルドのトップやそれに繋がる幹部の情報はまだ得られていない。
やはり末端構成員では大した情報を引っ張れないな……。
「【トラストフォース】からは、午前中に起きた痴漢騒ぎや先ほどの人攫いの解決を行いました。以上です」
「【パワートーチャー】からは、特に報告事項は無し。以上です」
「よし、分かった。本日もご苦労だった」
一日の仕事を終えて、ケインさんへの報告を終えた俺達。
「俺からも一つある。皆に、正確にはここにいる女性メンバーにお願いがある」
「はい?」
「何ですか?ウチの女性メンバーを使ったお願いって……?」
ケインさんは一つの提案を出した。
フィリナさんとエルニさんは共有済みなのか、平静を崩さないものの、セリカとミレイユ、カズナとフルカにゼルナはきょとんとする。
「ルチアーノさんからの協力も得ていてな。一つアイデアを考えてある……」
そうしてケインさんは明日実行する作戦を皆に説明をして、それから俺達は就寝した。
翌日の夕方、とあるクラブらしき場所——————
「あの~店長。体験入店のキャストさんを連れて参りました」
「お~、これはこれは……」
開店前の中規模キャバレーのルームにて、その店長がスタッフの声に反応して振り向く。
「良い!非常に良いではないか!」
「どうも。体験入店をしに来ましたセリエと申します」
「同じく、ミルキーです」
そこにいたのはセリエとミルキー……ではなく、キャストに扮したセリカとミレイユだ。
どうしてこうなったのかと言うとこうなる。
回想・前日———————
「女性メンバーがキャストやパフォーマーになりきって、闇ギルドに繋がる証拠や関係者を炙り出す!」
「「「「「「「「え!?」」」」」」」
Bランクパーティー【ディープストライク】のリーダーであり、真面目で誠実な性格をしたケインさんの思わぬ提案に驚きを隠せなかった。
ケインさんのパーティーメンバーであるフィリナさんとエルニさんは認知しているので普段通りの表情だ。
「お金や時間を持て余している富裕層向けのクラブに直接入り込んで情報を探っていければ、胴元に近付けると俺は見ている。このイントミスでルチアーノさんが【ベスズプレイフル】のマスターになる前でも、名が余り売れていない貴族や行商人などが闇クエストを出した事例が何件かあって、いずれも女性が接待してもてなす店から摘発されているんだ」
ケインさんが真剣な表情をしながら説明している様子を見るに、その事例が本当にあって、大真面目に作戦を提案しているのはすぐに察しが付いた。
「ですけど、それで本当に闇ギルドの尻尾を掴む保証は本当にあるんですか?」
「お金持ちに焦点を絞る事そのものは良いと思いますけど、色々と大丈夫ですかね?」
「もちろん、各パーティーの控えメンバーが目を光らせ、連れ出されそうになった瞬間に助けに入り、むしろそれが闇ギルドに近付くきっかけにも繋がる。いや、証拠にだってなる」
「「「「「「「「……」」」」」」」
【パワートーチャー】のカズナとフルカは疑心を抱くが、ケインさんは根拠やアフターケアになるアイデアを言った。
俺達含めて、この話に乗るかどうか悩んだ。
「私は良いと思いますよ~」
「「「「「「「「!?」」」」」」」
そこに言葉を発する女性の声が響いた。
「我々が調査に派遣されてから目先の問題は解決できても、闇ギルドのトップやそれに近い手がかりを掴め切れていないなら、思い切って踏み込むのもいいアイデアと思いますよ」
クルスが前いた【パワートーチャー】の新メンバーであるCランク魔術師のゼルナだった。
「ゼ、ゼルナ?何だよ急に……?」
「この数日を含め、最近まで闇ギルドの存在やその幹部の尻尾も掴めそうな状況なのにそれ以上の進捗が無いのでしたら、テコ入れを含めてもっと奥まで踏み込んでみるのも一手と考えているんです。店内の侵入の手段だけでなく、建物の構造まで教えていただければ、怪しい人物を追い込む時には先回りしやすいです」
ドキュノをよそに、聞いてみれば次に繋がる考えを交えながら、メリットを理解して説明するゼルナがいた。
お客様に直接触れる潜入調査はリスクが伴うものの、踏み込んで本質に近付ける可能性もあり、建物内で起きている中でその構造をあらかじめ把握できれば、捕まえるために一手早く動きやすくなる。
「確かにそうだな」
「ゼルナ!それナイスアイデアじゃねぇか!カズナとフルカも協力しようぜ!闇ギルドの一網打尽に繋がるならマジで儲けものだろ!?」
「えぇ……」
「それは……」
ケインさんも得心がいったような表情をしているのに対し、ドキュノもゼルナの考えに賛成して彼女を褒め称えながら、同メンバーのカズナとフルカにも同意を求めていた。
「確かにそうかもね」
「富裕層が来そうな娯楽施設だったら、やってみる価値はゼロじゃなさそう」
「そうか!そうだよな!ケインさん、俺達は作戦に乗ります!」
「そうか……。トーマ君達は?」
「俺達は……」
「「……」」
カズナとフルカも一理あるような顔をしながら賛成し、ドキュノも積極的に乗った。
俺はセリカとミレイユに視線を送り、彼女達もそれぞれ目を合わせながら考えた。
「私もケインさんの作戦に乗ります!」
「トーマさんやクルスが守ってくれるなら大丈夫です!」
セリカとミレイユも賛同してくれた。
「分かった。協力感謝する。潜入する店の構造について教えてもらえるようにルチアーノさんと交渉する」
こうして、今回の潜入作戦が実行される流れとなった。
ちなみに、ケインさんのパーティーメンバーにおける支援士であるエルニさんは不審者対応のフォローのために不参加となった。
回想終了———————
「体験入店とは言え、頑張り次第では本採用も考えているからよろしくね!」
「「よろしくお願いします!」」
((多分、転職しないと思う……))
セリカはモデルのようなスタイルを活かすため、紺色を基調にした膝丈まで裾があるオフショルダーのドレスに髪型もロールを利かせたいかにも娼婦のような姿をしている。
ちなみに髪型はウィッグである。
ミレイユも黄色を基調にしたAラインのミニスカートのドレスを着用しており、腰まで伸びた青いロングヘアーをしており、こちらもウィッグを付けている。
こうして、セリカとミレイユの潜入捜査が始まった。
同時刻、とあるショーパブ——————
「お~これは何と鍛え引き締まった肉体美!いるだけでも映えそうだ!数日のお願いではあるが、よろしく頼むよ!ファラナちゃん!」
「はい!よろしくお願いします!」
ショーパブにはファラナと言う偽名で【ディープストライク】のサブリーダーであるフィリナさんが潜入している。
ダンスがあるのもあって、身に付けている衣装は女性の大事な部分はどうにか隠せているのを除くと、肌の露出度が結構高い。
鮮やかなオレンジ色の髪型がトレードマークのフィリナさんだが、今の髪色は紺色をしており、こちらもウィッグだ。
同時刻、とあるクラブ——————
「数日間の体験入店とは言え、貢献してくれたら好待遇で迎えるつもりだからよろしくね!ハルノちゃんにピルノちゃん!」
「こちらこそよろしくお願いします!」
「お手柔らかにお願いします……」
比較的小規模なクラブには、【パワートーチャー】のフルカとゼルナが潜入している。
普段の印象とガラッと変えるため、フルカはピンク色のセミロングヘアーのウィッグを、ゼルナは金髪のロングヘアーのウィッグを付けている。
着ているドレスも、ゼルナはフルカに比べると、チューブトップのドレスと、かなり刺激の強い衣装であり、それが彼女の持つ妖しい魅力に拍車をかけている。
[それでは作戦開始だ!]
テレピアス越しにそれぞれ動き始める。
それぞれの店には、ストレス解消や好奇心本位の観戦まで、様々なタイプの男性客でごった返し始めていった。
「セリエちゃんって言うんだ。見事に整ったスタイルだね~」
「ありがとうございます!」
「君、可愛いね~」
「もう、誉めても何も出ませんよ!」
「おぉ、あのダンサー、粗削りなところはあるけど、動きのキレがいいね~」
「はい。彼女はファラナちゃんですが、これから売り出しの予定でございまして……」
セリカとミレイユ、フィリナさんは拙いながらも訪れたお客さんと接してはすんなりと行かなくても、好感触を得ていた。
訪れているお客さんも、お金持ちって思わせそうな出で立ちをしており、本当に趣味で楽しむ人の方が多いだろうけど、それっぽい人間を見つけられる気もしてきた。
「どうぞ、ヴィンテージワインでございます」
「ありがとうね、ピルノちゃん。いやー、セクシーだね~君!」
「うふふ、ありがとうございます」
ピルノこと、ゼルナは見事に客の心を掴むような接客をしている。
他のキャストにはないような妖艶な雰囲気が目に留まっているようで、体験入店の身なのにお金を持っていそうな貴族や行商人のトップに随分と気に入られている様子だった。
「ねえねえ、この後良ければアフターとかどうだい?今宿泊している高級ホテルで楽しませてあげるよ」
「あら、嬉しく思いますわ。もしかして、貴族の方でしょうか?」
「あぁ、イントミスの離れの地方を取りまとめていてね。去年爵位を得たばかりなんだ。こう見えてもこれはあるんだ」
「……」
「自分はお金持ちですよ」とアピールしているその相手は成金セレブのような小太りの男性貴族であり、ゼルナに夢中だ。
身なりから見るに仕立ての良い少し派手な服を着ており、一部に金歯も付けている。
「まぁ、それは素敵ですわ~。」
(仕事してるのか遊んでるのか、私にも分かりにくいわね……)
上手く取り入っているゼルナの様子を見ていたフルカの表情は訝し気だった。
するとその男は会計を済ませると、ゼルナを連れて去ろうとしていたが、彼女は遠慮どころか乗り気な表情を見せている。
「あっ、お客様お水をお持ちしますね!」
[こちらフルカ。ゼルナが男と店を出ていったわ。ホテルに泊まるとか何とかで……]
[こちらドキュノ。わかった、俺が尾行する]
フルカは水を持って来るフリをしてドキュノに連絡を取った。
ドキュノは男性と一緒に街の道を歩くゼルナの姿をすぐに見つけて尾行を開始し始める。
(にしてもあの成金野郎、ゼルナとくっつき過ぎだろ!)
ゼルナは慣れた様子で男性との会話を保たせながら、目的のホテルに辿り着いた。
如何にも高級ホテルと一目で分かるような煌びやかで絢爛さを感じさせる、10階建てはある外観だ。
そしてゼルナは男性と肩を組んで入っていった。
「流石に俺は入れねえよな?ケインさん達にも連絡しとくか……」
[こちらドキュノ。ケインさん、ゼルナが怪しそうな奴と高級ホテルに入っていきました。俺はこのまま待機します]
[分かった。不審な点が見えたら報告するように!]
[了解]
ケインさんへの報告を終えたドキュノは通信を切り、ホテルの裏側に身を潜めていた。
隙を見計らってゼルナが連絡してくれるのを待つためだ。
後にカズナも合流して見張りを始めて数時間……
[こちらゼルナ。ドキュノさん、私は無事ですよ]
[本当か?何かされてないか?]
[えぇ、問題ないですわ。それから先にドキュノさんに教えておきたい事があるのです]
[おぉ、何だ……?]
ドキュノはテレピアス越しにゼルナが無事である事を知って安堵した。
カズナは平静を崩していなかった。
「今回の闇ギルドの調査についてなのですが……」
ホテルの最上階にあるスイートルームのような豪華な部屋で風呂上りみたいな格好のゼルナが一つの小さな魔道具を握っている。
連れ出した男性は泥酔しながら寝ていた。
「面白い情報を掴めましたわ……」
テーブルにある十数枚の紙束があり、その表紙には取引のような記録と「ビデロス・ガルラン」と言う人物名が記載されていた。
ゼルナはそれを艶やかで妖しい微笑みを見せていた……。
危ない橋を渡るような行動は、闇ギルドの調査を大きく動かしていく事になった。
同時にイントミスを巻き込む黒い陰謀が、更に加速するトリガーになる事も知らずに……。
「面白かった!」
「続きが気になる、もっと読みたい!」
「目が離せない!」
と思ったら、作品への応援をお願い申し上げます。




